消えた写真
それから一週間。
五人で過ごすことは、いつの間にか当たり前になっていた。
昼休みになれば自然と机が集まり、誰かがくだらない話を始めれば、残りの四人がそれに付き合う。
特別な約束をしたわけでもない。
ただ、気づけばいつも同じ場所にいる。
転校してきたばかりだった美月も、最初の頃に比べればずいぶん馴染んでいた。
最初は質問されても短く答えるだけだったのに、最近では自分から話すことも増えた。
紗季の冗談に笑ったり、黒田と蓮の言い合いを眺めながら呆れたりすることもある。
その笑顔を見るたび、蓮は妙な安心感を覚えていた。
――ずっと前から、こうだったような気がする。
そんな感覚だけが、時々胸の奥に引っかかった。
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ある日の放課後。
窓の外では、朝から降っていた雨がようやく弱まり始めていた。
校庭にはまだ水たまりが残っていて、薄暗い空をぼんやりと映している。部活動の声も少しずつ遠ざかり、教室には五人だけが残っていた。
帰り支度をしながら、蓮は何気なくスマホを手に取った。
ふと、今日のこの時間を残しておきたいと思い、
「なあ」
蓮がスマホを掲げる。
「写真撮ろうぜ」
紗季が顔を上げた。
「急だね」
「なんとなく。今日みんな揃ってるし」
悠真が笑う。
「まあ、一枚くらいならいいか」
蓮は神谷を見る。
窓際の席で本を読んでいた神谷は、面倒そうに顔を上げた。
「私はいい」
「まだ何も言ってないだろ」
「どうせ写真だろ」
「正解」
「嫌だ」
いつものやり取りに、紗季が小さく笑う。
美月もその様子を見て、口元を緩めた。
結局、神谷も渋々立ち上がった。
五人は教室の窓際に並んだ。
窓から差し込む薄い光が、教室の床を斜めに照らしている。
「もうちょっと寄って」
蓮が言う。
「これくらい?」
「神谷、離れすぎ」
「十分だろ」
「写真なんだから」
紗季が笑いながら神谷の肩を少し押す。
五人の距離が縮まる。
美月はその隣で、少し緊張したように立っていた。
「じゃあ撮るぞ」
蓮がスマホを持ち上げる。
全員がカメラを見る。
「三」
誰かが笑う。
「二」
窓の外で、風が吹いた。
「一」
シャッター音が、静かな教室に響いた。
パシャッ。
一瞬。
それだけだった。
「見せて~」
紗季が蓮の横から画面を覗き込む。
写真には、五人が並んで写っていた。
窓から差し込む光。
いつもと変わらない教室。
「結構いいじゃん」
紗季が笑う。
悠真も画面を覗く。
「神谷、顔怖すぎ」
「元から」
「開き直るなよ」
美月が小さく吹き出した。
「ふふっ」
その声に、蓮も笑う。
ただの、何でもない放課後だった。
少なくとも、その瞬間までは。
「……ん?」
神谷の声がした。
笑い声が止まる。
神谷はスマホの画面を見つめたまま、眉を寄せていた。
「どうした?」
蓮が聞く。
神谷は答えず、画面を指差した。
「右端」
蓮が写真を拡大する。
最初は何もないように見えた。
けれど。
窓の外。
校庭の向こう。
雨に濡れた景色の中に――
誰かが立っていた。
制服姿の人影。
五人を、じっと見ている。
「……誰?」
紗季の声が、先ほどまでとは明らかに違っていた。
悠真も黙り込む。
美月は画面を見たまま、動かなかった。
「美月?」
蓮が呼ぶ。
美月はゆっくり首を振った。
「……知らない」
その直後だった。
スマホの画面が、一瞬だけ暗くなった。
蓮が瞬きをする。
次に画面を見たとき。
写真は消えていた。
「……え?」
アルバムを開く。
ない。
撮影したばかりの写真が、どこにもない。
削除したわけでもない。
最初から撮っていなかったかのように。
蓮は何度も画面を確認した。
それでも、写真は戻ってこなかった。
教室の中に、妙な静けさが広がる。
さっきまで五人で笑っていた場所なのに。
今は、誰も口を開かない。
窓の外では、弱くなった雨がまだ降り続いていた。
神谷が、誰にも聞こえないような声で呟く。
「5人揃ったから....?」
その言葉だけが、静かな教室に残った。




