第50話 スパイ疑惑
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ここでマウロは少し物憂げな表情で答えた。
「僕はこの話は事実だと思ってる。ハムは別として、彼等の事はある程度知っているけどそこまで腐った人達じゃないよ」
俺はというと魔法協会が正しいかどうかにあまり興味がなかった。だって実際どうなのか分からないし、どこか他人事のような感覚だったのだ。
「なあウェイバー。その辺はオルターの問題だから俺達がどうこう言うのは違うんじゃねーか?」
「もちろんオルターの内政に干渉する気はないが、俺達にも守るべきモンがあるだろ?家族とか農場とかこのデヴォンシャーだってそうだ」
それを聞いて俺はアイツの事を思い出してニヤッと笑った。
「ミシェル元気?」
ウェイバーはちょっと照れたように微笑んで「まあまあだ」とだけ答えた。
一方、画面の中のロジャーはウェイバーの目的を断定した。
「ウェイバーは今戦力を集めとる、主な目的はあの巨大農場の防衛だ。もしかしたら魔王討伐組にも境界人を参戦させようとするかもしれん」
「さすがにそれはお断りするんでしょう?先生」
ミカルは微笑みながらロジャーに尋ねた。
「もちろんだ!20年前、境界人のレオン=マクスウェルを参加させた事。今でも俺は後悔しとる。『魔王役』までわざわざ捏造してな……」
ロジャーは何やら昔の事を思い出しうつむきながら話している。
他のメンバーも神妙な顔つきだ。
ここでフレッドは空気を変えるためかポンと手を叩いた。
「では先生。我々の総意としまして今回の会議では魔王討伐に関してウェイバー含め境界人の関与は一切拒否という事で~?」
「おう、それでいい。境界人の農場や奴等の施設やらは自分達で守らせる。俺達は召喚した魔物が町や村に到達したら出来るだけ速やかに排除し被害を少なくする。それで全てが上手くいく」
「やっぱ気に入らねえ!」
拳を握りつつジャンタンは吐き捨てるように言った。
「こんなもん、結局はコイツらの都合だろ?魔物のガス抜きにしたって召喚したらすぐその場でぶっ殺せば済む話じゃねーか!」
なるほど。確かにそれなら誰にも被害は出ない。でもそれだと魔王の存在も世間には伝わりづらく税金も魔道士の存在意義も説得力を失う……うーん、やっぱり全部協会側の都合なのかな……。
俺はモニターに再び目を移すとミカルが気になる事を言いだした。
「そう言えばレオンの話で思い出したけど、光の能力者が現れたみたいじゃない?皆どんな奴か知ってる?」
「おお~それそれ!私も気になってたんですがね~。まだ目立った話は聞いておりませんな~」
フレッドはニヤッと笑ってロジャーの方を見た。
「ウェイバーの話ではまだこちらに来て10日程。名前はササキタイチというらしい」
ロジャーに説明されて皆俺の顔を見てくる。なんか照れくさいな。
「ササキタイチ……」
ハムが独り言をつぶやき、続けてニヤつきながら恐ろしい事をロジャーに聞いた。
「そいつ……殺しても良いですか?」
ロジャーは間髪入れず怒りを含んだ言い方で否定した。
「おいハム。絶対にやめろ。ササキタイチは境界人側の最高戦力でウェイバーのお気に入りだ。奴を殺したのがもし明るみになったら境界人と戦争になる。無駄に闘う必要はない!」
このやりとりを聞いて正直俺はムカついた。
「なんかこのハムってやつ当然のように俺を殺せるみたいな言い方してんな。腹立つな!実際どうなんだよマウロ?」
俺はまさかそんな簡単に殺されるなんてあり得ないと思っていたがマウロの答えは逆だった。
「奴が本気で殺しに来たら絶対無理だよ。何せ姿が見えないんだからね。正面からナイフで首を刺されて終わりだろうね」
「ええ~、マジか……なんかこう、対策出来ねーの?」
「奴と同じ精度でハイドが使える人間なら気づけると思うけど難しだろう……タイチ、君はそれ以前にシンクロは出来そうかい?」
「う……いやー、はは……」チラッ。
「ねえ……うふふ……」
俺は香織と目があってお互い苦笑いをした。
「そのササキタイチは人格的にはまともなんでしょう?」
ミカルがロジャーに尋ねた。
「ああ、ウェイバーによれば全く問題ないとの事だ。マイペースな男で境界警備隊への入隊も断ったらしいぞ」
「ほほ~あんな高給取りの職場を蹴るとは……さぞかしその地球――でしたかな?の仕事で稼いでおるんでしょうな~?」
とフレッド。
「いや、収入は無いらしいぞ」
「え、ではどうやって生活を?――まさか貴族か何かで?」
ミカルは不思議そうな顔で尋ねる。
「なんやったか――たしかニート?……ユーチューバー?か何か言うとったが地球の仕事なんぞ分からんわい!」
「しかしそんな状態でも食っていけるなんてずいぶん温い世界ですわね」
「おい!ちょっと待てえ!!」
俺は思わず突っ込んだ。
「こっちで仕事してるだろ俺!?」
ウェイバーは答えた。
「まあ、ロジャーに話した当時の話だ」
「太一あんたニートって思われるのやっぱ嫌なの?」
香織に笑われたが普通に嫌だ。
「オルターで俺の仕事聞かれたらなんて答えりゃいいんだ?」
「境界警備隊の契約社員でいいんじゃない?」
香織はそう提案してきたが契約社員なんてオルターで通じるのだろうか?いやまあどうでもいいか……。
「つかウェイバーさんどうします?魔王がいないなら全力で農場とこのデヴォンシャーを守るって事で良いっすか?」
魔王のいない「魔王襲来」に対して、どう動くかをジャンタンはウェイバーに確認した。
「まあアイツらのやり方は気に入らんがこっちとしては戦力を割く必要が無くなってやり易くなった、あとは――アイツだ」
「アイツ?」
「今ここに居ないやつだ」
「……クロエか?」
正直俺は意味が分からなかった。
ウェイバーはクロエと通信し始めた。
「おう、来てくれ。今からだ」
ウェイバーはクロエにこちらへ来るよう頼んだようだ。
「クロエの事は多分この先の部分で分かると思う」
ウェイバーはそう付け加え、渡瀬さんに動画の再生を促した。
「俺達が『魔王襲来』に関して秘密にしているせいかウェイバーの奴はこちらを疑っとる。何か企んどる気がしてならん、こちらの情報を得るための何かを……」
モニター内のロジャーはウェイバーを疑っていた。
しかしフレッドが反論する。
「ですが『魔王襲来』のことを知る我々は皆、科学魔法の心得がありますので、読心で誰かに情報を盗まれる心配はないですし~もちろん口を滑らすようなヘマも致しませんが~?」
「いや、俺はあの男の心を一度覗いてみたことがあるが、正確には分からんが奴は何かを企んどる。そんな雰囲気が感じとれた。スパイ以外の何かをな」
「鋭いじゃねーか爺さん。さすがにカメラには気づかなかったようだが」
モニターを眺めながらニヤリとしてウェイバーがつぶやく。
「だからこちらも刺客を送ろうと思ってな。クロエを奴らの自治区に送る計画がある」
ロジャーの口からクロエの名前が出て俺はハッとした。
ミカルはちょっと首を傾げて言った。
「クロエってあのいつも何か食べてるあの娘ですか?確かに魔法の成績は優秀だそうですけど……あの娘スパイなんて出来るでしょうか?」
俺はいつも何か食ってるという言葉に少し笑った。
「読心を使わないスパイ行為が可能なのはクロエだけだ。アレはウェイバーに好意を抱いとる。だからウェイバーの読心に対して動揺したとしても怪しまれにくい。逆にそこを上手く使ってヤツに取り込み、得た情報を『通信』で毎日協会に送るようにと言ってある」
ロジャーの話から俺はウェイバーとクロエが出会った時のやりとりを思い出していた。
「そういえばクロエはウェイバーが好きだったような気がしたけど……」
香織がそれに反応した。
「いや、あんなの一発で分かるでしょ?あの子、凄く純粋な子だと思うよ。でも、それを利用してスパイ活動するつもりだったかどうかまでは分かんないよね」
「もし俺に対する好意まで計算に入れてロジャーに情報を流されていたら非常に厄介だ。だからここでしっかりアイツの本心を見ておこうと思う」
ウェイバーの顔は真剣そのものだった、それなりの覚悟を持ったような表情。
「も、もしクロエがスパイのままだったら……?」
ジャンタンは険しい表情でウェイバーに問う。
ウェイバーはそれには答えずマウロの方を見た。
マウロはコクッと頷く。あれ?コレもしかして――。
殺す気か!?
エノキも香織もそんな雰囲気を感じ取ったのか一気に場の空気はピリついた。まずいな、何とかしなければ――。そう思った俺は一発ギャグをかました!
「アイツはクロかもな。クロエだけに」
「……は?」
「……は?」
「……」
「……」
ああ――、やっちまった!空気が凍ってるゥ――。
――「やかましいわ!」バコン!
ジャンタンが突っ込んでくれた!
あー良かった良かった。ありがとうジャンタン!
一方、ウェイバーは真顔で俺にグッドサインをしてきた。
「……場合によっては恥をかけるやつの方が大人だ。俺は評価する」
「お、おう。そうだよな……」
俺はそう答えるのがやっとだった。
そうしているうちにクロエがやって来た。
全員に緊張が走る。
「あ、皆さん。あの……どうされました?」
ほぼ全員が自分を凝視している様子に戸惑うクロエ。
ウェイバーは「クロエ、ちょっと」と言って手招きすると、クロエはトテトテと可愛らしくウェイバーの方に歩いて行った。
ウェイバーはクロエの目を見て聞いた。
「クロエ、お前何か隠してないか?」
いや、直球すぎね?
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