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あの教室には、五人しかいない  作者: 飛べない夜鷹/渡辺はるき
第一章

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消えた写真

それから一週間。


五人で過ごすことは、いつの間にか当たり前になっていた。


昼休みになれば自然と机が集まり、誰かがくだらない話を始めれば、残りの四人がそれに付き合う。

特別な約束をしたわけでもない。

ただ、気づけばいつも同じ場所にいる。


転校してきたばかりだった美月も、最初の頃に比べればずいぶん馴染んでいた。


最初は質問されても短く答えるだけだったのに、最近では自分から話すことも増えた。

紗季の冗談に笑ったり、黒田と蓮の言い合いを眺めながら呆れたりすることもある。


その笑顔を見るたび、蓮は妙な安心感を覚えていた。


――ずっと前から、こうだったような気がする。


そんな感覚だけが、時々胸の奥に引っかかった。


___________________________________________


ある日の放課後。


窓の外では、朝から降っていた雨がようやく弱まり始めていた。


校庭にはまだ水たまりが残っていて、薄暗い空をぼんやりと映している。部活動の声も少しずつ遠ざかり、教室には五人だけが残っていた。


帰り支度をしながら、蓮は何気なくスマホを手に取った。


ふと、今日のこの時間を残しておきたいと思い、


「なあ」


蓮がスマホを掲げる。


「写真撮ろうぜ」


紗季が顔を上げた。


「急だね」


「なんとなく。今日みんな揃ってるし」


悠真が笑う。


「まあ、一枚くらいならいいか」


蓮は神谷を見る。


窓際の席で本を読んでいた神谷は、面倒そうに顔を上げた。


「私はいい」


「まだ何も言ってないだろ」


「どうせ写真だろ」


「正解」


「嫌だ」


いつものやり取りに、紗季が小さく笑う。

美月もその様子を見て、口元を緩めた。

結局、神谷も渋々立ち上がった。

五人は教室の窓際に並んだ。

窓から差し込む薄い光が、教室の床を斜めに照らしている。


「もうちょっと寄って」


蓮が言う。


「これくらい?」


「神谷、離れすぎ」


「十分だろ」


「写真なんだから」


紗季が笑いながら神谷の肩を少し押す。


五人の距離が縮まる。

美月はその隣で、少し緊張したように立っていた。


「じゃあ撮るぞ」


蓮がスマホを持ち上げる。


全員がカメラを見る。


「三」


誰かが笑う。


「二」


窓の外で、風が吹いた。


「一」


シャッター音が、静かな教室に響いた。


パシャッ。


一瞬。


それだけだった。


「見せて~」


紗季が蓮の横から画面を覗き込む。

写真には、五人が並んで写っていた。

窓から差し込む光。

いつもと変わらない教室。

「結構いいじゃん」

紗季が笑う。

悠真も画面を覗く。


「神谷、顔怖すぎ」


「元から」


「開き直るなよ」


美月が小さく吹き出した。


「ふふっ」


その声に、蓮も笑う。

ただの、何でもない放課後だった。

少なくとも、その瞬間までは。


「……ん?」


神谷の声がした。

笑い声が止まる。

神谷はスマホの画面を見つめたまま、眉を寄せていた。


「どうした?」


蓮が聞く。

神谷は答えず、画面を指差した。


「右端」


蓮が写真を拡大する。

最初は何もないように見えた。


けれど。


窓の外。


校庭の向こう。


雨に濡れた景色の中に――


誰かが立っていた。


制服姿の人影。


五人を、じっと見ている。


「……誰?」


紗季の声が、先ほどまでとは明らかに違っていた。

悠真も黙り込む。

美月は画面を見たまま、動かなかった。


「美月?」


蓮が呼ぶ。

美月はゆっくり首を振った。


「……知らない」


その直後だった。

スマホの画面が、一瞬だけ暗くなった。

蓮が瞬きをする。

次に画面を見たとき。

写真は消えていた。


「……え?」


アルバムを開く。


ない。


撮影したばかりの写真が、どこにもない。

削除したわけでもない。

最初から撮っていなかったかのように。

蓮は何度も画面を確認した。

それでも、写真は戻ってこなかった。

教室の中に、妙な静けさが広がる。

さっきまで五人で笑っていた場所なのに。

今は、誰も口を開かない。

窓の外では、弱くなった雨がまだ降り続いていた。

神谷が、誰にも聞こえないような声で呟く。


「5人揃ったから....?」


その言葉だけが、静かな教室に残った。

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