変わりゆく日常
教室を出たのは、それから十分ほど経ってからだった。
五人とも、さっきの写真について何か話そうとしていた。
けれど、誰も最初の一言を出せない。
廊下に出ると、昼間まで聞こえていた部活動の声もほとんど消えていた。
窓の外は薄暗い。
雨のせいか、まだ午後六時前だというのに、校舎の中は夜のようだった。
「……なあ」
蓮が口を開いた。
「これ、先生とかに相談してみる?」
紗季が振り返る。
「写真のこと?」
「ああ。あの人影、普通じゃなかっただろ」
悠真が少し考える。
「でも、写真そのものが消えたんだろ?」
「……そうだけど」
「だったら、見せるものがないじゃん」
「そうなんだよなぁ」
蓮がスマホを見る。
撮ったはずの写真は、やっぱり残っていない。
「口で説明しても、信じてもらえないだろうな」
紗季が小さく息を吐く。
「『写真に知らない人が写って、その写真が勝手に消えました』なんて言ってもね……」
「俺だったら信じない」
悠真が苦笑する。
「じゃあ、どうする?」
美月が静かに聞いた。
誰も答えない。
神谷だけが、少し離れた窓の外を見ていた。
「……今日は帰ろう」
その声に、四人が神谷を見る。
「何か分かるまでは、誰にも言わない方がいい」
神谷はそう言って、歩き出した。
「……分かった」
蓮たちも後を追う。
その後ろで。
誰もいない廊下に、もう一つだけ足音が響いた。
コツ。
コツ。
コツ。
神谷だけが、ふと足を止めた。
「……」
振り返る。
そこには誰もいなかった。
「神谷?」
前から蓮が呼ぶ。
神谷はしばらく廊下を見つめていたが、やがて視線を戻した。
「……何でもない」
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翌朝。
蓮が教室に入ると、悠真がすでに席に座っていた。
「おはよう」
「おはよ」
悠真は眠そうに欠伸をした。
「昨日の写真のこと、まだ気になってる?」
「そりゃ気になるだろ」
「まあな」
悠真が苦笑する。
そこへ紗季が入ってくる。
「おはよー」
「遅い」
「まだチャイム鳴ってないでしょ」
「委員長としては五分前行動を推奨します」
「朝から委員長出すな」
蓮が笑う。
少し遅れて、美月も教室に入ってきた。
「おはよう」
「おはよ、美月」
昨日のことがあったからなのか。
五人とも、どこか互いを意識していた。
それでも、朝の時間はいつも通りに過ぎていった。
一時間目。
悠真が先生に当てられて答える。
二時間目。
蓮が居眠りして紗季に起こされる。
3、4時間目が終わり、昼休み。
五人で机を寄せる。
そんな何でもない時間が続いた。
昨日の写真のことも。
窓の外に立っていた人影のことも。
誰も深くは口にしなかった。
まるで、真剣に話してしまったら、本当に何かが始まってしまうような。
そんな気がしていたからだ。
今日最後の授業が終わる。
悠真が立ち上がった。
「じゃ、俺、委員会行ってくる」
「今日委員会だっけ?」
「うん。終わったら戻ってくる」
「りょうかーい」
紗季が手を振る。
悠真は笑いながら教室を出ていった。




