第51話 会ってみたい
しばらく毎日投稿します。
「え!?……あ、あ、……」
答えに窮してうろたえるクロエ。ウェイバーはちょっと微笑んでこう言った。
「おっと、無理に話さなくていいぞ。座っとけ」
ウェイバーはモニター前の一台の椅子に手をかざした。
「魔法協会のロジャー会長達の会話に気になる部分があってな。ちょっと見てほしいんだ。ああ、別に何も喋らないくていい」
ウェイバーはそう言うと足元に緑の魔法陣を出す。この読心でクロエの真意が問われるのか……。
俺はだんだん緊張してきた。クロエがやはりスパイだったとしたら、本当に殺されるのか?俺としてはもちろんそれは嫌だ!せめて追い出すぐらいで済むんじゃないか?
……でもクロエが自分の感情まで上手く利用してここに潜入するような完全な魔法協会サイドの人間だったら……そんな奴をみすみすデヴォンシャーから追い出すだけってのもおかしい気はする。ああああ、どうすりゃ良いんだ!?
モニターの前のクロエとウェイバーの後ろ姿を見守る俺達。
エノキはウェイバーを凄い目でにらんでいる。クロエをかばいたいのか?コイツ、意外と友達思いだな。
ウェイバーが動画を戻し問題のシーンを再び再生させる。頼むぞ!こちら側であってくれクロエ――!
――「クロエを奴らの自治区に送る計画がある」――。
その瞬間クロエの体はビクンと跳ねた。
ウェイバーの魔法陣は少し大きくなった。
両手で顔を隠し声を上げて泣くクロエ。
「う、うっ……ううっ」
これは……どうなんだ――!?
そして驚くべき事が起きた!
「うあっ、あっ……ぐっ!」
今度はウェイバーまでうめき声を上げ出したのだ!どうやらウェイバーも泣いているようだが……。一体何が何やらさっぱりだ。
ウェイバーとクロエは一分程そうしたままだった。誰も口を開かなかった。
そしてウェイバーはクロエの肩を後ろからそっと抱いた。
「すまなかった……クロエ」
クロエは椅子から立ち上がると嗚咽の声を上げながらウェイバーに抱きついた。
「うっ、わっ……わた、私が悪いんですっ……」
泣いているクロエをウェイバーも抱きしめる。何が何やらさっぱりだ……。
――そしてウェイバーはジャンタンをチラッと見た。
空気を読んだジャンタンは手のひらを振って皆に「出るぞ」の合図を送った。
ゾロゾロと図書館から出て行く俺達。あれ?これはもしかして良い結果なのでは?
俺はジャンタンの顔を覗くとビックリするぐらいの笑顔でガッツポーズをしていた!
「よーーーーーし!多分クロエはこっち側だぞ!ははっ」
その言葉を聞いて俺達は皆喜びの声を上げた!
「うおーーーーー!やった!」
エノキも両手を上げて歓喜する。
「あー良かったー!ウェイバーと戦う事にならなくて良かったー」
「ええ!?」
俺と香織は同時に驚いた。
「いやだってあいつ、クロエがスパイだったら殺すつもりだったじゃん?」
「あ、やっぱお前もそう思う?」
「てかウチ密かにウェイバーに読心使ってたし。確実に殺るつもりだったよアレは」
「マジか!?……でも良かったわー、そうならなくて」
俺はこの時ウェイバーにちょっとした恐怖を感じた。多分情より利を取るタイプだろうなとは思ってたけど結構容赦ないなー。
……いやでも、そんなアイツがいくら読心してたとしても涙を流すって異常だ。よっぽどのことをクロエから感じたんだろうな。
「香織はどう思う?」
「スパイのことは良かったけど、二人がそういう関係になるのはなんかねー。ウェイバーが既婚者じゃなかったら応援してたと思うけど。ミシェルがいるのに……」
眉をしかめる香織。他にも何人か嫁さんいるぞアイツ……と思ったが言わなかった。俺は既婚者とか全く気にならなかったのだが、この辺は男女の違いか?
図書館から満面の笑みで出てきたウェイバーとクロエ。ジャンタンが最初に声をかけた。
「うっす!良かった――どうなることかと思ったぜ!ウェイバーさん」
「おうっ、すまんな気ィ使わせて。詳しくは後で話すがクロエに関しては大丈夫だ。全く問題ない」
笑顔でそう話すウェイバーとすぐ近くで微笑むクロエ。エノキはクロエに駆け寄っていき抱きついた。
「クロエー良かったなーお前。一触即発だったんだぞ!」
「エウラ……エノキ。ありがと。心配かけてごめんね」
クロエもエノキを抱き返す。本当に良かった。まあ香織だけは微妙な表情をしていたが……。
皆が喜びに浸る中、渡瀬さんが注意を促した。
「あの、皆さん。喜んでおられる所申し訳ありませんが、動画の最後に我々にとって危険な人物の情報があります。見ておいてください」
それを聞いて皆渡瀬さんを振り返る。
「危険な人物――ムルファー団、ラーズ神教、虹の手……このどれかの構成員では?」
マウロは聞いたが、渡瀬さんは首を横に振っていた。
この時俺はムルファー団という団体の名前に聞き覚えがあった。しかもこのオルターでなく現代のテレビで……。たまたま同じ組織名だっただけだろうか?
「まあその辺は見て頂くのが一番かと」と渡瀬さん。
「よし!じゃあ皆で見るか」
ウェイバーは何やら晴れやかな表情で皆に言った。なんだかウェイバーからいつも感じていた緊張感みたいなモノが今は感じられない。この人も人間なんだなーと思った。
ウェイバーにならうように皆はまた図書館に戻り、席に着いてモニターを見るとロジャーが話しているシーンから再生が始まった。
「ところでハム。お前、何がよからぬ事を考えてないか?お前の本心だけは俺の読心でも上手く読みきれんのだ」
ハムは目を糸のように細め薄く笑って答えた。
「あいにく仕事柄よからぬ事ばかり考えておりますが、ご心配には及びません。むしろ先生にとって都合の悪い連中を即座に排除してご覧に入れましょう」
軽く礼をするハム。どうやらハムもロジャーに対しては一定の敬意を払っている様子だ。
「そういえば境界人に宣戦布告するとか言っていたバダガリはどうなった?」
「一応、境界人に攻撃したら殺すと警告はしておきましたが――恐らくあのアホウの事ですから……突撃する可能性が高いですね」
ハムは一貫して不気味な笑いを絶やさずに話す。
「これ以上あいつを好き勝手させておく訳にはいかん。境界人からの被害報告が上がり次第抹殺しろ」
「承知いたしました、では私はこれよりバダガリの調査に参ります。失礼!」
そう言うとハムはさっさと部屋から出て行った。
バダガリ……誰だ?
俺がまた厄介な奴が出てくんのか――と思っているとエノキが笑い出した。なんかマウロも吹き出している。
「バダガリってあのバーサーカー!?あはは。まじ!?」
「誰だよエノキ?」
「このテーレ大陸で一番頭おかしい奴!」
「ど、どんな風に?」
「自分が世界最強だと思い込んでて色んなヤツにケンカ吹っかけて毎回ボコボコにされる――みたいな」
それを聞いて俺はちょっと面白そうだと思った。
「へー、面白そうじゃんそいつ!一回戦ってみたいな」
俺とエノキの会話を聞いていたウェイバーは呆れたような笑顔で聞いた。
「そのバダガリってのはなんで俺達境界人を攻撃するんだ?」
「境界人の誰かとバトルして負けて悔しかったから――ってウチは聞いた」
何だそれ!?俺は吹き出した。
マウロも追加で説明する。
「バダガリは誰彼構わず強い人間にケンカ売るからね。ロジャーや王室の騎士団長にも挑んで半殺しにされたりして懲りたかと思ってたけど……まあ、境界人にとっては良い迷惑だよね」
「マジか!?そいつスゲーな、根性あるじゃねーかオウ!」
ニヤッと笑いジャンタンは言った。
確かにジャンタンが好きそうなタイプに見える。俺も興味が湧いて来たので聞いとこう。
「もしどこかで会ったら勝負してみようかな。ソイツ見た目とか特徴ある?エノキ」
「めっちゃマッチョでデカイ!ウェイバーよりデカイよ。でも基本的にバカだぞ」
「バダガリか――。オーケー、名前覚えた。いつでも相手になってやるぞ!」
「タイチ、やるからには勝てよ。ソイツをロジャーに突き出して借りを作ってやる」
ウェイバーは冗談っぽく笑って言った。
そして今回の魔王システムの秘密を知った俺達の今後について説明を始めた。
「今んとこオルターでまともに仕事している地球人は45名だ。オルターに駐在しているやつも含めてな。この中から農場警備組とデヴォンシャー警備組に割り振るんだが――」
俺はこの時ちょっと天狗になっていて、ウェイバーの話を聞きつつ別の事を考えていた。
自分の力を思いっきり発揮したい、強いやつと戦ったり話したりしてみたい。光輪もあるしオルターでの戦闘はガチでやったら誰にも負けない――そんなふうに思っていた。
そして俺はここで一つ提案した。
「なあ俺、ロジャーに会いに行ったらダメかな?」
俺がそう言うと皆は「えっ!?」というような表情をした。
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