第53話 新たな脅威
しばらく毎日投稿します!
「えーーーっ、ホントだ……凄い!!」
今度は香織の声だ――。
おそらく俺は今、シンクロができてエノキと同じ白い魔法陣が足元に出来ていることだろう。
しかし不思議なことに俺の集中状態は続き、足元も見ず、一言も発することなくずっとエノキの方を見て動きを真似し続けた。
エノキは俺を見て、エノキにしては上品な笑顔を見せたが何も言葉を発さなかった。いいぞー。
俺はこの集中状態をしばらく続けたかったのだ。体は軽く頭はスッキリして気持ちがいい。
それから10秒程たってエノキは動きを止めた。
それを見て俺は初めて自分の足元を確認すると――あった!
予想通り俺の足元には白い魔法陣が形成されていた!やったぜ。
ここでエノキがホールドしていた風魔法の微風を放つ。すると辺りに涼やかな風が吹く。
俺もそれにならって微風を使うとエノキが吹かせたのと同じような風が吹いた。凄い、これがシンクロか……!
この一連の流れで俺は一度も呪文の詠唱をしてないし、自分の魔力で魔法陣を描いた訳でもない。全てエノキのパクリである。
「……シンクロすげー!」
それまでずっと黙っていた俺はようやく口を開いた。
すると意外な事にエノキが褒めてきた。
「やるじゃんタイチ!香織より先にシンクロ出来ると思ってなかったぞ!」
そこへ香織もやってきて悔しさを滲ませる。
「私も、太一に先越されるなんて。く、悔しい!」
「いや……お前ら俺を見下しすぎだろ?」
まったくもう。
話を聞いていたウェイバーも拍手して驚いている。
「おめでとう太一。まさか練習初日からシンクロ出来るとは驚きだぜ……。お前ら明日からはエノキに教えてもらえ。その方が多分早い」
「オーケー。また明日も頼むぜエノキ!」
「……しょーがないなー。言っとくけど今のはシンクロさせやすいようにウチがめっちゃ頑張ったんだからな!?レベル1の『微風』使うだけなのに時間めちゃくちゃかけたし――自惚れんなよータイチ!!」
「はいはい分かった分かった」
俺はニヤニヤしながら興奮するエノキをなだめた。
その横には両手を上げてやる気を見せている香織がいた。
「明日は私も絶対シンクロするー。頑張ろっと」
俺はやはりニヤニヤしつつ、いつも前向きだなーと感心して香織を眺めていた。
「よし、じゃあ今日はこれで解散!また明日朝ここで会おう」
という感じで最後はウェイバーがまとめた。
――別れ際に香織が思いついたようにエノキ達にあることを聞いた。
「そういえばエノキ達オルター人は地球に来たりはしないの?」
それを聞いたエノキは大げさに歯を食いしばったスゴイ顔をして答えた。
「ぜーーーったい行かない!私一回行った事あるけど体は重たいし歩くだけでもめっちゃ疲れるし何より魔法が一切使えないし全然良いことない!もうマジで地獄地獄地獄地獄――!!」
頭を抱えて叫ぶエノキ。そんな拒否反応を示すとは……予想外だ。
見ると近くにいるマウロもエノキとそっくり同じように頭を抱えている。その姿が面白くて俺は吹き出した。
「オルター人、特に魔法使いは地球の環境と相性が悪すぎるね。戦士タイプの人間なら地球でも順応出来るかも知れないけど……」
それを聞いて俺はちょっとがっかりした。
「そうなんだな。俺、今地球で自分の家建てたりしてるから、お前ら招待してみたかったんだけどなー」
それを聞いてエノキはちょっと目を輝かせたがすぐに渋い顔になった。
「面白そうだからいってみたいけど……うー、怖いなー」
「怖いって何が?」
マウロがそれの意味を説明する。
「僕等魔法使いにとって『魔法が使えない』という状況は死に直結するんだ。例えば魔物と対峙した時、君達にとっては物理攻撃で倒せる弱いモンスターであっても魔法の使えない魔道士にとっては恐ろしい猛獣と同じさ。襲われたらひとたまりもない」
なるほど。そういうことかー。
「いやでも地球にはオルターみたいなモンスターはいないぞ。日本だとせいぜい熊とか猪ぐらいか?まあ気が向いたら来いよ二人とも」
「……気が向いたらね」
――というわけで俺と香織はデヴォンシャーから小屋に繋がる境界へ帰ることになった。
「ね、太一。シンクロ出来たときどんな感じだった?」
その途中で香織はシンクロについて聞いてきた。
しかし感覚的なものなので説明がかなり難しい。なるべく分かりやすい例えを探すと――あった。
「……香織、お前盆踊りってやったことある?」
「ぼ、盆踊り!?」
「俺、昔夏祭りで輪になって踊ってたんだけど。なんかだんだん無心でただ踊るだけっていう不思議な催眠状態みたいになってきてちょっと楽しかったんだけど、アレに結構似てたかなー」
香織は感心したような顔をしていた。
「へー、夏祭りかー。でも私、盆踊りって参加したことないなー」
「あ、でも昔体育の授業で創作ダンスやった時、ちょっとそんな感じになったかも……うん、分かった。ありがと太一」
「おう!頑張ろうぜ」
そこからいつも通り境界から群馬へ帰り、住居用の小屋で一息つく。
「ふーっ……」
俺と香織は小屋の壁を背に座り込んだ。
今日も濃い一日だった――でも心地よい疲れだ。俺は自然と笑顔になっていた。
俺は昨日のように香織とイチャつこうと思ったが、香織はシンクロの事を考えているのか斜め上を見つめてボーッとしている。
今日はそんな気分じゃなさそうだ。残念!
それから俺達はお互いボーッとしたまま、今度の事やら適当な会話を交わした。
「……ねえ太一。今後、私達は魔法協会が召喚した魔物相手に戦えるようになれば良いんだよね?」
「……おう、ロジャー達の話がマジならそうなるよな。それにしても……監視カメラとは考えたなウェイバー」
「思ったんだけど、魔法協会が魔物を召喚してるってことはサモナーが協会側にいるってことだよね?」
「まあ……そうなるかなー。そんでサモナーの存在も魔王と同じように機密事項なんだろうな」
「なんか魔法協会ってやりたい放題やってるように見えるけどオルターの王様は何してんのかな?」
「王は飾りみたいなもんで実際政治やってるのは王室の大臣達と騎士団の幹部だってウェイバーが言ってたぜ?そんでソイツらの天下り先が魔法協会。だからロジャーが実質オルターを支配してるってよ」
「ふーん……でも今のところロジャーは境界人との争い事は避けたい感じだったよね?あの動画によると」
「うん、まあだから今んとこシンクロと科学魔法の習得。対魔物戦のための修行――で良いんじゃね?」
「そだねー。ところで太一、貯金20万円おめでと!」
「おっ、そうそう!明日には40万、明後日は60万!やっぱなんだかんだ金は稼げるよな!ふふふ、あはははははっ!」
俺は声を張り上げて笑った。
「よし、帰るか!」
「あっ!……」
俺は両腕で香織の体をすくい上げお姫様抱っこのスタイルで軽トラまで運んだ。
その途中で香織は俺の背中に両手を回してきた。
あー幸せだ。マジで。キスしたい――と思ってたら香織の方から唇を合わせてきた。
しばし足を止める。お互い貪るように舌を絡める。俺の股間は爆発寸前である。
絶対小屋にソファ置くぞ!俺は心に決めた。
その後、俺は家に帰ると珍しく親父が真剣な表情でテレビを見つめていた。
「なんだ?……」
親父が見ていたのは夕方のニュースのようだった。
――中東のアラビア砂漠を拠点として発足した新たな武装集団『ムルファー団』ですが。依然として他の武装組織を制圧しながら勢力を拡大しています。
『我々は新たな神の使いだ。異教徒達は排除する』などと宣言しているとの事です。――
……と、アナウンサーは話していた。
「中東ってよく分かんねーな……。なあ親父」
俺が後ろからそう言うと親父はパッと振り向いた。
「お、太一。帰ったか……お前最近いつもどこ行ってるんだ?」
俺はギクリとしたが適当にごまかそうと冗談っぽく答えた。
「え、えー。……イ、イラク……」
「フンッ、ギャグのつもりか?」
親父は呆れたように笑った。
ウェイバーが言ってた「平常心を保つ」こと――。出来てないなーまだ……それに改めて気付かされたのだった。
それにしても、マウロもムルファー団が危険とか言ってたけど……やっぱりテレビでやってるこの集団のことなのか?それとも名前が同じだけか?
その答えは翌朝、デヴォンシャーに着いてすぐに判明することになる。
――俺と香織はいつも通り銀行で20万円を下ろし、図書館に向かう途中、ウェイバーとジャンタンに出会った。何やら二人共顔が怖い……。どうしたんだ?
「おう太一、香織。今日はシンクロ練習の前に任務だ。――とある境界人を捕まえてここに連れてきて欲しい」
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