第64話 異変
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俺とウェイバーがデヴォンシャーに帰って来たのは夜の9時過ぎになっていた。ちなみにサムエルは本人の希望でソリオンで住まわせてもらえることになった。
「おっす。たっだいま~」
まだ酔いが残っている状態だったが早く皆に会いたくて急いで食堂に入る。
食堂には渡瀬さんも含めて全員が揃っていた。いち早く俺とウェイバーに駆け寄ってきたのはエノキだった。
「タイチ、ウェイバー!どうだった?……うわっ酒臭っ!」
「おうただいまエノキ。ロジャーとの交渉上手く行ったぞ!ちょっとは見直したかー?んん!」
そう言って俺はエノキの頭を掴んで揺らした。
「わっ、やめろ!え?なに?タイチあんためちゃめちゃ酔ってんじゃん!……え?ど、どうなってんの??」
エノキは酔ってバカになった俺の様子に戸惑っている。そしてエノキを見て俺は思い出した。
「あ、そうそう、お前とマウロは無罪放免!……ってロジャーが言ってたぞ。よかったなー」
「えええーーーマジ!?やった……タイチありがとーーーー!!」
両手を上げて万歳し喜ぶエノキ。マウロも軽く頭を下げてきた。
「……ありがとう太一、ウェイバー」
ちょっと困惑した顔のジャンタンは俺とウェイバーに水を渡し、まだ酔いがマシなウェイバーに聞いた。
「ウェイバーさん。ど、どうなりました?なんか二人共いい感じに酔ってますけど……ロジャーは何て?」
「いやー、もう満点だったよ。ロジャーともこんな感じで酒を飲み交わしたんだ。なあ太一!」
「おう!」
「ええ!ロジャーと……!?」
驚きの声を上げるジャンタン。俺も付け加えた。
「ははっ。そうだぜ!向こうの秘密もこっちの秘密もほとんど全部ぶっちゃけたよなウェイバー?ロジャー意外と話の分かる爺さんだった!ははっ」
俺はしっかりロジャー達との話の内容を伝えようとしたが、生まれて初めて酔っ払ったこともあり具体的な言葉がなかなか出て来なかった。
皆んなが集まっていることろで俺は香織の姿を見つけ、笑顔で抱きついた。
「香織ちゃん!――会いたかったぞーうおおおお!!」
「ぎゃー!ちょっ……た、太一!あー……もぉー、しょーがないなー」
香織は苦笑しつつも肩を貸し、俺を長椅子に連れて行ってくれた。即横になる俺。
香織は俺の頭を太ももの上に乗せて背中を撫で撫でしてくれた。幸せ!
柔らかい香織の足の感覚を頬に感じながら、しばらくみんなの方をぼんやり眺めていた。
そうしていると、ある程度酔いが覚めたウェイバーがロジャーとの話の内容を話し始めた。
「……というわけだ。論理的に相手を詰めていくタイプの俺じゃどうやってもロジャーに心を開かせる事が出来なかった。そこを太一が全く逆の方法で踏み込んでくれたわけだ。ナイスだ、太一!」
「な、なるほど……」
ウェイバーの言葉に頷くジャンタン。
「おかげで今回は最高の結果が残せた。俺も勉強になったぜ。はははっ」
ウェイバーは俺に賞賛の言葉を送る。
「いやー、しっかし太一がロジャー相手にそんな話が出来るなんてな。正直侮ってたわ、悪りいな太一」
ジャンタンは俺に両手を合わせ軽く頭を下げた。
「はは……でも俺、考えて言ったわけじゃないからさ。ちょっと複雑なんだけどな」
それは俺の正直な気持ちだった。嘘が苦手なのは性格だしこれからも変わらないだろう。
「逆にそれが良かったんだろうな。下手に俺みたいに相手がこう来たらこう言い返そうみたいなんじゃなくて、本心をそのままぶつけた事に価値があったという事だ」
なるほど、まあ結果オーライだ。実社会においてはコレが原因でハブられる経験があったが、ここにいる皆はあたたかい。
「よし、これからは『魔王襲来』に備えてまた段取りを考える。ロジャーさんや協会の幹部たちとも打ち合わせしねーとな。あと太一と香織は引き続き科学魔法の習得頑張ってくれ」
「オッケー」
「うん」
ウェイバーに励まされ笑顔で答える俺と香織だった。
そうこうしているうちにクロエが釜飯と焼鳥、そして煮魚を作ってくれた。おお、今日は和食か!
「皆さんどうぞ。お口に合うかわかりませんが」
俺達は皆クロエに感謝した。
「うわーめっちゃうまそうじゃん!頂きまーす」
早速釜飯を貪るエノキ。はえーな。
「ありがとクロエ。……っていうかあんたちょっと香織に似てるわね顔」
シャロにそう言われ香織の方を見つめるクロエ。俺を膝枕している香織と目が合いお互いちょっと恥ずかしそうに微笑んでいた。
そう言えば俺も酒飲んだけど飯は食ってねーな。腹減った。
――と言うわけで皆でテーブルに用意された夕飯を食べた。めっちゃくちゃ美味かった。ありがとう、クロエ。
他の皆も満足した様子で食事をしていた。
――そして俺と香織が「そろそろ群馬に帰ろうか」というときに異変が起きた。
ダッバーフの様子を見に行ったジャンタンが食堂に帰ってくると焦りながらこう言った。
「お、おい皆!ダッバーフがいねえ!……だ、誰かアイツをどっかに移動させたか?」
それまで飯を食ってのんびりとしていた一同は驚いた。
「ダッバーフ……アイツはたしか太一に殴られて気絶してただろ?それに椅子にくくりつけてたから意識が回復しても自分で動けないはずだ。ただ、部屋に鍵はかけてなかったから外から誰かが出す事は可能だが……」
ウェイバーの言葉にさっきまでののんびりした雰囲気は一転した。皆の顔に緊張感が走った。
俺もそんなバカな……という風に一気に酔いが冷めた。
そしてジャンタンが自分も含めて皆を一箇所に集めた。俺と香織も一応集まる。
「ウェイバーさん。これで……」
ジャンタンが何かをウェイバーに促す。
ウェイバーは緑の魔法陣を展開させた。『読心』だ。しかも今回の魔法陣は入念に描かれていて僅かな動揺も見逃さないようにしている……。
「俺は皆を信じてるぞ。ダッバーフを出したのは誰だ?」
「……」
皆は一切言葉を喋らずに押し黙った。しかし――。
「……誰一人おかしな記憶も動揺もない……ジャンタン、一応信用のために俺を『読心』で調べてくれ」
自分のことも調べて潔白を証明するウェイバー。しかし俺は一緒に行動していたので、ウェイバーが犯人でないことは知っている。
ジャンタンも『読心』で再びウェイバーを含めた全員を調べるが全く不審なものはいないという。
ウェイバーは悩まし気な顔をしながら頭を抱えた。
「こうなったらもう部外者としか思えん……ムルファー団の生き残りか?」
それを聞いてエノキが声を上げた。
「兄貴!」
マウロはうなずく。
「オーケー!リア」
二人は犯人を捜索するべく食堂を飛び出した!そいつはまだこのデヴォンシャー内にいるかもしれない。
ちなみにダッバーフのいた部屋はこの食堂から100メートルは離れている。ここにいるメンバーだと、ハイドの最大感知半径がエノキの50メートルだから部屋に誰かが侵入しても誰も感知できないことになる。
「科学魔法使えるヤツは手分けして犯人を探してくれ!」
ウェイバーとジャンタン、シャロ、ジョージ、そしてクロエがそれぞれ食堂を飛び出していった。
あっという間に人がいなくなり俺達はあっけにとられた。
「……やっぱり科学魔法必要だよね。なんか悔しいなー」
香織は口を結んでそう言った。
「んー、まあしゃーねえよ。俺達も探そう。犯人もずっとハイド使ってるとは限らないし」
――ふとここで俺はムルファー団に捉えられていたあの女の子のことを思い出した。
「なあ香織。あの子どこにるんだっけ?ほら、ムルファー団のアジトから助け出したあの女の子」
「え?たしか……眠たそうにしてたから図書館のソファーに寝かせてあげてたんだけど」
「見に行こう」
「うん!」
というわけで俺達が早速確認しに行くと――、そこに少女の姿はなかった。
代わりに一枚の紙が置いてあった。
しかし、なんて書いてあるのかさっぱり分からない。
「エノキやマウロに見てもらおうよ」
香織の言うことに俺はうなずいた。
一度全員を集めてマウロに手紙を読んでもらうとそこには恐るべき内容が書かれていた。
『ササキタイチ、それとカオリとかいう女。この少女を助けたければ二人共、明日の昼過ぎにヴォイニッツ洞窟まで来い。必ず二人だけで来い、でなければ子供とお前の命はない』
――というものだ。
「くそっ……」
俺はせっかく助け出したあの子を守ってやれず悔しい思いでいっぱいだった。同時にダッバーフを連れて行ったのもコイツだなと分かった。
「……太一」
俺が憤っていると香織は背中から俺に寄りかかってきた。その温かさに俺の心はすこし癒やされたが香織もこんな手紙残されて不安だろう。
ここでエノキが疑問を口にした。
「でもウチも兄貴もずっと食堂にいたけど隣の図書館に誰かがハイドで入った気配なかったぞ?科学魔法使ってなかったってコト?」
「い、いや……これは……とんでもない事になったぞ……」
俺はそう言うマウロの顔を見てびっくりした。それは恐ろしいまでに険しい顔だった。
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