第63話 懇親
完結まで毎日投稿します!
「かも知れませんね」
ウェイバーはニッコリと爽やかな営業スマイルで言った。
この雰囲気の中こんな風に落ち着いた挙動は俺には絶対ムリだ!
俺はあらためて場馴れしているウェイバーに感心した。
「端的に言うと今回の大爆発はドラゴンの攻撃によるものです。恩を売る訳ではありませんが、あの爆発は本来ソリオンを直撃していたハズでした。我々の手でなんとか軌道をずらさせたのです」
「……ドラゴンの仕業だと言うのは境界警備隊から聞いとる。問題はその出所だ」
ロジャーはやはり険しい顔を崩さない。てか王都を守った事にちょっとは感謝しろよ……。
ウェイバーは手をサムエルの方に向けて紹介するようなポーズをとった。
「はい、それはムルファー団にサモナーとして連れてこられた彼の召喚術によるものです」
「サモナー……だと?」
ロジャーは目を見開いた。
「はい、召喚の為の魔力は子供を使ったそうです……百人規模だったとか……」
最後の方はウェイバーは少し目線を逸らして語った。
「ひゃ……百人だと!?ふざけるな!……おのれ彼奴等……一人残らず皆殺しにしてやる……」
口元を歪め憤怒の表情で怒るロジャー。
え?なんだこの爺さん……?
俺には今、目の前にいるロジャーの怒り方がどう見ても本物にしか見えない。
なら、これから行われる「魔王襲来」はどうなんだ?やろうとしてる事ムルファー団と変わんねーだろ!?
ウェイバーの隣で密かに憤る俺だったがウェイバーは説明を続ける。
「ムルファー団は我々の手で既に壊滅させました。……ですが今この世界は危機的な状況です!」
ウェイバーは迫真の表情でロジャーに迫った。
「何?」
「サムエルによれば、召喚術を使うために他にも数人の魔道士が秘密裏に集められていたと聞いております!しかも集めたのはあのフレデリック氏との事です!!」
「ぬっ!!……」
ロジャーはギクリとした表情を浮かべる。
「これはとんでもない事ではありませんか!?ドラゴンを召喚できるサモナーが他にもいるという事になれば、いつ世界が滅亡してもおかしくは無い!一刻も早くフレデリック氏を呼び、何の目的でサモナーを集めたのかを問いたださねばなりません!!」
「っ………………!!!!」
ロジャーは絶句した。
流石ウェイバーとしか言いようがない。ロジャーの方から「魔王襲来」の話をするよう誘導するってのはこういう事だったのか……!
さらにウェイバーは畳み掛けた。
「このオルターには我々境界人も少ないながら居住させて頂いております。そしてこちらの人々との交信があり、家族があり、そして異世界なれど人と人との絆があります!我々境界人としても見過ごせるものではない!ロジャー先生。早くフレデリック氏をお呼び下さい!」
「あっ……ぐっ………………」
唇を噛み、苦渋の表情を浮かべるロジャー。しかし返事はこうだった。
「ダ、ダメだ。これはこちらの世界の問題だ。フレデリックには後から俺が話を聞いておく」
「ロジャー先生……本当に宜しいんですか?この件では我々境界人もフレデリック氏、ひいては魔法協会に不審感を抱き始めるものも少なくありません。新たな火種にならないとも限りませんぞ!」
ウェイバーはあくまで論理的に話を進めるが俺は違った。言いたい事が山ほどある!
「ロ、ロジャー……先生。それじゃダメだろ?」
俺は我慢しきれなくてついに口を開いた。
ウェイバーは俺の発言に目を見開いて驚く。
「なんだと?小僧」
ロジャーはやはり威圧するように俺を睨んでくるがもはや関係ない!言いたいことを言ってやる!!
「あんた、さっき子供が犠牲になってめっちゃ怒ってたじゃねーか!俺達境界人だってそんな被害これ以上出してほしくないんだ!もしこのまま俺達に何も話さないで誰かに強い魔物を召喚されてソイツが村を襲ったりしたら――こっちにしたらあんたらのやってる事はムルファー団と同じだぞ!!そんなん俺達が納得出来るわけねーだろーが!!」
………………。
部屋の中が静まり返る……。その空気は果てしなく重い。
それでも俺はロジャーから目を逸らさずにいた。
やっぱり俺は嘘が苦手だ。ロジャーに対して抱いていた不信感をそのままにしておく事はどうしても出来なかった。
でも俺は今ウェイバーが積み上げて来たものを一瞬で壊してしまった。ごめんウェイバー。
……すると俺はウェイバーに頭を地面スレスレまで押さえつけられた。
「し、失礼致しました!」
ウェイバーも俺と共に頭を下げていたが俺は反発した。
「な、なんだよ。俺は間違った事は言ってねえ!」
するとロジャーから質問が来た。
「名は何という?」
「……佐々木太一」
「お前、酒飲めるか?」
それは意外すぎる一言だった。
ウェイバーも「こ、これは……!?」という感じで困惑した表情を見せていた。
それから酒瓶を持って来たロジャーに器を渡された。
地べたに座るロジャー。その目は不思議と優しかった。先程までとはエラい違いだ。
「ちっと外してくれんか?このササキタイチという男と話がしたくなった」
ウェイバーにそう話すとウェイバーはちょっと微笑んで軽く礼をし、それから俺を見て再び笑顔になった。その表情はウェイバーにしては子供っぽくてすごく純粋なものだった。そしてサムエルを連れて部屋から出ていった。
「俺には昔、孫娘がおってな。普段はおっとりしてるが自分の意見をしっかり持っとるやつでな……」
……なんかその辺のおじいちゃんみたいな事を話し始めたぞ。うーむ、とりあえず話を聞いとこう。
「今のお前さん――タイチが言ったような事をあやつも言うとった。境界人に全ての事を正直に打ち明け共に戦うべきだってな。まあ、もう生きてはいないがな」
「……」
俺はどう答えて良いか分からなかった。
「そもそもここ数十年、俺にハッキリ物を言ってくる奴なんぞ今のお前さんを除いて誰一人おらんかった。皆、極端に俺を恐れ従順になるか利を求めて媚びてくるか、あるいは最初から狂っとる奴か……」
……まあそうなるのも分かる気はする。
「んー、だって正直あんた怖えんだもん。見た目も態度も喋り方も」
ロジャーはうつむきクックッと笑って酒を一口飲んでから言った。
「お前、気に入ったぞ。真実を話してやる!」
――それから俺に話された事は以前見たあの動画の内容と全て一緒だった。
「じゃああんたらは魔王襲来に合わせて魔界から魔物を呼び出してたんだな。そんで肝心の魔王は実在しない(まあ知ってるんだけど)」
「ああ、だが誤解するなよ。俺らも税金欲しさだけでそんな事しとる訳じゃない。魔界から魔物を呼び出す――いわゆるガス抜きを怠るととんでもない被害が出る。これは歴史的事実だ」
それは動画でもバリーって人が言ってたな。
「思ったんだけどそれ、魔物呼び出してすぐに倒せば良くない?」
「それが出来たらええんだが。一気に大量に出てくるから始末出来んのだ。その中にドラゴン族やデーモンがいたら一気にこちらが劣勢になる」
それを聞いて俺は前のめりの姿勢で、ロジャーに提案した。
「じゃあ俺が魔物全部倒してやるよ。俺は――光の能力者だから」
俺はロジャーの前で小さめの光輪を一つ出した。
「光の輪か!……」
ロジャーは小さくつぶやき、しばらくぼんやりと眺めていた。
「この状況、20年前と似とるのう。あの時も光の能力者がおってな」
「レオンのこと?光の剣士の」
その名を聞いてロジャーは目を大きく見開いた。
「お前も知っとるんか。――レオン。あいつぁめちゃくちゃ強かったぞ!俺は光の能力者はお前を入れて今まで四人見とるけども、ズバ抜けて強かった」
「へー、でもレオンは何で死んだの?魔王もいないのに」
「人間は罪深いもんだ……レオンに嫉妬していた魔道士がおってな。そいつに古代の消滅魔法を背後から打たれちまった」
「え……」
「それを庇おうとしたのが俺の孫娘だ。二人は恋仲やったからな。結局二人とも一緒にあの世へ逝っちまったよ」
そう語るロジャーは肩を落として小さく見えた。
「そっか」
俺にはそう言うことしか出来なかった。
「タイチお前にもそう言う女は居るか?」
「いるよ!めちゃくちゃ好きだぞ!」
「はっはっは。良いことだ」
そして俺はウェイバーを呼んでいいか聞いたところ、ロジャーはちょっと不機嫌そうに「……ん、入っていいぞ」とだけ言った。
ウェイバーは「失礼します!」とバリバリの営業スマイルで入って来た。
基本的に相性悪いんだろうな、この二人。
それから皆で酒を飲み交わした後、ウェイバーはエノキやマウロ、そしてクロエの事も忘れずロジャーに話してくれた。
「フゥー……まったく、エウラリアはすぐ解放するつもりだったのにマウロのやつ早とちりしおってからに……」
「確か人を殺しちゃったんだっけ?」
エノキはともかく殺しを行ったマウロはさすがに許してもらえないだろうと思っていたが――。
「ま、俺も若い頃は気に入らんやつを魔法対決とかでぶっ殺したりしとったからのぉ。まあ大目に見たるわい!」
あ、この爺さんやべえ……。
「もっとも今は強めの魔法を使うだけでも叩かれる――まあ平和になったもんよ」
そしてちょっと言いにくそうにロジャーは話した。
「その……クロエの件は済まなかったな……」
ウェイバーもわざとらしく眉をひそめた。
「全くスパイを送り込むとは、先生も人が悪いですな」
「いや、ウェイバーも監視カメラ仕掛けまくってたじゃん。お互い様だろ!」
――ウェイバーに突っ込む俺。
こんな会話が出来るなんて数時間前までは信じられないことだった。
「ぶはははは」
「あはははは」
会長室に響き渡る笑い声。
それからサムエルも入れて俺達は酒を飲み笑い、全てのことを包み隠さず話し合った。
俺はここに来てロジャーに会って本当に良かったと思った。
しかし――、俺やウェイバー、そしてサムエル、そして……ロジャーでさえも気づかなかったがその場所には悪魔がほくそ笑んでいたのである。
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