第49話 魔王の正体 ②
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ロジャーがそう叫ぶと赤髪の男が魔法陣を解いた。
「ハム!いつからいたのよアンタ!?」
「まーたハイドで隠れてやがったなー?」
ミカルもフレッドもハムと呼ばれたこの赤髪の男に視線を集中させた。二人は驚きを超えて恐怖にも似たような表情をしている。
俺はここで違和感を覚えた。
「あれ?こいつら皆科学魔法使いじゃないの?ロジャー以外このハムって奴のハイド見破れなかったのか?」
俺の質問にエノキも同調する。
「タイチのくせに鋭いじゃん?」
「なんだと!」
そこで俺の質問に答えたのはマウロだった。その時のマウロは見た事もないぐらい険しい顔つきで、俺はちょっとびっくりした。
「……ハム。コイツのハイドは上手すぎてよっぽどの上級者でないと見破れないんだ」
「え?マウロでも無理なのか?」
「無理だったね。一応、部隊の同期でもあったけどハムのだけは見抜けなかったよ」
「へー、じゃあコイツ相当強い魔道士なんだ。マウロより上?」
マウロは目を閉じて少し間を置いてから答えた。
「……一応魔道士としての総合的な順位は僕の方が高い。だが、暗殺という仕事柄、ほとんどの人間に対して姿を隠せるというのはめちゃくちゃ強い!だから部隊内での実績は向こうが上だった」
「なるほど確かに。今、このハムって奴がここに居ても誰も認知出来ないって事だもんな……。そら強いよな」
――ハム。後にこの男に地獄に突き落とされる事など、この時の俺は予想だにしていなかった。
「でも、それを見破れるロジャーって爺さんも流石だよな」
ここでエノキが呆れるような口調で言ってきた。
「当たり前だろタイチ!あの人は死んだウチらのじいちゃんと同じ三大魔道士の一人なんだぞ」
「へー」
俺はその時三大魔道士と3対1で互角だったというレオンの事を思い出した。
やっぱ光の能力ってチートだ。俺は改めてそう思い、再びモニターを向いた。
「あー、なんか殺しの仕事飽きてきたわ。マウロもいなくなったし張り合いもねーしよォ」
気だるげな言葉を発するハム。こいつだけはロジャーがいても全く遠慮というものがない。
ミカルは顔をしかめてハムを非難した。
「飽きたって何言ってんの?アンタなんて人殺し以外能が無いんだから大人しく任務こなしてりゃいいのよ!」
その瞬間、ハムはミカルに向かって歩き出した。
どうやらハイドを使っているらしくミカルは口を開けたままどこか上の空のような表情をする。
ハムは椅子に座るミカルの後ろからその巨乳を鷲掴みにした!
俺は興奮した。
「おいミカル。あんま調子のんなよ?お前ごときいつでも殺せる。先生の手前生かしてやってるだけだ。この無駄にデケー乳もぎ取ってやろうか?」
そんな仕打ちを受け、鬼のような顔をしたミカルはハムの手を払いのけ椅子から立ち上がるとハムに平手打ちをかました。
それを難なくかわし不敵な笑みを浮かべるハム。
「反抗的だなお前……」
「やめろ」
ロジャーの一声で二人の動きはピタッと止まった。
「なんだ、お前ら元気やのう。今日は喧嘩でもしに来たんか?」
老人とは思えない迫力に満ちたドスのきいた声が響く。
「……す、すいません。先生」
ミカルは頭を下げた。
「失礼致しました」
ハムも能面のような笑顔で軽く礼をして、元いた場所に戻った。
「フィー……肝を冷やしたわい」
フレッドは冷汗をかいたように額を拭う。
それからまた一人、顔色の悪いサラリーマンのような若い男がうつむきながら入ってきた。
「……どうも」
ボソッとそう言って静かに席につく。癖の強い他の面子と比べると平凡で静かな魔道士にみえた。
「研究はどうだ?バリー」
ロジャーはバリーと呼ばれた男に尋ねるとバリーはそれまでの大人しさから一転し、目を輝かせ捲し立てるように話し出した。
「はい!ロジャー先生。今回の実験で得られたデータから推測しますと、古代魔法の解錠にはやはり複数人の術者が必要でそれらの適切な配置とザイオンス効果による誘導によって世界樹由来でない、もっと高濃度な魔素の収集が――」
「おう、おう、分かった。引き続き頼むぞ」
話の途中でロジャーに遮られたバリーは再びうつむき沈黙した。
「ふっ、魔法研究家のバリーか。この人も変わらないな」
マウロは薄く笑って懐かしむようにバリーを評している。
「な、なんか個性的なメンツだ……」
俺は強い魔道士って皆こんななのか?とちょっと面白く感じた。
そしてロジャーは話し始める。
「さて、メンバーが揃ったところで今回の議題だが――今日はウェイバーの奴が来る前に口裏を合わせる必要がある」
「うーん。ウェイバー君ですか~……思うんですが彼、ちょっとこっちの世界に干渉しすぎじゃないですかね~フォフォッ……」
額に手を当ててそう言ったのはフレッドだった。
「確かウェイバーは魔王戦に力を貸す見返りに土地を要求していたんですよね?」
ミカルがロジャーに尋ねた。
「ああ、初めはな。しかし最終的にそれはもういいと言ってきた。代わりに魔王を捕縛するから協力してくれと言ってきた」
ミカルは苦笑いをロジャーに向けた。
「それは無理なお話ですわね。魔王など存在しませんから……」
「え!?」
俺はミカルの言葉に驚愕した。
というか渡瀬さんとウェイバー以外全員が驚いていた。
低い声をさらに低く大きくしてロジャーは話を続けた。
「魔王の実情については今後も永久に秘密にせねばならない。で、今回は魔物はちゃんと召喚出来そうか?」
フレッドが答える。
「ええ~もうバッチリです。下はゴブリンから上はドラゴン族までチャチャっと呼び出してご覧に入れましょう!クフフッ」
ここでウェイバーが動画を止め、今の会話を補足説明した。
「オルターでは『魔王襲来』といって、約20年周期で魔物が大量発生し村や町を襲撃する。そしてコイツらは『魔王軍が来たぞ』と王室や民衆に勧告した上でそれを倒す――この意味が分かるか?」
えーっと……何て言うんだっけこういうの?
「こ、これってただのマッチポンプじゃない!?……ひどい!」
「そうそうそれだよ香織!自分達で呼び出した魔物を自分達で倒す……要は自作自演だろ?こいつら真っ黒じゃねーか……」
俺は呆れながらそう言った。
俺はエノキとマウロの方を向くと二人共複雑な表情をしていた。まあ無理もない、地球でいえば友人が犯罪者になったようなもんだろ?
そんな中、マウロが口を開いた。
「そ、そんな馬鹿な……聞いた話では今まで魔王が来るたびに何千人という人が魔物に殺されているというのに、それが全部協会側の仕組んだ人災だったなんて……!」
「最っ悪じゃんこんなの!……ロジャーの爺さんマジで見損なったぞ!」
エノキは拳を握って眉を吊り上げて怒っている。
各々の意見を確認しつつウェイバーは再び動画を再生させた。
「しっかしこの魔王が攻めてくるという設定――『魔王襲来』というのはホントに優秀ですなあ~。魔王軍と戦うという名目で税金は徴収できるし、魔王を倒すフリをするだけで魔道士は民衆から英雄視される。――まさに良いことだらけ~ってねっ!グフフ……」
フレッドは満足そうに話す。
それに対しハムが歪んだ顔を見せながら皮肉を言った。
「そのせいで多くの人達が魔物に殺されるんだぞ?お前は良心が痛まねーのか?」
それを聞いたミカルとフレッドは呆れたように怒りをあらわにした。
「は、はあ?人殺し大好きなアンタがふざけたこと言ってんじゃないわよ!」
「良心がどうとか、お前さんにだけは言われたくないわい!」
ミカルとフレッドはそれぞれハムに突っ込んだ。
バリーもハムに目をやりこれに言及してきた。
「言っておきますが我々が魔物を召喚せずとも魔物の集団暴走はいつか必ず起きます。過去にも6~70年魔物を一切召喚しなかった結果、突如何の準備もない状態でとんでもない数の魔物が一気に押し寄せ昨今の10倍近い被害が出たと聞きます。
私達の魔物召喚はいわばそのガス抜き作業であって、事前に王都ソリオンをはじめ各村長にも魔物の大量発生に備えるよう通告しますし被害は最小限に抑えられるように努力しています。税収や名誉はそれらの副産物として発生しているだけです。我々を人殺しのように言うのは止めていただきたい!」
バリーはアナウンサーのように良い滑舌で一気にハムに反論した。
「ケッ。冗談の通じねえ野郎だ」
ハムは不満そうな顔をして斜め上に視線を移した。
これを聞いてエノキはちょっとだけ笑顔になってキョロキョロと皆の顔を見回した。
「え、ね、ねえ……?これなら皆悪くなくね?」
「うん、私もそう思う。でも自分達が召喚した魔物が町や村を襲うのは本当みたいだから――秘密にしたがるのも分かる気がする」
香織は協会側の言い分にも少し理解を示していた。
ふーっと息を吐きジャンタンは呆れるように言った。
「いやいや何だそりゃ!馬鹿げてるだろ?……自作自演で、民衆の前で魔物を倒してはい終わり……ってふざけんなよコイツら!?」
「たしかにとんだ茶番だよね。でも魔物の大量発生の有効活用という意味ではある意味政治的に上手いのかも知れない……」
「いや、上手いっつーか悪どいだろ?庶民は対魔王税かなんか知らんが無駄な税金払わされてるみてーだし」
ジャンタンはやはり協会の人間が気に入らないようだった。
ウェイバーの方も協会の連中の言う事には懐疑的だった。
「ぶっちゃけ20年単位で魔物を召喚する必要があるってのがまず胡散臭いな。魔物召喚の罪悪感を減らすための適当な嘘じゃねーのか?ここの図書館の歴史書にも魔王に関する記述だけはどこにもねーからな」
うーん、どうなんだろう?
皆それぞれ「魔王襲来」について考え込んでいるようだった。
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