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あの教室には、五人しかいない  作者: 飛べない夜鷹/渡辺はるき
第二章

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12/19

カコのノート

「……ノート?」

紗季が拾い上げた。

表紙には、見覚えのある名前が書かれている。

───白石美月。

「……美月のだ」

蓮はノートを受け取った。

表紙は少し擦れていて、角も何度も触られたように丸くなっている。

「これ……結構古くない?」

紗季が呟く。

「……ああ」

蓮はノートを開いた。

最初の数ページには、普通の授業の内容が書かれていた。

数学の計算。

英単語。

先生が黒板に書いたこと。

どれも普通のノートだった。

しかし、

数ページ進んだところで、蓮の指が止まった。

ページの端に、小さな文字が書かれている。


──1月13日。

また靴がなくなった


その下に、少し間を空けて、


今日は傘もなかった。


さらに次のページ。

───1月14日。

机が廊下に出されていた

反応を見て楽しむあいつらが憎い。


蓮は眉を寄せた。

ページをめくる。


私が席に座ったら、後ろから笑い声がした。

何がおかしいのって聞いたら、知らないって言われた。


文字は少しずつ乱れていた。

───1月15日

弁当箱の中にゴミが入れられていた。

誰がやったのって聞いたら、五人で笑われた。


「……五人」


理央が呟いた。

その言葉に、三人の視線がノートへ集まる。

次のページ。

蓮の手が止まった。

胸の奥が、重くなる。

ページをめくる。

───1月17日。

教科書がなくなった。

探しても見つからなかった。

五人に聞いたら、知らないって笑われた。

そのあと、教科書がゴミ箱から出てきた。


「……ひどい」

紗季が小さく呟いた。

その声に、いつもの明るさはなかった。

さらにページをめくる。


先生に言った。

でも、『仲良くしなさい』って言われた。

無理に決まってる。

担任も親も当てにならない。

その文字は、少し掠れていた。


その下に。

──見てた人はいたのに誰も助けてくれなかった。


蓮は何も言えなかった。

さらにページをめくる。


そして。


─────学校に行きたくない。


その文字だけ、何度も書き直した跡があった。


でも休んだら、別の人が標的にされるかもしれない。


次のページを捲ろうとすると理央が制止した。

「これ以上見るのあんまり気分良くないかも」

紗季も頷いた。

「でも最後のページには事件についての情報があってもおかしくない。」

蓮がパラパラとページを捲ると、そこだけ文字の雰囲気が変わっていた。

まるで、震える手で無理やり書いたような文字だった。

日付が書かれている。

───六月十七日。

蓮の目が止まった。


今日、五人に呼び出された。

二年三組に来いと言われた。

六時。

行きたくない。

私を使って噂を確かめようとしているのは明らか。


そこで、一度文字が途切れている。

しばらく空白が続き。

その下に、強く書き込まれていた。


私を虐めた                                  は絶対に許せない。


私を虐めたから切り取られていて読むことができない。

「......。」

三人は何も発することができなかった。

教室の外では、掃除場所から帰ってくる生徒の声が聞こえている。

なのに、この机の周りだけ時間が止まったように静かだった。

「……これ」

紗季が震える声で言う。


理央がノートを覗き込む。


そして、次のページをめくった。


そこには、今までの記録とは違う文章が残されていた。

文字も掠れておらず最近書かれたものに見える。

忘れないようにメモとして書いたのだろう。


───この学校には、私が知らなかったルールがある。

六人目になった人は、七人目が来るまでに教室を出なければならない。

七人目が来たら、六人目は誰にも覚えてもらえなくなる。

名前も、写真も、記録も。

だから、六人目になってはいけない。

絶対に。

でも、あの人は私を助けるために六人目になった。

「……六人目?」

紗季が呟く。

蓮はページをめくった。

しかし──

次のページは、途中から破り取られていた。

「終わったー」

「早く帰ろうぜー!」

バタバタとこっちへ向かってくる足音に混じる笑い声も聞こえて、三人は掃除をしていたフリをした。

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