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騎士にもいろいろいる  作者: 砂山一座
2章

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【ロイ・アデルアの終わりの始まり】

 まあ、結果はいつものアレだ。


 タリムは高熱を出していた。

 そう簡単に恋なんて芽生えるものか。

 そんな事だろうと思っていた。

 だが、ほんの少しの俺の期待を返せ。


 念のため、ギルドの診療所から宿直医に来てもらったが、風邪だろうとのことだった。


 そういえば、一昨日、こいつ半裸で秋の冷たい川に入ったんだっけ。

 体が丈夫だから熱が出る頃にならないと、風邪なのか何なのか、いつも分からないのだ。


 機嫌が悪かったのも、そのせいか?

 いや、さっきのあれに少しは嫉妬が混ざっていたと願いたい。

 ただ、タリムが言うように、わからないのだろう。

 それでも、こう、何か思うところがあったはずだ。

 もう一押しか?

 だが、何を押せというんだ。


 濡らした布をタリムの額に乗せて、考えたり諦めたりしながら、何度も換えてやる。

 震えるようにして布団にくるまっていたが、数時間後ようやく寝汗をかきはじめた。

 熱が落ち着いてきたのだろう、暑そうに布団を蹴るので、軽い毛布に替えてやらねばならないな。


 王都に来てから、タリムが体調不良の時に看病をするのは俺だった。


 タリムのクローゼットの中身は把握している。

 汗をかききったら、着替えも必要だな。

 寝巻きと、下着を取り出して、湯を沸かす。

 タリムは暑いのか寝苦しいのか、バタンバタンと落ち着きなく寝返りをうっている。


 宿直医が来た時に一度着替えさせた寝巻きは、すっかり汗で湿ってしまった。

 今度は下着まで取り替えないと冷えるな。

 前開きの何とも言えない猫柄の寝巻きを脱がしていく。

 心を無にして作業として手を動かす。

 これは医療行為だ。

 単なる看病だ。

 寝巻きを脱がして汗を拭く。


「⋯⋯ロイ?」


 目が覚めたのか、ぼんやりとしているので、起きているうちにと、薬を飲ませてやる。


「起きたなら下着を替えろ。汗で冷える」

「⋯⋯はい」


 のろのろと、しかし俺に背を向けると、躊躇なく下着を脱ぎ、そのまま新しい下着を着ようとしている。


「せめて汗を拭いてから着ろよ」

「でも、だるいし……」


 むき出しの背中に俺は何も感じない。

 滑らかで薄い脂肪の下に、しっかりとした筋肉が美しく並んでいる背中を、お湯で拭いてやっていてもだ!


 毛ほども何も感じない!


 俺の感受性は死んでいる。


 ピクリともしない!


 むしろこれは、太鼓の皮か何かだ。


 自己暗示をかけながら、手早く拭き上げる。

 本当は背中越しに色々見えているが、見えてないことになっている。


「……ぱんつ」


「さすがに尻は拭かないからな」


 仕方なく、といった様子で、毛布をかぶってごぞごそと汗を拭き、下着を着替えると、力尽きたのか、寝間着を着る間もなくまた寝てしまう。

 毛布をかぶった意味がないぐらい色々見えていたが、見えてない。

 そんなところは見えてなかった。

 だいたい、俺が言わなければ、全部俺にやらせるつもりだったのか、こいつ……。


「寝間着を着るぐらいできるだろうが……」


 もう、目を開ける気はないようだ。

 仕方がないので、さっきとは別の、何とも言えない猫柄の寝間着をかぶせる。

 前開きではないので、すこぶる着せるのが難しい。

 見たことのない柄だ。

 さては、エイドリアンにもらった小遣いで買ったな。

 どこで買うんだ、こんなの。


 されるがままになっていたタリムが、うっすらと目を開ける。


「……やっぱり、ロイが……」


 にっこりと微笑んでいる。

 こいつがこんな風に笑うのを見るのは、いつぶりだろう。

 思わず抱きしめて、思う存分その背を撫でまわす。


「ああ、俺が、なんなんだ?」


 やっぱり限界だった。

 拭いてすっきりとした額に口付けを落とす。

 どうせ明日になったら忘れているとか、つまらない結果になったとしても、今くらい俺を喜ばせることを言ってくれ。

 啄ばむように口づけを繰り返せば、眠気が来たのか、体重を俺に預けてくる。


「……いると……べ……んり……」


 そして、完全に眠りに落ちた。


 素に戻った俺は、寝て重くなったタリムを横たえて、布団をかぶせて、着替えやら、たらいやらの片づけを始めた。


 いいんだ。

 俺は別に大きな結果を期待していたわけじゃない。

 落ち込んでなんかない。

 落ち込んでなんか……。




 かすかにドアを叩く音がする。

 こんな夜更けに誰だ?


「もしもしー? オレ、オレ、オレだけどwww」


 聞きなれた、忌まわしい声がする。

 ドアを開ければ、大男が立っている。


「ソ……ソアラ……?」


 ドアの外に、自称ギルドマスターでタリムの義父、ソアラ・シアンが立っていた。


「ロイ、そこはな、うちには息子なんていませんっていう所だからな」


 口を尖らしているが、可愛らしさのかけらもない。


「は? いや、お前んちには息子がいるだろ?」

「ちがう!! そうじゃない! お前は、いっつもそうだ。ユウキはすぐ『オレってどちらさま?』って乗ってくれるのにさぁ」   


 ずかずかと、部屋に入ってくる。

 今まで一度もタリムの部屋に来た事なんて無かったのに。

 無言で部屋の中をぐるぐると歩き回る。

 ソアラは、まだ片付けの終わっていなかった着替えを見つけて摘まみ上げる。

 ……それにしても色気のない下着だな。

 ハッとして、ソアラを見れば、剣呑な目つきで俺を見ている。


「こ、こ、こ、こ、これはっ!」


 いや、慌ててどうする。


「ちがう、熱を出したタリムを看病していただけだ!」


 そうだ、俺はやましいことはしていない。

 ……いや、したか?

 いや、あれは……あれってどれだ?


「間男みたいな反応だな」


 ソアラは、腕を組んで俺を見下ろしてくる。


「だから、俺は何も⋯⋯」


 視線をそらしたら負けだと思っているのに、今は色々と虚勢を張れる状態ではない。


「そんなんだから、ロイは『いると便利』とか言われちゃうんじゃないでしょうかねー」


 握った二つの拳を口の前に持ってきて、ウフフと気持ち悪く笑う。


「なっ……! おっ……いや、ソアラ、いっ、いつからっ……」


 こいつ、いつから見ていたんだ?

 いつからっていうか、どこからっ???!!!


「じゃじゃーん!ラスボス登場!!」


 俺が青くなったり赤くなったりしているのに、ソアラはいつものように俺に勝負を仕掛けてくるつもりだ。


「ロイ、俺と賭けをしよう!」






 二章end


二章、お付き合いありがとうございました。

三章に続きます。

あいかわらず、不定期です。


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― 新着の感想 ―
[一言] ご紹介いただき、早速こちらも読みにきました! 見事に健全なじれじれカップルですね(笑)。 これでニコラやリリアムとロイの会話の背景が分かって色々すっきりしました。 不憫なロイに幸あれ! …
2023/05/22 16:36 あちらこちら
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