1‐4 始めの四人
見晴らしの良い丘の上に止まると昼食の準備が始まる。赤髪の方が薪を組み、かざした手の甲に小さな赤い円陣が浮かぶと薪に火が点る。青髪の用意した鍋が素早く火にかけられ、手際よくカップに温かい飲み物を注いで配る。
焚火を囲むように座って、それぞれが持参した食べ物を出して食べ始めた。
俺がカップを受け取るのを待ちかねて、赤髪の男が寄ってくる。
「なぁ、名前は? 名前は思い出したって聞いたよ」とぐいぐいと詰め寄ってくる。
「ちょっと待ってよ兄さん!」青髪が赤髪をたしなめながら、
「そういう時はまず、自分から名乗るものですよ」といやにキラキラと期待に満ちた眼差しを向けてくる。
「そうか! 俺はマルティン、こいつは弟のエルンスト」さぁお前は? と向けてくる目は弟と色は違っても全く同じキラキラだ。
勢いに押され黙ってしまった俺を無口な男が庇うようにすれば、二人の照準はその男に向かう。
「で、あんたは?」
じいっと見つめられて、男は目を白黒させて口ごもっていたが、観念してぼそりと低い声で答えた。
「ミミル」
「ミミちゃん?」と大きな体を見て 「可愛い名前っすね!」と赤い髪のマルティンは悪びれず笑っている。
「で?」と俺の顔を覗き込んでくる双子の四つの目。やはり髪の色は違っても確かに双子だ。息がぴったり合っている。観念して名乗った。
「アッシュ」
「へぇ、アッシュっていうんですか」青い髪のエルンストが頷く。「聞いたことがあるんですけど、アッシュには、灰や再生の意味があるといいます。名前は灰色の髪の色からですか?」さらに聞いてくる。
「俺にはわからない」
「齢もわからない? 俺たちよりも若そうだけど」赤髪のマルティン。
「僕たちは18なんで、アッシュは15か16かな?」青髪のエルンスト。
「ミミちゃんは?」マルティンの標的がまたミミルに向かう。
「156歳」ミミルの帽子とマント、長く伸びた髪や髭で人相も年齢もわからなかったけど、老人なのか?
「ミミさんはもしかしてドワーフの方ですか? 長生きだけれど、小柄な人が多いと聞いていたんですけど」エルンストが首をかしげる。
ミミルは何も言わずに帽子を取った。大きな帽子の下から髪と同じ色のふさふさと毛の生えた三角形の耳が現れた。
獣人なのか!
今までにないくらい目を輝かせたマルティンが獣耳を撫でようと手を伸ばす。その手を払うようにピッピッと機敏に動く耳。そうやってマルティンを牽制しながら、聞こえすぎるから帽子を被っているのだと言ってミミルはまた被ろうとする。
俺が初めて見る獣耳をじっと見ていると、ミミルと目が合ってなぜか笑ったように少し細められた。俺がそっと手を伸ばすと耳はじっと動かない。ふれた獣耳はふわふわと滑らかで暖かい。
「あ! アッシュだけズルい!」騒ぐマルティンの襟首をエルンストが掴んで止める。
「そろそろ出発の時間ですよ」そう言って火の始末を始めてしまった。
俺たちに向かって
「次の休憩は夕飯時になります。その後は休まずに深夜まで走って今日中に峠の村まで行きます」とエルンストが予定を伝える。マルティンが続いて説明した。
「夜道になるけど、ここの街道は比較的安全だし魔物が出たという話も聞かない。だから村まで走った方が野宿より安全で道も捗るんだよ」
すっかり仕事モードになってそろって馬車へ向かう双子にほっとして、俺とミミルも続いた。




