第45話 シンクロの練習
しばらく毎日投稿します。
「では、失礼します」
渡瀬は俺の返事を聞くとウェイバーに花瓶の様なものを何個か渡しどこかへ行ってしまった。
そして俺達は再び広場に向かって歩き出した。
「いやー、なんか期待されてるみたいだぞ。俺」
香織に誇らしげに話してみる。
「期待っていうと……やっぱり魔王を倒すって意味なのかな?」
そう聞いてくる香織に俺はすぐ答えた。
「そりゃそうだろ?俺が魔王を倒してウェイバーが言うみたいに捕獲まで出来ればオルターは平和になるわけだし。俺ら境界人のイメージももっと良くなるし。自動的にウェイバーの格も上がって仕事がやりやすくなるんじゃねーかな?あと、あのでっかい農場をさらに拡大したり出来るかもな」
「はははは。まあな、魔王を捕まえる!それが理想なのは確かだ。偶然にも太一の光輪は何かを捕縛するのにちょうどいい能力だしな。……ただ、不安もある」
ウェイバーは最後の方でテンションをやや落した喋り方になった。とりあえず聞いとこう。
「不安って何?」
ウェイバーはちょっと考えてから話し始めた。
「まず魔法協会。前にも言ったがアイツら恐らく何か企んでやがる。今回の魔王の件で何かしら絡んでくるかも知れん……ってのがまず一つ。それと太一、お前オルターでレオン=マクスウェルって名前聞いたことあるか?」
「レオン?……いや、オルターでは聞いた事ないなー」
「前も少し触れたかもしれんがレオンは3人目の光の能力者だ。当時は『光の剣士』と呼ばれめちゃくちゃ強かったらしい」
「へー、凄い。私初めて聞いた!え、じゃあ太一って何人目なの?」
香織は興味津々という感じで聞いてきた。
「光の能力者は俺で4人目らしいぜ。ちなみに1人目と2人目はどっちも大量殺人者だって。1人目のやつはペドロ村虐殺の犯人な。香織も見ただろ?」
香織は軽く身をすくめた。
「こ、怖っ!……太一はそんなんしないでよね」
「するか!」
俺と香織が軽口を叩き合っていると、ウェイバーは真剣な顔つきで忠告してきた。
「光の剣士は当時最強格の魔道士達と3対1で戦っても互角だった……そのレベルの人間でも魔王とは相打ちで死亡している。いや、今回魔王はまた復活するらしいから正確にいうと敗北したことになるな。だから太一がどれだけ強い光の能力者でも絶対勝てる保証はないってことだ」
……なるほど、だが俺はそれを聞いて逆にやる気が出てきた。今回の魔王戦はレオンという境界人の敵討ちでもあるのか。
「よし、じゃあ俺が完璧に魔王を粉砕――ってか捕獲して歴史に名を残してやるか!ついでにレオンの敵も討つぞ」
軽く拍手するウェイバー。
「その意気だ」
香織も笑顔で肩にポンと手を置いてきた。
「まずはシンクロ、頑張ろうね!」
「あーそうだった……」
俺は渋い顔で嘆いた。魔法か――正直エノキや香織を見ていると劣等感を感じてちょっと憂鬱になってくる。
――そんな話をしているうちに結構な広さのグラウンドにたどり着いた。下は芝生だったので俺は気晴らしにちょっと飛び跳ねたり側転やバク転をやってみた。
この時すでに俺は垂直に6メートル程ジャンプ出来る様になっていたので、まるで鳥にでもなったかの様な気分だった。はっはっはーっ、気持ちいー!
「ヒューッ、やっぱお前運動神経いいわ!太一。格闘だけでもかなり上を目指せるぞ」
そうジャンタンに絶賛され気分がいい。でも考えてみればオルターで魔物や魔道士と全力で戦った事ってあったっけな?
「格闘の方は後からジャンタンに鍛えてもらえ。だが科学魔法も色んな意味で必要だから同時進行でいくぞ」
ウェイバーの発言を聞いてこれからやる事の多さに軽く眩暈がした。
「ウェイバーやジャンタンが俺にちゃんと寝たか?って聞いてきた意味が分かったよ」
というわけで科学魔法の習得に必要なシンクロの練習が始まった。
まずウェイバーが俺と香織の前に立ち、白い魔法陣を展開させる。しかし、特に周囲に風が吹いている気配はない。
「今、俺はレベル1の風魔法、『微風』をホールドしている状態だ。二人共、俺の真似してみろ」
ウェイバーは俺と香織を交互に観察するように見ている。
「まあ微風なら簡単だ……これでいいか?」
俺はウェイバーと同じ様に1秒にも満たない呪文を詠唱し白い魔法陣を出してホールドした。
俺を見たウェイバーは薄く笑って言う。
「太一、それただ自分で微風使ってるだけじゃねーか。俺の真似しろって言っただろ?」
「え、何それ……!?」
なんか良く分かんねー。隣の香織はどうだ?
見てみると香織は首を傾げながら白い魔法陣を出していた。お、いいんじゃね?
「香織も一緒だな。自分で風魔法使ってるだけだ。そーじゃない」
香織は首をかしげながら苦笑した。
「えー……分かんない」
どうやら俺と同じ感想を持ったみたいだ。どゆこと?ウェイバー。
ウェイバーはフーッと息を吐くと微風のホールドを解き微風を発動、周囲には心地良い風が吹いた。
「よし、もう一度やるぞ。俺をよーく見とけよ!」
俺と香織はウェイバーの挙動の観察に集中した。
まずは呪文の詠唱。しかしレベル1の微風の場合0.2秒程しかないので一瞬で終わり、その後すぐ魔法陣が足元に現れる。
う~ん、真似するってどういうことだ?これじゃダメなのか?
俺はまたさっきと同じ様に白い魔法陣を出してウェイバーの方を見るとウェイバーは首を横に振った。
隣の香織も同じような状態になって「?」という感じで困惑していた。
「まあ、始めは皆そうやって戸惑うよな。俺もそうだった。ようは俺の動き、声、雰囲気といったモノから魔法的流動性を見出して自分の中で瞬時に理解し組み立てることによって俺の風魔法をお前らの風魔法として発現させる――」
ウェイバーは更に分けの分からない事を言ってきた。
「いやムズいわ!何だよ魔法的流動性って……」
俺は思わず突っ込んだ。
「これは感覚的なもんだから言葉ではうまいこと説明できん。魔力の流れとでも言うかな……」
悩まし気な顔をするウェイバーだったが、香織は前向きだった。
「ねえ、それって何回か真似しようとしてれば出来るようになる?ウェイバー」
「……人による。感じ取れるか取れないかだ。エノキみたいなのは別として、とにかく回数をこなす必要はある。頑張れ」
「う~……」
「……」
――俺と香織は悩みに悩んだが結局うまく出来ず、時間は過ぎいつの間にか昼になっていた。
「……おう!分かった。ありがとう」
ウェイバーが脳通信で誰かと会話している。そして俺達の方を振り向いて言った。
「よし、一旦切り上げて飯にしよう!食堂でクロエが昼飯作ってくれてるらしい」
ウェイバーは俺達をランチに促した。
「うおーー飯飯!腹減ったー」
俺は歓喜の叫びをあげた。
「早っ!もうお昼?」
香織は時の早さに驚いていた。
ジャンタンはウェイバーと何やら話をしている。内容はちょっと気になったが、とにかく腹が減ってしょうがない。
「先行ってていいか?」
俺はウェイバーとジャンタンに断りを入れた。
「おう、俺は後から行く、多分遅くなるから二人で先食っとけ。結構たくさん作ってくれてるらしいぞ」
「分かった。うおおおお!」
「嬉しー!」
それから香織と二人で食堂に入ると、クロエが出迎えてくれた。
「あ、太一さん香織さん。ご飯用意できてますよー」
エプロンを着けて笑顔のクロエ。そういや姿を見たのは今日初めてだな。
「おっす。サンキュークロエ!」
「ありがと!」
俺達はクロエにお礼を言ってテーブルを見たら驚いた!
テーブルの上にはカレー、サラダ、刺し身、パスタ、焼き魚、オムレツ、ラーメン、チャーハン……など軽く10人分ぐらいはある量の昼食が並べられていたのだ。
「地球の料理はどれも美味しいですねー。昨日からウェイバーさんに教わって色々作ってみました。どうぞ!」
そういうクロエの口にはご飯粒がついていた。クロエのやつすでに相当食ってるな。
「クロエ、ご飯粒付いてるよ」
香織に指摘されて慌ててそれを取るクロエ。なんか微笑ましい。
その後ジャンタンもやってきた。ウェイバーはまだ来れないらしい。
そして俺は今まで存在を忘れていたのだが、あの男――マウロがいきなり食堂に姿を現した!どうやらハイドで姿を消していたようで、俺達の目の前にいきなり現れる形となった!
「やあ……」
「うおっ!?」
「ぎゃっ!」
「あ!……やっぱりマウロさんでしたか」
「マウロ、お前何で隠れてんだよ……?」
俺と香織は当然のごとく驚くが、クロエとジャンタンは科学魔法が使えるのでマウロの存在に気づいていたようだ。
ハイドを解いていきなり姿を現したマウロはうなだれてションボリしていた。
「ああ、エウラリアが科学魔法を覚えてしまった……」
頭を抱えて苦悩するマウロ。とりあえず俺は聞いてみた。
「なんでマウロが悩むんだ?」
「妹が何を考えているか『読心』で読み取るのが昔から僕の一番の楽しみだったのに……気づかれて怒られるようになったんだ。ああ、悲しい――」
とりあえず俺は呆れた。
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