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あの教室には、五人しかいない  作者: 飛べない夜鷹/渡辺はるき
第二章

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在席

それから少しして。

蓮たちも帰ることにした。

「結局、悠真戻ってこなかったな」

蓮が呟く。

「委員会長引いてるんじゃない?」

紗季は答える。


「悠真には申し訳ないけど帰る?」


「うん」


四人は教室を出た。

廊下には、部活動へ向かう生徒の姿が少し残っていた。


「.......」


蓮は部活動へ行く生徒達を横目に見ていた。

階段を下り、昇降口へ向かう。

窓ガラスには薄暗い空が映っていた。

昇降口に着くと、四人はそれぞれ自分の靴箱を開けた。

蓮が上靴を脱ぐ。


「今日も疲れたー」


靴箱から靴を取り出し、上靴を揃えて中へ入れる。

紗季がその横で靴紐を結んだ。


「明日の数学、宿題あるよ」


「……聞かなかったことにする」


「絶対やれよ」


「明日の俺に任せる」


「それ昨日も言ってた!」


美月が笑う。


「佐伯くんって、毎日大変だね」


「分かってくれる?」


「そこだけ都合よく受けとるな」


神谷が靴を履きながら言った。

四人で笑う。


そのとき。


時計を見ると、五時五十八分。


「もうこんな時間か」


蓮が言った。

外は、すっかり暗くなっていた。


「黒田、まだ委員会かな」


紗季が校舎の奥を見る。


「たぶん」


美月が答える。

神谷だけが、何も言わなかった。


そして。


時計の針が六時を指した。


――ザッ。


昇降口のスピーカーから、突然ノイズが流れた。


四人が顔を上げる。


『二年三組、黒田悠真くん』


担任の声だった。


『先ほど提出してもらった書類について、確認があります。至急、職員室まで来るように』


*


その頃。

校舎の中で、黒田が足を止めた。


「……俺?」


少し考えてから、スピーカーに向かって答える。


「はい。今、行きます」


――ザッ。


ノイズ。


『確認しました』


先程の聞き馴染みのある担任の声とは異なり、低く鋭い声へと豹変した。


『黒田悠真――在席』


黒田の表情が固まる。


そして。


『佐伯蓮』


『水野紗季』


『神谷理央』


『白石美月』


五人の名前が、静かな校舎に響いた。


「……なんだよ、これ」


愕然としている蓮の横で神谷が突然走り出す。


「黒田のところに戻る!」


「神谷!?」


蓮たちも追いかけた。

廊下を走り、階段を上がる。

けれど。


悠真の姿はどこにもなかった。


「……悠真?」


蓮が呼ぶ。


そのとき。


「……蓮」


廊下の奥から、悠真の声がした。


「悠真!」


蓮が走り出す。


そこには悠真が立っていた。


「……返事、したのか」


「……ああ」


「なんでだよ……!」


蓮の声が震える。


「返事したら……どうなるか分かってんだろ……?」


「……分かってた」


悠真は少し黙った。


「でも……まさか、あんな声まで使って呼んでくるとはな……」


「……あの噂」


悠真は苦笑した。


「どうやら……本当だったらしい」


「……そんな……」


蓮の顔が青ざめる。


「待ってくれよ……」


「……」


「なあ、悠真……どうすればいいんだよ」


「……」


「俺、何したらお前を――」


「蓮!」


突然、悠真が見たことのない迫力で叫んだ。


蓮がハッと顔を上げる。


悠真は、まっすぐ蓮を見つめていた。


「……泣き言言ったって、仕方ないよな」


悠真は少し笑った。


蓮には、その目に涙が浮かんでいるように見えた。


「母さんには……また迷惑かけちまう……」


「待てよ……! 悠真!」


「……頼んだぞ、蓮」


その瞬間――


黒田悠真の姿が、蓮の目の前から消えた。


廊下の床で、何かが光った。


カラン。


蓮が拾い上げる。


【黒田悠真】と書かれた学生証だった。


「……なんで」


誰も答えない。


ただ。


スピーカーから最後の声だけが響いた。


『……次』


プツッ。


校舎が静まり返った。


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