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私、諦めるのやめました ~崖っぷち下級貴族令嬢の生存戦略~  作者: 久保 まり子
第一部 婚約破棄された田舎下級貴族令嬢

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第三章 外国から来た要人

「ルーカス団長、彼女が妹のサラフィーナです」


薄い赤毛の男性――私の兄が、濃い青色の髪をしたおじいさんに声をかけた。


高齢なのに、ずいぶん濃い色の髪だな……。


なぜか、私はそこに驚いていた。


この世界では、見た目が重要だ。


顔立ちもそうだけど、髪の色や濃さによって、持っている魔力の強さがわかる。


カツラや帽子、女性なら頭からすっぽりと濃い色のヴェールをかぶって、ごまかすこともできる。


でも、魔力を感じられるようになる成人貴族同士なら、ごまかしはきかない。


目の前にいる二人の老人は、間違いなく高位の貴族だ。


たぶん、身分を隠すための魔法陣が描かれた、フード付きの外套を着ている。


それなのに、その外套ですら、一目で高価な布だとわかる。


団長?


他国の人?


私、なにかした???


「お前が、ルーナカルッシュの世話をしていた女か?」


え?


突然の上から目線。


偉い人だからって、威張ってない?


「はぁ……それが、なにか?」


怒りから、つい投げやりに答えてしまった。


兄の体がガタガタと震えているのが、目の端に見えた。


「生意気な……」


隣にいた金髪のおじいさんが、ぼそっとつぶやく。


兄の隣では、義姉の顔色まで悪くなっていく。


……そんなに怒ること?


「おい。ルーナカルッシュの死後、彼女の魔術具をお前がもらったようだな」


青髪のおじいさん――ルーカス団長が、私を問いただす。


「家にあった古い掃除の魔術具以外に、何かないのか?」


ルーナカルッシュ。


彼女は、私が子どものころから近所に住んでいたおばあさんだ。


夫に先立たれ、子どもはいないと聞いていた。


夫は中央で教師の助手をしていたらしく、夫が亡くなったあと、遠い親戚である領主を頼って、我が家の近所にある空き家へ引っ越してきた。


私は、お小遣い稼ぎをしながら、ルーナカルッシュの冒険話を聞くのが好きで、よく家事の手伝いに行っていた。


ルーナカルッシュの亡くなった旦那さんは、物語を集めるのが好きだったらしい。


中央に来ている貴族たちから、いろいろな話を聞いて集め、それを自分なりに編集して、妻であるルーナカルッシュに毎晩聞かせていたそうだ。


ルーナカルッシュは晩年、目が見えなくなった。


それでも、いつも左手首に結んだ布製の腕輪を触りながら、旦那さんから聞いた物語を話してくれた。


目が見えにくくなっても、本を読むようにすらすらと。


「掃除道具の魔術具以外は、ありません」


嘘はついていない。


魔術具は、掃除道具だけ。


彼女からもらった布製の腕輪は、魔術具ではない。


「ちっ。無駄足だったな」


ルーカスはそう吐き捨てると、金髪のおじいさんとともに兄を睨みつけ、足早に立ち去ろうとした。


そのとき、金髪のおじいさんが、ふと私を振り返った。


「おい。ルーナカルッシュの死後、誰か訪ねてこなかったか?」


「ええ。あなたたちと同じくらいの年の老人が、一人訪ねてきました」


「黒髪の人です」


その瞬間。


場の空気が、凍りついたように静まり返った。


「サラフィーナ、俺は聞いてないぞ!」


兄が震える声で叫んだ。


「だって、その人に、ブラント王国人には話すなって言われたんだもん。


うちの国以外の人に聞かれたら、答えていいって」


兄に話したところで、どうせ信じてもらえないと思っていたというのもある。


「おい。その男は、他に何と言っていた?」


さっきまで私を馬鹿にするような態度だったルーカス団長の目が、急に鋭くなった。


私は、そんなルーカス団長を見ながら、唇をにやりと上げた。


「君の望みをかなえてもらえるなら、今から言うことを伝えていいって」


再び、周囲の空気が凍りついた。


「おい。からかっているのなら、この場で叩き切るぞ!」


金髪のおじいさんが、大きな魔石の埋め込まれた古い杖を構えた。


今にも魔力による攻撃を、私に放ってきそうだ。


空気が、一気にピリピリする。


兄なんて、白目をむいて、今にも卒倒しそうになっている。


それでも私は――。


「王都にお屋敷を持つ家で働きたい!!」


腹の底から、大声で叫んだ。


金髪のおじいさんは、一瞬、意味が理解できなかったようだ。


そして、隣にいる若い騎士へと振り返った。


「どういう意味だ……?」


「えっと……」


若い騎士も、困ったように目を泳がせている。


「だから、私、この家から出て自立したいんです!」


私は、もう一度、はっきりと言った。


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