急章:叶わぬ望み-14
クートゥはスカビオサに触れられ、《救恤》という一言を聞いた瞬間に全身に悪寒が走り抜けるのを感じました。
それは敗北の危機というよりも生命の危機……何か取り返しの付かない事態に陥るという本能的な危機感です。
何かしなければマズい……。そう考えた瞬間、スカビオサに触れられた箇所に違和感を覚えます。
『ご、れは……』
それは自身の中を巡る魔力の奔流に、触れられた箇所から別種の魔力が繋がるような妙な感覚……。クートゥはこのまま魔力を繋げられるのは悪手だと判断し、すぐさま自身に触れるスカビオサを振り払おうと受け止めていた剣の刃をそのまま握り砕きました。
砕かれた刃の破片が飛び散り、剣を握っていたスカビオサにその破片が襲い掛かります。
幾つかは彼の頬を掠り傷を創りましが、その中で一際大きく砕けた欠片が彼の右目へと真っ直ぐ飛来し、そのまま眼球へと突き刺さります。
『ぐぅあ゛あ゛ぁぁっっ……』
『スカビオサっ!?』
『構うなっ!!』
右目から鮮血をドクドクと流しながら自身を心配するロドデンドロを一喝し、魔法の行使に集中させます。
『ぐ……。うぉぉっ!!』
そうしている数瞬の間に、クートゥはスカビオサを突き放そうと刃を砕いた手を彼に向けますが、ロドデンドロは《氷雪魔法》を操作し彼へ伸ばしていた手を氷結させ、その動きを止めてしまいます。
『ぐぞ……』
『ま、まだかスカビオサっ!? 長くは保たねぇぞっ!?』
叫ぶロドデンドロに、スカビオサは極限の集中下の中で無言で応えます。
《救恤》というスキルは他者に施しを与える事が出来るスキル群を内包したユニークスキル。
そしてその《救恤》本体の権能は「自身のスキルか他者のスキルを、また別の他者へ与える」というものでした。
本来ならこのスキルの用途は弱者を救済する事を前提としたものであり、このような状況で使うべきスキルではありません。
しかしそれを敢えてこの場で発動したスカビオサの、その狙いは──
(コイツを……不死でなくすっ!!)
彼は知っていました。
スキルという目には見えない概念が一体何故この世に存在するのか。そしてそれが世界を如何に形作っているのかを。
《救恤》を手に入れた際に、謎の声に教えられていました。
それによって得た知識を元に、スカビオサはクートゥの頑丈さと再生能力、そして不死性がスキル由来だと推理していたのです。
故に彼は《救恤》を使い、彼女の持つあらゆるスキルを根こそぎ抜き取ってしまおうと画策しました。しかし──
(誰に……誰に与えるっ!?)
そう。問題なのは抜き取ったスキルを誰に与えるかでした。
《救恤》はあくまでも奪う力ではなく与える力です。クートゥからスキルを抜き取ったとして、それをスカビオサ自身が獲得する事は出来ないのです。
なのでクートゥからスキルを抜き取ったのならば、自分以外の誰かに与える必要がありました。
それを誰にするか……スカビオサは決めかねていたのです。
(……やはり、ここは……っ!!)
そうして彼は振り向き、見据えます。
クートゥの横で震えて隠れる、スターチスの姿を。




