第52話 シンクロ出来てしまう?
72話で完結予定です。しばらく毎日投稿します!
皆が不思議な顔をしているのを眺めながら俺は発言の意味を説明しようとした、しかし――。
「なんか会ってみたいんだ……実際に」
としか言えなかった。
100%俺の好奇心から来ているものだったのでそうとしか言えなかった。
キョトンとした表情で俺を見つめながらジャンタンが聞いてきた。
「いや、太一、お前会ってみたいって。目的もなく会える相手でもねえぞ?」
「……そうなんだけど……何ていうか上手くいえないけど会っといた方がいい気がするんだ。何でかは俺も分かんねーけど」
本当に俺にもよく分からない、天の声のような不思議な感覚だった。でも決して後ろ向きなものではない。
「ど、どうします?ウェイバーさん……」
ジャンタンは困惑しながらウェイバーに聞いた。
ウェイバーはしばらく考える仕草をした後口を開いた。
「何か交渉の様なものがしたいとかではなく――単純にロジャーを直に見たいと?」
「そう。ダメか?あえて理由をつけるなら俺は光の能力者だ。過去の事件の事もあるしロジャーが一番警戒してる人間なハズだ。その俺が敵意がない事を直接伝えるのは悪い事じゃないと思う。今後の交渉にもいい影響が出るかもしれない」
とっさにひねり出した動機だったが自分の言葉ながらそれっぽいなと思った。
ウェイバーは目を瞑りしばし考えてからこう答えた。
「太一、ロジャーと会う事自体はいいかも知れんが一つ問題がある」
「何?」
「俺達は『魔王襲来』の事を知ってしまっている。もしロジャーがお前に読心を使い、魔王について問いかけられたときお前は平常心でいられるか?」
「あ……無理だ。俺そういう嘘つくみたいなのめっちゃ苦手だし……」
もしそこで動揺したりすればロジャーは絶対問い詰めてくるだろうな……なら――。
「じゃ逆に正直に『魔王なんて居ないんだろ?』って言うのはどーだろう?」
ちょっと冗談っぽく俺は言った。
ウェイバーは頭を抱えた。
「あのなあ、なんでも正直に話すのが良いってもんじゃねえぞ。組織同士のやり取りでは時に上手く嘘をつかなきゃならん」
一方、ジャンタンは俺の意見に寄り添ってくれた。
「でも太一の気持ちも分かるなー。協会側の本心っつーか腹の底が知りてーわ」
エノキも賛同して怒っている。
「そうだよ全く!魔王討伐税とか散々巻き上げやがってアイツ等むかつくー」
「なあエノキ。読心を防ぐ方法ってあるのか?やっぱりこっちも読心覚えて対抗しなきゃだめかな?」
「いや、向こうの読心に対抗して緑の魔法陣出した時点で隠し事してますって言ってるようなもんじゃん?タイチ、馬鹿なの?」
「う、うっせーな。でも確かにそうか……」
ここでマウロもあの時の事を思い出すように言った。
「最初に僕らがデヴォンシャーに来た時もそれで一悶着あったよね」
話を聞いていたウェイバーはここで衝撃の事実を述べた。
「実はあの時の読心で、俺の中でクロエがスパイなのはほぼ確定してたんだ」
「え!?」
「だからしばらく食堂やらを案内しつつクロエを監視してたんだが――」
ウェイバーはしばらく黙っていた。
俺達もウェイバーの続きを待った。そして――。
「本人は相当思い詰めていたようだ。スパイがバレたら自殺するつもりだったらしい」
「!?」
マジかよ……。全然そんな風に見えなかったが。
「俺への好意は間違いなく本物。しかしそれを利用してのスパイ行為に罪悪感を感じ続けていた。誠実な性格もあって協会側を簡単に裏切る事も出来ず板挟み状態だった……」
クロエを見るとちょっとうつむいてウェイバーの隣にちょこんと立っている。
「だから俺ァこんな良いやつがそんな理由で死ぬぐらいならこのデヴォンシャーで暮らさないか?……って提案したんだ。ロジャーや協会の人間は『着信拒否』だ!っつってな」
ウェイバーは自分のスマホを指で挟んでひらひらと振ってみせた。
「なるほど、良かったじゃんクロエ」
クロエは満面の笑みで「はい!」と答え、ウェイバーの腕にしがみついた。
……ってかクロエはスパイとか元々向いてないんだろうな。純粋すぎるもん。
「――というわけで太一よ、お前はまだロジャーとは合わせられん。オーケー?」
ウェイバーは確かめるように俺にそう言ってくる。
「おう、まあしゃーねーな。でもさ、魔王襲来の事はウェイバーも知ってるわけだろ?次ロジャーに会ったとき読心されたらどうすんの?」
「魔王システムを知らない設定を自分の頭に作っておくんだ。受け答えはもちろん、読心を受けた時に動揺しないよう俺は常に自分にプレッシャーをかけて楽しみながらメンタルを鍛えているぞ、ふふ。……ああ、別にマゾとかじゃないぞ?間違うなよ」
ジャンタンは笑った。
「ウェイバーさん心身共に鍛え方半端ねーからなァ!」
「でも要はコレ、平気で嘘をつけるようになれって事だろ?」
「ははは、悪い言い方をすればそうなる。だが意外と必要な能力だったりする」
「嘘も方便か――」
そのとき、俺は過去を振り返ると人間関係で揉めたときは正直に言い過ぎて衝突するパターンが多かった事を思い出した。教訓にしておこう、出来ればだけど。
俺はスマホで時間を確認するともう5時になっていた。
「今日はそろそろ帰るか。香織」
「そだねー。明日こそシンクロ出来るように頑張ろうね」
希望にあふれた香織の顔とは対象的に俺の表情は冴えなかった。
シンクロという言葉が数学のアルファベットの公式みたいに学習意欲を奪っていく……うーん、なんとかならねーかな?
ここでジャンタンは俺と香織に一つアドバイスをくれた。
「太一、香織。モノマネだ!」
「え!?」
「芸人とかがたまにやってるだろ?あれ家でやってみ」
俺も香織も不思議そうな顔でジャンタンの見つめる。どゆこと?
「ものまねって……ジャンタンそれ魔法関係あるか?」
俺は素直に聞くとジャンタンは補足説明を始めた。
「モノマネで相手の声や動きを単純に真似する事は出来ると思うけどよー、そっから一つ上の段階で『相手の雰囲気を自分のものにする』ってのが出来るとシンクロの習得が早くなるぜ!」
……いや、なんか良く分からん。
「何だそりゃ?」
香織も首をかしげる。
「相手と同じ『感覚』になるってこと?」
香織を指さして「そう!それ」と言うジャンタン。
「いや、それってシンクロじゃん?どう違うん?」
「魔法的に同じ感覚になるのがシンクロ。声や動き、所作、雰囲気を真似るのがモノマネ。分かるか太一?」
うーん……。まあ正直良く分からんけど家でやってみよう。
「……とりあえず後でやってみるわ」
「うん。ありがとうジャンタン」
と、そこへウェイバーが会話に入ってきた。
「あー、もしかしたら俺はシンクロする対象としてイマイチなのかもな。やはりここはプロに任せるべきだな……」
ウェイバーはエノキを向いてニッと笑っていた。
俺も香織もエノキを見た。
「え?ウチ?」
自分を指差してちょっと驚いているエノキ。
俺も驚いた。エノキなんて一番シンクロしにくそうなのに……。
「うー……何ウェイバー?こいつらがシンクロさせやすい様な魔法使えってこと?」
「はっはっは。御名答!できるかエノキ?」
「んー……シンクロすることはあってもされたことなんて私、ほっとんどないからなー……ま、一応やってみるけど」
快諾というわけではなかったがエノキは協力してくれるみたいだ。
というわけで5メートルほど離れたエノキを観察しつつ、さっきのジャンタンの助言も踏まえてエノキのものまねをやってみることにした。
まずエノキはちょっと考えてから気をつけの状態で立ち、掌を前に向けた。
形だけだが俺達も真似をしてみる。
それからエノキは手を上の方に持っていきまた下げる――といった動作を数回繰り返す。側から見たら怪しい宗教みたいだ。
俺はここで先程のジャンタンの言葉を思い出し、エノキの「動き」ではなく「感覚」に集中してみることにした。これは恐らく魔法を使える人間にしか分からない感覚だろう。
エノキが何を表現したいか?どんな魔法の流れを作ろうとしているのか?それを感じ取るように集中しながら真似をする。
エノキを見てみるとまだ魔法陣は現れていない。もちろん俺の方も。しばらくその状態を続けると、俺はなぜか気持ちよくなってきた。不思議だ……。いや、別に変な意味ではなく。
なんというか……余計な言葉が頭の中から除去され、非常にすっきりしたクリアな状態でエノキの動きを見つめている。なんだこの感覚……。フワフワした雲の中を漂うような不思議な感じ……。
でも嫌いじゃない。むしろなんか集中しまくってて楽しい。――これはいい。
――そのうち薄っすらとではあるがエノキの足元に白い円陣が浮き上がってきた。俺は気にせずさっきからの不思議な感覚を維持するように努めた。するとジャンタンの声が聞こえた。
「おお、太一!お前それがシンクロだ……!やったな!」
なぜか俺はその言葉の意味を理解しているはずなのに、足元を見ずエノキの方を見続けていた。
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