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あの教室には、五人しかいない  作者: 飛べない夜鷹/渡辺はるき
第二章

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集った三人

窓の外は、もうほとんど夜だった。

さっきまで部屋に差し込んでいた夕暮れの光も消え、窓ガラスには暗い空と、ぼんやりとした室内の明かりだけが映っている。


「……二十年前の学校の記録を見つけたんだ」


「二十年前?」


紗季が顔を上げる。


「ああ。二年三組の記録」


蓮はスマホを取り出した。


「実物を見せた方が早い」


「何それ?」


「図書室で撮ってきた」


蓮が画面を操作し、紗季に見せる。

そこには、古びた学校の記録が映っていた。


「……これが、二十年前の?」


「ああ」


蓮は写真を拡大する。


「見て。写真には五人しか写ってないだろ」


「うん」


「でも、下にある名前は六人分ある」


「……六人?」


紗季の眉が寄った。

その数字を聞いただけで、何故か胸の奥がざわつく。


「しかも、五人分の名前は黒く塗りつぶされてる」


蓮が画面を指差す。


「じゃあ……残ってるのは?」


「これ」


蓮の指が、一つの名前で止まる。


「白石美月」


「……白石さん?」


紗季の声が、わずかに掠れた。


「二十年前の二年三組に、白石美月って名前があった」


紗季は画面を見つめたまま、何も言わなかった。

頭の中で、今日一日会っていない美月の姿が浮かぶ。

転校してきたばかりなのに、どこか不思議な雰囲気を持っていた少女。

それが、二十年前からこの学校にいた。

そんなこと、ありえるのだろうか。


「……どういうこと?」


「俺にも分からない」


蓮は首を横に振った。


「だから、明日もっと調べる」


「……白石さんのこと?」


「ああ」


蓮は答えた。


「それに、二十年前の二年三組で何があったのかも」


紗季はしばらく黙っていた。

「……分かった」

紗季は小さく頷いた。


「……ねえ、蓮」


「ん?」


紗季が写真を見つめたまま口を開く。


「私達がこうやって調べてる事白石さんにバレたらどうなるんだろう」


「……分からないけど、間違いなくバレない方が事は順調に進むと思う」


「うん」


紗季は頷いた。


記録を調べるだけでは分からないことも多い。

本人が何かを知っているなら、直接聞いた方が早い。

一度はそう思ったが二十年前の事に関与している以上、知られない方が良いだろう。


「……明日は一旦3人で集まって今後について話そう」


「うん」


紗季は頷いた。

明日。

さらに深く資料を見る。

それだけのことなのに、蓮の心臓は高鳴っていた。

まるで、「これ以上探るな。」と言わんばかりに。


___________________________________________


翌日


校門を抜けた蓮は、昇降口へ向かって歩いていた。

朝の校舎には、生徒たちの声が響いている。

昨日までと変わらない。

それなのに、蓮には妙に落ち着かなかった。

黒田が消えてから、まだ二日しか経っていない。

それでも、周りの生徒たちは何も変わらない日常を過ごしている。

そのことが、かえって不気味だった。


「……蓮」


後ろから声がした。


 振り返ると、紗季が立っていた。


「おはよ」


「おう」


紗季は蓮の顔を見ると、少しだけ眉を下げた。


「……ちゃんと寝た?」


「まあまあ」


「嘘」


「なんで分かるんだよ」


「昔から見てるから」


蓮は苦笑した。


 そのとき。


「紗季.....?」


 横から声がした。


 理央だった。


「おはよう」


「おはよ、理央」


いつもと変わらない紗季を見て理央は少し笑みを浮かべた。


三人はそのまま教室へ向かった。

昨日の夜、蓮と紗季で話したことは一つ。

白石美月について徹底的に調べること。

二十年前の二年三組。

六月十七日。

そして、六時。

それらが偶然とは当然思わない。

教室に入る。

白石の席は、今日も空いていた。


「……黒田の事相当心痛なのかな」


紗季が呟く。


「裏がありそうで私は全く心配できない。」


理央はしかめっ面をした。


蓮は白石の机を見る。

机の上には、教科書とノートが置かれている。

本人だけがいない。

その光景が、妙に引っかかった。


「昼休み、図書室行こう」


理央が言った。


「ああ」


「今度は二十年前の記録をもっと探す」


「美月のこと、分かるかな」


紗季が聞く。


「分からなくても探すしかない」


蓮は白石の席から目を離した。


「昨日の記録だけじゃ、何も分からない」


*


昼休み。

三人は図書室に集まっていた。

昨日と同じように、古い資料を一つずつ調べていく。

二十年前の学校新聞。

行事記録。

クラス名簿。

生徒会の資料。


だが───。


「……ない」


蓮が一冊のファイルを閉じる。


「こっちも何もない」


紗季も疲れたように机へ突っ伏した。


「白石さんの名前すら出てこないんだけど」


「昨日の記録以外は、ほとんど残ってない」


理央が資料を整理する。


「二十年前の六月十七日に何があったのかも分からない」


「……結局、何も分からないじゃん」


紗季が呟く。


「うん」


理央は素直に頷いた。


「だから、本人に聞くしかない」


「でも今日も来てない」


「……」


三人は顔を見合わせた。

結局、その日はそれ以上何も見つからなかった。


*


午後。

最後の授業が終わる。

生徒たちはそれぞれ掃除場所へ向かい、教室にも掃除の時間特有の慌ただしさが広がっていた。


「蓮、そっち持って」


「分かった」


蓮と紗季は机を動かしていた。

教室の後ろでは、理央が床を掃いている。


「白石の机も動かす?」


紗季が聞いた。


「ああ。そこも掃除するだろ」


蓮が白石の机に手をかける。

少し持ち上げて、横へ動かした。


その瞬間。


───カタン。


「……ん?」


机の中から、何かが落ちた。

床に落ちたのは、一冊のノートだった。


「これ、美月の?」


紗季が拾い上げる。

表紙には、見覚えのある名前。


──白石美月。


「……ノート?」

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