急章:叶わぬ望み-16
スカビオサの脳内に、自分とクートゥが仲睦まじく会話している場面が駆けます。
ああでもないこうでもないと言いながら集めた情報を精査し、一緒にテーブルを囲みながら地図を広げて可能性を探り、酒と食事を和気藹々と楽しんだ、短くとも濃厚だったあの日々……。
まるで走馬灯を見ているような錯覚を覚えそうになるスカビオサでしたが、次に垣間見た彼が知る筈もない〝その先の〟クートゥの末路に、思わず息を呑みます。
(やめろ……イヤだ、知りたくない……っ!!)
それはクートゥが探し求めていた剣を手にし、その所為で化け物の姿に変貌してしまった事実。
それは己の醜い姿に哭き叫び絶望してしまった事実。
それは内に眠る狂気じみた《暴食》に苛まれ、同胞すら食い殺した事実。
それは諦めの最中に出会った幼児を拾い育て、化け物なりの細やかな幸せを享受していた事実……。
それは我が子を守ろうと、ただひたすらに己を犠牲にしていた母親としての事実……。
そんな大切な思い出が、知らない方が幸せだった真実が、彼の中に滲み、広がり、煮え滾り……スカビオサの心を焼き焦がしていきました。
(ああぁ……。あ゛あ゛ぁぁ……)
全身の力が抜け、殆どのスキルの経由が済んだ頃には、スカビオサはただ、その場に項垂れる事しか出来ませんでした。
(……ああ。私の中の、力が抜けていく……)
クートゥの意識は、既に朦朧としていました。
それはまるで全身が麻痺でもしたかのように力が入らず、呼吸するので精一杯になってしまっているような、そんな無力感。頼りなさに、彼女は苛まれていました。
(スターチス……。あの子は……無事、なの……?)
最後に我が子をまともに見たのはスカビオサが肩を掴んだ瞬間。
一体スカビオサが何をしようとして、そして結果的にどうなったのか……。
最初こそスターチスに何か危害を加えるのではと心配で叫んでしまったものの、スカビオサの人柄と、自分の身に起こっている事を鑑みて、彼女は何となくその意図を察していた。
故にもしかしたら動けなくなる前に行動出来たその瞬間に、彼女は半ば無意識的にそれを受け入れていたのです。
自分の力が愛しい我が子のものになるのであれば、それはそれで良いかもしれない、と……。
ただ一つ心配だったのは、スターチスまで自分のような化け物の姿になったりしないか……それだけが気掛かりでした。
(あの子には、私みたいな思い、して欲しくない……。本当に大丈夫──)
(『問題、ない』)
(っ!?)
突如、自分の中にもう一つの聞き慣れない声が聞こえました。
最初はまた自分をハメたあの性悪の声かとも思ったクートゥでしたが、次に続いた言葉に、彼女は心の中で眉を顰めます。
(『俺は《暴食》。お前が中心、真ん中だ』)




