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急章:叶わぬ望み-15

 


 スターチスは、ただ呆然と見ているしかありませんでした。


 恐怖や怯えてによってではありません。敵であるはずのスカビオサの、その心の色に見惚れていたのです。


 まるで快晴の空の様に透き通り、どこまでも穢れない美しいクリスタルのような空色の感情が、彼を優しく包み込んでいました。


 母が見せる自分に対する無限の愛の色を最も美しいと感じていたスターチスにとって、まさかそんな美しい色を他に目にするなど考えてもいなかったのです。


 それは店先に飾られた煌めくトランペットに目を輝かせ、釘付けになる少年のように釘付けになってしまったスターチス。


 そんな最愛の母以外に見たその余りの美しい心の色に目を奪われていた彼は、その美しい心の持ち主から自分に伸びる手に気が付くのに遅れてしまいました。


『っ!?』


 自身の肩を少し乱暴に掴まれ始めて何が起きたのか悟ったスターチスは、掴んだ張本人であるスカビオサの顔を見上げます。


『すまない少年……。君の人生を、僕は台無しにする』


 そこに滲んでいた彼の表情は、とても悲痛なものでした。


 自分がする事によって引き起こされるであろう悲惨なスターチスの未来を想い、案じ、けれども他に打開策も浮かばない自分の無力さに強く歯噛みする……そんな複雑な表情でした。


『スターチスッッッ!!』


 肩を掴まれたスターチスの姿を見たクートゥは叫び、徐々に範囲を広げていく《氷雪魔法》の氷を砕き割ろうと(もが)きます。


『な゛っ!? わ、れない……っ!?』


 彼女を(まと)う氷は天族すら真っ二つに裂き、クマの魔物すら容易に屠るクートゥの膂力をして動く事が出来ない程の頑強さを誇り、いくら踠こうと身動き一つ取れませんでした。


 それは《氷雪魔法》を発動させたロドデンドロの意地。自身すら巻き込み半ば暴走気味に魔力を放出させた彼の決死の《氷雪魔法》は、あのクートゥの動きすら止める事に成功していたのです。


『スタァァァァチスゥゥゥゥッッッ!!!』


 最早叫ぶしか出来ないクートゥを他所に、スカビオサとスターチスとの間にクートゥの時と同じように魔力での繋がりが出来始める。


 そして魔力での繋がりが完成した、その瞬間──


『ッッッ!?』


『つ!?』


『よう、やく……』


 スカビオサを介し完成したクートゥとスターチスの魔力の道。


 それを辿るようにしてクートゥの中に眠るスキル達が濁流のようにスターチスへと流れ込んで行く。


『こ、れで……お前は無敵じゃ──っ!?』


 突如、スカビオサの脳内に閃光が弾けます。


 右目に刺さった剣の破片の所為ではなく、処理し切れない情報の波が彼の脳を焼き切らんばかりに怒濤に押し寄せていたのです。


(こ、れは……)


 それはスキルが流れ込む際の副作用。


 彼女と苦楽を共にし、偶発的にスキルに染み付いたクートゥの記憶の断片達が、スカビオサの脳に流れ込んだのです。


 多くは人を襲い、殺し、食す凄惨な光景とスターチスとの仲睦まじい光景です。それだけであれば、何も問題は無かったでしょう。


 ですが彼女の歴史は、決してそれだけではありませんでした。


(クー、トゥ……!?)


 このもう後戻りなど出来ない状況で、スカビオサは知ってしまったのです。


 目の前の化け物が、かつて愛した女性であった事を……。

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