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騎士にもいろいろいる  作者: 砂山一座
2章

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【ロイ・アデルアの期待】

 シャーリーに大量の書類を書かされ、ギルドに戻った頃には夕方になっていた。

 西日が細く長く射し、物体から色を奪う。

 帰りは機嫌が良かったロージアを厩舎に戻して、自分の机で書類仕事をすることにした。


 タリムはとっくに帰ったはずだが、書類が提出された様子はない。

 どこで油を売っているやら。

 受付のシンシア・リーンはもう帰宅したようで、受付終了の札が出されている。

 最近、シンシア・リーンは俺に対する当たりがキツい。

 俺が何かしただろうか。


 とにかく、さっさと書類を作って帰ろう。

 俺だって今日はもう店じまいだ。

 帰ったとしても、自分の部屋に居場所なんてない。

 俺の部屋は、ソアラから直接管理を任された書類が塔を築いていて狭い。

 都合よく盗難除けに使われているのだ。

 自室に居住スペースを持てずに、タリムの部屋に入り浸っていたが、今はそれも出来ない。

 最近は武器や防具の手入れをしたら寝るだけだ。



 王都に帰ってきてからイライラさせられることばかりだ。

 ぽっと出の国王だけにとどまらず、リシルがタリムにベタベタするのが気に食わない。

 あれだけ姫と重ねていたくせに、たちまちタリムに順応していく中年たちが鬱陶しいったらない。

 タリムにしても、まぁ、野生の勘で実父に懐くのは、仕方ないとしよう。

 だが、いつもは警戒心の塊のくせに、リシルに慣れるのはやり過ぎだ。


「何がおじさんだ」


 独り言が虚しく響く。

 自分でそうしたくせに、離れてみれば、自分がどれほどタリムに依存していたのかよくわかる。

 分かりやすく禁断症状がでるほどに。


 こんなやせ我慢、馬鹿みたいだ。

 私情で、タリムの仕事にまで割り込んで……。

 仕事だといえば、一緒に居られるからか?

 俺はそんなことまでする奴だったのか?

 結局、何かしらの繋がりを残しておきたいのは俺の方で、未練たらしくちょっかいをかけているのが情けない。


 だってタリムだ。

 飼い犬のように帰ってくるとは限らない。

 突き放せば突き放しただけ、タリムは遠く手の届かない所まで行ってしまう。

 馬上で引き寄せたあの距離が永遠であればいいのに、と思うくらいには、俺は参っている。


 ロージアの管理表と、ギルドに預けている金を引き出す手続きの申請書を書きながらも、考えることはタリムのことばかり。


 正気ではない。

 一方、タリムは俺のことなんか忘れて、惰眠を貪っていたりするのだ。


 早くしないと、日が暮れてランプが必要になるな。


 ふとフロアに目を向けると、受付カウンターの前に誰かいる。


「すみません、登録が終わったんですけど、この後どうすればいいんですかぁ?」


 真新しい革にギルドの焼き印の入った胸当てをした女が、登録書を持って所在なく立っている。

 見たところ新しい組合員だろう。

 俺は新しい組合員にいい顔をされない。

 新人が必ず受ける、俺の訓練のせいだろう。

 ちょっと吐くぐらいの強度の訓練ごときで、目も合わせてもらえなくなる。

 気さくに声をかけてくる新人は珍しいといえる。

 それでも明日以降から訓練が始まるわけだし、気安いのは今日だけだな。


 登録書を受け取り、武器の確認をする。

 ざっと見たところ筋肉のつき方が均一ではない。

 俊敏さだけで審査を乗り切ったのかもしれないが、どんなタイプの攻撃をされれば逃れられないか教えてやらなければならないだろう。


 仕事のことを考えていると、いくらか暗礁に乗り上げているタリムとの関係から目を逸らすことができ……いや、無理だった。

 モーウェル騎士と義兄弟だったことがバレた時の目を思い出して、ため息をつく。

 あれは、完全に「ロイとも縁を切りたい」という顔だった。


「明日からの研修に組み込まれている訓練の予約を取るといい」


 シンシア・リーンの机の上にある予約表をとって新人に差し出す。


「あの、あたし、ジョアン・バーベナ。お兄さんは?」


「アデルア職員だ。新人研修では基礎訓練を担当する」

「職員さんなんですね! 宜しくお願いします」


 名前を記入するペンを握る腕を見る。

 やはり左右の握力が違うようだ、利き手を負傷したら生還が困難になるタイプだ。

 一緒に仕事をするパワー系の組合員を探して組まさなければならないな。


 時々こうやって新人と比べると、タリムの鍛え方のバランスの良さが際立つ。

 まぁ、それもあいつの性格のせいだ。

 決められたものを決められただけやる。

 手も抜かないが、一回でも多くやるということは無い。

 回数を減らす為なら強度を強くすることを厭わない。

 自ら進んで何かはしないが、こちらの望んだ強度を望んだままに保つことができるのは、才能だと思う。

 利き手でなくとも、眼球を壊さない強度で相手の目に串を刺すことだってできる。


 串は良くないがな、串は。


 新人の筋肉のつき方から、明日の訓練内容を考えていると、ジョアン・バーベナはゴソゴソとカバンから一度も開いた様子がない教本を取り出した。


「アデルア職員、あたし、この本でよくわからない所があるんですけどぉ」



 ジョアン・バーベナは割としつこかった。

 書類を書いているからと断ったのに、終わるまで待ち、なんだかんだで食堂にまで着いてきた。

 明日までの辛抱だ、1日目の訓練が終わる頃には、俺のことを鬼か悪魔を見るような顔で見るようになる。


 珍しく女子を伴って食堂に入ると、その場にいた組合員たちが騒めいた。

 ほんの少しの期待を持って食堂を見渡すが、タリムは見当たらない。

 俺が誰かを連れて食事しているからと、嫉妬でもするようなら簡単でいいのだが、あいつは、俺の花街の仕事にすら何の感情も持たなかった経歴の持ち主だ。

 

 今の所、タリムが俺関連で嫉妬のような反応を示したのは、ソアラとリシルとロージア、あとは、俺か?

 ……おっさんと、おっさんと、馬……と俺。

 ……あいつ、どうなってるんだ?

 いつの間にか、夕食の芋を形がなくなるほどに潰していた。


「じゃぁ、だいたいパーティーを組んで仕事をしているんですね」


 バーベナ組合員と話しているのに、意識が全部別のところにある。


 俺はもう今日は十分働いてきたんだ。

 解放してほしい。


「そうだ。その方が任務達成しやすい。だが、簡単な任務は個人に割り振ることもできる」


 そんなのは、教本を読めば書いてある。


「一人でお仕事している人もいるんですか?」


 話しかけないでくれ、俺は今、存在を否定される不安と戦っているんだ。

 タリムは、結局、ニコラ・モーウェルと関係の出来た俺を、捨てるつもりじゃないだろうな。

 俺の方から突き放している場合ではない。

 普通に縁を切られかねない。


「ああ、いるな。だが、それにはかなりの実力が必要だ」


 なにが「俺の事ばかり考えるといい」だ。

 口ではギルドの事を話しているのに、頭の中はタリムのことでいっぱいだ。

 この話題でも、頭に浮かぶのはタリムのことだ。

 タリムはギルドの仕事を今まで誰とも組まずにやってきている。

 それはかなり珍しい事だ。

 タリムは、腐ってもギルドマスターの養子だ。

 過酷な訓練を受けているし、間違いなく強い。

 強いだけではなくて、戦闘スタイルが少し特殊なのだ。

 いや、少し違うな、性格がか?


「でも、パーティーを組む前で、人員が必要な時はどうするんですか?」


 バーベナ組合員は真面目そうな顔をして聞いてくる。

 俺からの良い評価が欲しいのだろうが、見た目だけ努力しているように見せる奴は、別の職員から徹底的に教育しなおされる。

 ギルドでは何を言ったかではなくて、何を実際にしたかなのだ。

 それも教本に書いてあるがな。


「必要な時は申請すればギルドの職員が付くか、協力可能な組合員を紹介する」


 教本を読めとか、注意してやることはできるが、今日は必要以上に話すのが億劫だ。


「アデルア職員を指定できたりしますか?」


 バーベナ組合員は、媚態を作って俺を誘惑しようとしているようだが、落第点だ。

 この程度では諜報活動にも使えない。


「指定はできないが、ギルド側である程度必要なスキルを持つ人員を派遣する。人選には心配は無用だ」


 王都に来て間もない頃、新人のタリムはギルドから人員を借りる必要がある仕事を受けた。

 ギルドの貸出人員としてベテランの職員を付けたが、帰ってきてからもう二度とタリムにつけないでくれと文句を言われた。

 別の職員をつけても結果は同じだった。

 何を考えているかわからなくて、タイミングを合わせづらいのだそうだ。

 職員が止める間もなく、タリムが先に動くから、いつもそれに合わせてギリギリで戦わなければならない。

 相手の戦意を削ぐのが上手いので、スピード感はあるが、戦闘スタイルが酷い。

 つまり、見た目が酷いので書類を書くのがとてつもなく面倒くさくなるのだ。


 逃走中の賊を捕縛するのに、縄がないからと、耳たぶと皮下脂肪に釘を打って動けなくして職員が来るまで待ったという報告を聞いて頭を抱えたっけ。

 それからずっと俺が着いていく事になった。

 タリムがどう思っているかは知らないが、毎回俺が付くのは私情でもなんでもない。

 タリムと組むのを他の職員が嫌がっているだけだ。


「アデルア職員がついてきてくれるなら、安心だなぁ、って思ったんだけどなぁ」


 新人が語尾を甘くして話すのも今宵限りだ。

 明日は食事が喉を通らないかもしれない。

 今のうちにしっかり食事をとっておくといい。


 そうしているうちに、タリムがふらふらと食堂に入ってきた。

 こちらをチラチラ見ながら奥の席に座る。

 今日はいつにも増して様子がおかしいな。

 俺か? 俺のせいか?


「アデルア職員はどこに住んでいるんですか?」

「宿舎暮らしだ」


 今日のスープは少し味が薄い。

 あまり腹が空いていないなと思ったら、アディアール家から帰る時に、ハンナがパイを一つ包んでくれたのだった。


 馬上で食べたが、懐かしい味だった。

 タリムにも一つもらって来ればよかった。

 あのパイなら多少タリムの機嫌がとれるかもしれない。


「えー、そうなんですか! 宿舎ってどんな感じなんですか? 興味があるんですよね! 見てみたいな~」

「女子寮はまた別にある」


 このやり取りの中も、チラチラとこちらを窺うタリムが視界に入る。


「宿舎の部屋が見たいんですよ! ここから近いんですよね? ギルドの近くに越してくるのもいいなと思っていて、参考にアデルア職員のお部屋とか見ることできますか?」


「宿舎見学には申し込みが必要だ」


 そう言えば、タリムはここのところあまり食欲がない。

 いつも節操なく、すぐ腹が減るのに珍しい。

 今日は、いつものタリムなら頼まないような肉の少ないメニューを食卓において睨んでいる。

 こちらをチラチラと気にしているが、方針が固まらないようで、挙動不審だ。


 お、あからさまに目を逸らした。

 ほー。

 へー。


「あとは何か教本で聞いておきたいことはあるか?」


 タリムが多少はこちらを気にしている。

 これは、今までよりはまだマシな兆候かもしれない。

 俺は、もう少しだけこの新人とのやり取りを続ける気になった。


 案の定、読んでもいない教本からつまらない質問を繰り出してくる。

 時々、女性に向いている任務があるが、この程度では任務に支障をきたす。

 異性の気を引くにしては稚拙な仕草だし、そういう仕事を受けるつもりなら花街に研修に行かさなければならないかもしれない。


「あの、ここなんですけど……」

「それの説明は下のところに太線で書いてある」

「あ、ほんとうだ! えーと、なんだろ?」


 駄目だな、どうにも見込みがない。

 潜入や懐柔など、頭を使う仕事は回さないように但し書きをしておかなければ。


「あ、そうだ! アデルア職員て、お付き合いしている人とかいるんですか?」


 急に顔を上げたバーベナ組合員は、度を越した至近距離でそんなことを訊いてくる。


「君には関係ない」

「ぶっちゃけ、あたし、アデルア職員の顔がすごく好みで! お近づきになれたらいいなって思ってるんですけど」

「興味がない」

「本当ですかぁ? 私の身体とか興味ないですか?」

「ない」


 誘い方が下品だ。

 シャーリーに研修を任せると、その後とんでもないキャラクター付けをされるかもしれないから、女性の教官をつけよう。


「えー? なんか、やらしい目で見られてると思ったんだけどなぁ」


 懐から手巾を出して、俺の口元を拭う。

 何もついていないはずだ。

 手管としては古い手だな。 

 何処からともなく「っうあ!!」という怒号が聞こえる。


 タリムだ!

 かかったか?


「生憎、女性の裸体なら見慣れているので興味がない。抱いて欲しいのであれば、そこの斜めのところに座っているジーオ組合員に頼むと良い。好き嫌いせずに女性の相手をしてくれる。明日の訓練の余力が残るかどうかはわからんがな」


 来るか?

 来るのか?


「えー、あたしそんな節操なしじゃないですよ!」

「ああ、さっきは君の筋肉のつき方を見ていた。左右のバランスが悪く、特に握力に差があり過ぎだ。利き腕ばかりしか鍛錬してこなかったのだろう? 訓練のメニューを楽しみにしているといい」


 皮肉を込めて口の端をあげると同じ頃に、ダンッと食卓に手をつく音が響く。


 来た!!!!


「……ロイ、ちょっと来てください。困ったことがおきまして」


 珍しくロイと呼んだが、酷く深刻そうな顔で俺を睨んでいる。

 なんだ、どういう感じだ?


「ああ、どうした?」


 タリムの目が赤い。

 泣いたのか?

 タリムは頻繁に泣く。つまらないことでも泣く。

 だが、一人で泣くことはあまりない。


「すみません。急用なので!」


 タリムは泣きそうな顔で唇をかみしめている。

 周りは面白そうに見ている。

 まぁ、俺も当事者としてこの状況を面白がっている一人だ。


「アデルア職員、ロイさんというお名前なんですね!

あの、もしよければ、私もロイさんと呼んでも?」


 新人は、なかなかいい煽り方をする。

 タリムがどう出るのか見ものだ。


「いや、アデルア職員と呼んでくれ。すまないが、失礼する。続きは明日、カウンターで聞くといい」


 立ち上がろうとすると、新人に腕を取られる。


 タリム、どうした?!

 食い入るように、俺の肘にかけられた新人の手を睨んでいる!!


「あたし、少しのようなら待ってます! 規則のことだけじゃなくて、ギルドの人たちのことも色々聞きたいですし!」


 頭を押さえて、何を考えているのかわからないが、見ようによっては俺が異性と食事しているのを嫉妬して割って入ったようにも見えなくもない、贔屓目に見れば。

 どうなんだ?

 俺の少し距離を置く戦略は功を奏したのか?


「いえ、しばらくかかりますのでっ!」


 独占欲か? まさか、あのタリムに独占欲が沸いてきたのか?!


 俺は驚きを隠せない。

 多少浮かれてもいる。


「だとよ、悪いな」


 いそいそと、夕食の残りをタリムの分も合わせて包んでもらう。

 俺は今、眉間の筋肉を酷使して顔が緩まないようにしている。


 た、楽しいことになってきた……。

 これは、これは期待していいのか?!



本日、もう一話投稿予定です。

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