カコのノート
「……ノート?」
紗季が拾い上げた。
表紙には、見覚えのある名前が書かれている。
───白石美月。
「……美月のだ」
蓮はノートを受け取った。
表紙は少し擦れていて、角も何度も触られたように丸くなっている。
「これ……結構古くない?」
紗季が呟く。
「……ああ」
蓮はノートを開いた。
最初の数ページには、普通の授業の内容が書かれていた。
数学の計算。
英単語。
先生が黒板に書いたこと。
どれも普通のノートだった。
しかし、
数ページ進んだところで、蓮の指が止まった。
ページの端に、小さな文字が書かれている。
──1月13日。
また靴がなくなった
その下に、少し間を空けて、
今日は傘もなかった。
さらに次のページ。
───1月14日。
机が廊下に出されていた
反応を見て楽しむあいつらが憎い。
蓮は眉を寄せた。
ページをめくる。
私が席に座ったら、後ろから笑い声がした。
何がおかしいのって聞いたら、知らないって言われた。
文字は少しずつ乱れていた。
───1月15日
弁当箱の中にゴミが入れられていた。
誰がやったのって聞いたら、五人で笑われた。
「……五人」
理央が呟いた。
その言葉に、三人の視線がノートへ集まる。
次のページ。
蓮の手が止まった。
胸の奥が、重くなる。
ページをめくる。
───1月17日。
教科書がなくなった。
探しても見つからなかった。
五人に聞いたら、知らないって笑われた。
そのあと、教科書がゴミ箱から出てきた。
「……ひどい」
紗季が小さく呟いた。
その声に、いつもの明るさはなかった。
さらにページをめくる。
先生に言った。
でも、『仲良くしなさい』って言われた。
無理に決まってる。
担任も親も当てにならない。
その文字は、少し掠れていた。
その下に。
──見てた人はいたのに誰も助けてくれなかった。
蓮は何も言えなかった。
さらにページをめくる。
そして。
─────学校に行きたくない。
その文字だけ、何度も書き直した跡があった。
でも休んだら、別の人が標的にされるかもしれない。
次のページを捲ろうとすると理央が制止した。
「これ以上見るのあんまり気分良くないかも」
紗季も頷いた。
「でも最後のページには事件についての情報があってもおかしくない。」
蓮がパラパラとページを捲ると、そこだけ文字の雰囲気が変わっていた。
まるで、震える手で無理やり書いたような文字だった。
日付が書かれている。
───六月十七日。
蓮の目が止まった。
今日、五人に呼び出された。
二年三組に来いと言われた。
六時。
行きたくない。
私を使って噂を確かめようとしているのは明らか。
そこで、一度文字が途切れている。
しばらく空白が続き。
その下に、強く書き込まれていた。
私を虐めた は絶対に許せない。
私を虐めたから切り取られていて読むことができない。
「......。」
三人は何も発することができなかった。
教室の外では、掃除場所から帰ってくる生徒の声が聞こえている。
なのに、この机の周りだけ時間が止まったように静かだった。
「……これ」
紗季が震える声で言う。
理央がノートを覗き込む。
そして、次のページをめくった。
そこには、今までの記録とは違う文章が残されていた。
文字も掠れておらず最近書かれたものに見える。
忘れないようにメモとして書いたのだろう。
───この学校には、私が知らなかったルールがある。
六人目になった人は、七人目が来るまでに教室を出なければならない。
七人目が来たら、六人目は誰にも覚えてもらえなくなる。
名前も、写真も、記録も。
だから、六人目になってはいけない。
絶対に。
でも、あの人は私を助けるために六人目になった。
「……六人目?」
紗季が呟く。
蓮はページをめくった。
しかし──
次のページは、途中から破り取られていた。
「終わったー」
「早く帰ろうぜー!」
バタバタとこっちへ向かってくる足音に混じる笑い声も聞こえて、三人は掃除をしていたフリをした。




