↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あいどるwakaba 全ての紳士たちへと贈るR15の輝き  作者: 鈴木 厳流彩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/13

1章三節半


 広い部屋だった。ベッドの脇には柔らかな間接照明が灯り、テーブルには開封されたシャンパンと二つのグラスが並んでいる。


 社長はベッドの端に腰掛け、ジャケットを脱ぎ、シャツの袖を肘までまくっていた。


 若葉を見つけると、いつもの笑顔で軽く手を上げる。


「早いね。お疲れ。」


「……お待たせしました。」


 バッグを壁際へ置き、靴を脱ぐ。


 一歩近づくだけで、香水と酒の匂いがした。


 知らない匂いではない。


 立ち上がった社長の腕が腰へ回ってきても、若葉は驚かなかった。引き寄せる強さも、肩へ手が移るまでの間も、こちらが少し体勢を整えるために与えられるわずかな時間さえ、もう知っている。


 その自然さが、かえって生々しかった。


「今日もスタッフから連絡あったみたいだね。若葉ちゃん、忙しい子だ。」


「……はい。」


 若葉は社長の胸元へ視線を落とした。


 シャツのボタンが二つ開いている。その隙間から見える肌も、少し酒の混じった匂いも、指先の硬さも、もう見慣れていた。


「さっきの仕事、終わったばかり?」


「……はい。」


「疲れてないか?」


 尋ねる声は優しい。


 けれど、返事によって予定が変わる質問ではないことも知っていた。


 若葉は写真を撮られるときと同じ程度に口角を上げた。


「大丈夫です。社長からの連絡、すごく嬉しかった。」


 事務所。


 次のリリース。


 歌番組。


 レコーディング。


 そうした言葉を頭の隅へ並べながら、若葉は社長の肩へそっと手を添えた。


「嬉しいな。おじさん、今日は頑張っちゃうよ。」


「……ふふ。」


 出てきた笑い声は、自分でも驚くほど綺麗だった。


 社長の指がオフショルダーの肩口へかかり、布地が少しずつ位置を変える。冷房に晒された肌へ、すぐ掌の感触が重なった。


 今夜、この衣装をこうして直すことになるのは二度目だ。


 その事実に、若葉の中ではもう大きな驚きさえ起こらない。


「綺麗だな。そういえば、この業界に来て最初にこういうこと教えたの、俺だったっけ?」


「はい、社長。社長の触り方、優しくて……好き。」


 嘘だった。


 最初の相手は別の男。

 顔も名前も、今ではずいぶん曖昧になっている。


 けれど──社長の手は覚えている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。