第42話 オルターにおける境界人の歴史 ①
しばらく毎日投稿します。
「おっすジャンタン。今日の魔法修行はハードそうだな!」
俺にそう聞かれたジャンタンはニヤリと笑うとこう答えた。
「魔法の方は太一、お前伸びなさそうだからよー、エノキ達と一緒に科学魔法の説明聞くだけでいい。その後はお楽しみの実戦。モンスター狩りだ!ちゃんと寝てきたかァお前?」
話の後半になると妙にイキイキしてきたジャンタンだった。なんか俺を鍛えるのが楽しみでしょうがないという感じに見えた。なんか体育会系の部活みたいだったが不思議と嫌じゃない。むしろ楽しみだ!
「体調はバッチリだぜ。魔法の方は自信ないけど」
「はははっ太一はそれでいい。科学魔法さえ使えたらぶっちゃけお前に魔法はいらねえ!」
「それっ、間違いない!」
カカカと笑うジャンタンに俺もその通りだなとつられて笑った。
「今日は最初に科学魔法を覚えるの?」
香織がジャンタンに聞いた。
「おうよ、俺の予想ではエノキは多分即覚えるだろうが香織と太一はそんな簡単にはいかねえだろう、最短でも二週間はかかると思うぞ。まず『シンクロ』が出来るようになるってのが前提だからな」
ここで香織が興味深い質問をした。
「ねえジャンタン。ちょっと気になったんだけどいい?」
「ん、おう。何でも聞けよ、香織」
「その、科学魔法って私達地球人がここに来て初めて出来た新しい魔法でしょ?」
「――おう、そうらしいぜ」
「で、私達の出入りしてる境界って科学魔法かけなきゃ一時間ぐらいで閉じちゃうんでしょ?ってことは科学魔法がなかった時にオルターに来た地球人は地球に戻れなかったんじゃないの?境界が閉じちゃって……」
それを聞いてジャンタンは「おーそういえば――」と言いたげな顔をした。
「……いや、初めに地球人が境界からオルターに来た時点ではまだ『サモナー』が生きてておそらく地球への境界を開けてもらえたんじゃねーかな?……ん?いや、地球に繋がる境界は意図的に開けることが出来なかったって記憶が……んー、どうだったかな……?」
「境界人の歴史は本になって公文書館に置かれてるぞ」
腕を組んで考え込むジャンタンの後ろから近づいてきたのはウェイバーだった。
「うおっ、ウェイバーさん。はよーざいます!」
「おっす」
「おはようございます」
「おはよう、元気そうだなー皆」
俺達は皆、ウェイバーに挨拶をした。
ジャンタンはちょっと考えて親指でどこかを指さした。
「おう、香織。それと太一も昔の事気になるなら行ってみっか?小さな図書館みてーな所だ。エノキ達が来るまでまだ時間があるしな」
それを聞いた香織は興味津々という顔をした。
「あ!私行きたい」
「よっしゃ、決まりだ。太一も来るか?」
昔の境界人が実際どんな事をしてきたのかについては俺も興味があったので、首を縦に振った。
「俺も行くよ。どこにあんの?」
「こっちだ、結構近いぜ。ついて来い」
ウェイバーも含めた俺達4人はデヴォンシャーの中央通りと呼ばれる広い道をしばらく進むと、右手に「LIBRARY」と書かれた大きめのコンビニぐらいの建物が見えた。
基本的にデヴォンシャーの建物は銀行、食堂、図書館、宿泊施設など、大体同じような長屋みたいな形状をしていた。まあその方が建てやすかったって事だろうな。
俺達は図書館に入ると、まず想像より本が少なすぎる事に驚いた。部屋の壁に設置された本棚一つの上半分程しか本が置かれていなかった。
「え?ここ本当に図書館なのか……本少なすぎじゃね!?」
俺は思わず声をあげた。隣で香織も口をぽっかり開けて俺と同じような反応をしている。
ここでウェイバーがその理由を説明した。
「最近になって大体は電子書籍化しちまったらしいからな。紙の本だと傷んだりするから原本の多くは別の部屋に保存されてるんだ。見たいもんはコイツで検索しろ」
ウェイバーの指し示したものは大きめのタブレットで、本の検索が出来るようだ。
「へー、ちょっと見ていい?」
香織は目を輝かせ、タブレットに「歴史」と入れて検索をかける。すると一番上に出てきたのは「オルターと境界人の歴史」という本だった。
早速タップする香織。
すると動画モードになっていたようで字幕とそれを読み上げる機械音声が聞こえだした。二人で読む時はこっちのほうが良いな、俺はそう思った。
《――方暦802年(西暦1973年)初の境界人としてアメリカ国籍の老齢男性アルフレッド氏がオルターに降り立つ。そこは魔法使いの集落であったようだ。
同年、アメリカ。オハイオ州にて同氏の失踪届けが提出された。
彼の残したものの一つとして、オルターでの彼の日記の一部を以下に示す。
「この世界の人々は地球人よりも友好的で言葉の通じない私にも色々と手助けをしてくれた。重力の関係か自分自身の体も軽く体調も良く、何より魔法が自由に使える素晴らしい世界だ。
ここに来るときに通過した巨大な木の下のあの黒い穴は私がここに来て1時間程経つと消えてしまった。もう地球に帰ることは出来ないようだが、私はここで余生を過ごすことに何の不満も不安もない。
ただ飯が不味いのだけは何とかならないものか……」》
「あ、やっぱり50年前の時点では地球に戻れなかったんだな!」
俺はタブレットを眺めながら言った。
香織は不思議そうな表情を浮かべる。
「魔法を自由に使えるって……今と大分違うね」
そのセリフに俺はハッとした。
「そう言えばそうだな、今なんてガチガチに管理されてんのに……」
ウェイバーがそれに言及する。
「どうしてそうなったかはこの先に書いてある」
俺と香織は再びタブレットに目を落とした。
《――法暦804年(1975年)、この年もまた地球に1つの境界が開かれた。
そして5人の地球人がオルターに転移してきた。登山を楽しんでいた学生グループだったが、彼らもアルフレッド氏と同じく後に全員もれなく捜索願いを出される結果となった。
彼等は若い学生で老齢のアルフレッド氏の様に達観していなかった。そのためいきなり飛ばされた異世界から地球に戻る方法を懸命に模索し、その過程でオルターの言語を学習し使いこなせるようになった。そして彼らは「サモナー」と呼ばれていた女魔道士マイアの元にやって来た。
彼らは当然の様に地球に通じる境界を開けて欲しいと懇願した。
しかしマイアはオルターからオルター、またはオルターから魔界への境界を開ける事は出来たが、オルターから地球への境界を開ける事は出来なかった。
残念ながらオルターから地球への境界は偶発的な自然現象として出現する以外の発生手段を持たないようだ。
彼等は絶望に暮れたが、幸いにも魔法に対する興味を発端に魔法研究に明け暮れたり、オルター人との家庭を築くなどして徐々にオルターに順応した。そしてアルフレッド氏と同じくオルターに永住するようになった。
また、彼等はオルターに以前からあった「魔道士と一般人問題」を解決する手助けをしてくれた。》
「それ何か、聞いた事あったような……?」
俺は思い出そうとして、すぐに「あ、クレメンスのおっさんだ」と気づいた。
香織は真剣な顔でタブレットを凝視している。
《これは法暦0年、魔法現象がオルターに発現して以来ほぼずっと付きまとってきた問題である。
魔法は膨大なエネルギーを発生させる事ができ、それは様々な作業や仕事に応用出来る。一見良いことの様に見えるが、それは魔法使いと魔法が使えない一般人との間に大きな格差と軋轢を生んだ。
強力な力を使える魔法使いは簡単に人を殺すことが出来てしまうため畏怖され、そして弾圧された。
それに対して魔法使いも身を守るため反発し対立……という具合である。
結果、魔法使い達は様々な方法でそれを解消しようとしたが上手くいかず、山奥の集落でひっそりと暮らすようになっていった。
そこに地球に戻りたがっていた境界人の学生達が訪れ、魔法の知識や実際に魔法を使う方法を教える代わりに「魔道士と一般人問題」に関して色々な知恵を貰った。
それは強力な魔法に制限をかけ、個人の意思では使えない様に封印するというものだった。学生達の実際の発言は以下である。
「僕らの世界にも『爆弾』っていう生身の人間にとっては強力な破壊兵器があります。しかしこれは誰もが気軽に持てる物ではない。基本的に軍隊等の一部の人間が限られた条件で使う事を許される物です。
しかし今のあなた方魔法使いは全員がその爆弾を常日頃から持ち歩いてる様なものです。そりゃ周囲の人達は怖がりますよ」
しかし、より強力で、より効率の良い魔法の開発、発展を目指してきた魔法使い達にとってその提案は受け入れ難いもので、初めのうちは魔法文明そのものが衰退すると相手にされなかった。
その一方で学生達は魔道具もない時代にも関わらず懸命に魔法を一から学び、そのうちの二人は『魔法構築のシンクロ』が出来るまでに至った。
魔法の素晴らしさ、恐ろしさを知った上でなお学生達は強力な魔法の封印を訴え続けた。
その姿勢にほだされたのか、魔法使いの中にも次第に心変わりしていく者が現れ出すのだった。
「確かにこのままだといつか魔法による大きな争いが起こり人類そのものが滅んでしまうかも知れない……」
そう考える魔法使いが増えていった。》
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