第二章 目が覚めたら、貴族令嬢になっていました
目が覚めた。
最初に目に入ったのは、濃い青色の髪をしたおじいさんだった。
そして、その隣には濃い金髪のおじいさん。
さらに、その周囲には鎧を着た人たちが数人。
…………。
え?
何、この人たち。
青い髪に、金髪?
おじいさんなのに?
どんだけ若作りしてるの?
もしかして、河川敷でコスプレ大会でも開催されていたのだろうか。
私、知らないうちにコスプレイヤーに救助された?
そんなことを考えていると、青い顔をした、薄い赤色の髪の二十代半ばくらいの男性が目に入った。
その男性が、青髪のおじいさんと何か話している。
ただし。
何を言っているのか、さっぱり分からない。
日本語じゃない。
英語でもない。
というか、そもそも私が知っている言語ですらない。
……ここ、どこ?
そう思った瞬間だった。
頭の中に――
ガツン!
何かが叩き込まれたような衝撃が走った。
「――っ!」
頭を抱える。
そして次の瞬間。
知らないはずの記憶が、洪水のように押し寄せてきた。
赤毛の男性。
グリンヴァルト家。
長男。
カールバルト。
そして、その隣にいる女性。
義理姉、アンネリータ。
…………。
え?
知ってる。
いや、知らない。
でも、知っている。
私の頭の中には、彼らについての記憶が確かにあった。
そして――。
私は、木村知美ではなかった。
この世界での私の名前は、
サラフィーナ・フォン・グリンヴァルト。
15歳。
下級貴族の令嬢。
…………。
15歳?
思わず心の中で叫んだ。
若っ!
私、さっきまで35歳だったんだけど?
まさかの20歳若返り。
いや、喜んでいいところなのか、これ?
そんなことを考えているうちにも、サラフィーナの記憶が次々と流れ込んでくる。
15歳で成人。
成人直後に親の決めた相手と結婚するのが、この世界の常識。
で、相手は十五歳年上の下級貴族。
しかも、第一夫人がすでにいる。
つまり私は――第二夫人になる予定だったらしい。
…………。
いや、待って。
情報量が多い。
でも、そんなことを考えている暇もなく、さらに衝撃的な記憶が流れてきた。
成人式の1か月前。
婚約破棄。
原因は――私の「不妊」。
正確には、魔力の相性が悪かったらしい。
この世界では、妊娠・出産には魔力が関係している。
生まれたときに一人ひとつ持っている「命の石」。
それを結婚の魔術具に入れ、夫婦それぞれの魔力を合わせる。
すると石の色が変化し、二人の魔力が馴染んだことが分かる。
ところが。
私と婚約者の命の石は――
まったく染まらなかった。
びっくりするほど、染まらなかった。
ほんのり色が変わるとか。
ちょっとだけ反応するとか。
そういうレベルですらない。
完全に、
「何も起きませんでした」
だった。
魔力差が大きければ、命の石が染まり合わないこともある。
でも、私も彼も同じ下級貴族。
ここまで何の反応もないのは、普通ではないらしい。
そして彼には、すでに第一夫人との間に子供がいる。
そのため――
「原因はサラフィーナだ」
ということになった。
…………。
いやいやいや。
待って。
「なんで、私がわるいって事になるの!!!?」
魔力の相性って、私が努力したらどうにかなるものなの?
筋トレとか?
食事改善とか?
毎朝走ったら魔力の相性がよくなる?
そんな私の心の叫びなど当然誰にも届かない。
この世界では、貴族が子供を産むことは重要な役割のひとつだった。
特に今は、他国で問題があり、すべての国で魔力不足が深刻になっている。
子供を産めない貴族。
それは、家にとって大きな問題だった。
当然、婚約は破棄された。
そして元婚約者は、私を見るなり口の端をあげて、にやりとした。
「私に恥をかかせおって。この責任はそちらで取るように」
…………。
は?
責任?
私に?
何の責任?
魔力の相性が悪かった責任を、私がどうやって取るのよ。
けれど、現実は容赦がなかった。
私は、婚約者の時間を無駄にしたとして補償を求められた。
もちろん、貧乏な我が家にはお金なんてない。
そこで代わりに要求されたのが――
私の「不妊」が原因で婚約破棄になったことを公表すること。
そして、結婚のために用意した花嫁衣装などをすべて元婚約者へ譲ること。
どうやら、彼の娘が来年結婚するらしい。
…………。
なるほど。
私の花嫁衣装。
娘さんが使うんですね。
それ、もはや私の婚約破棄を結婚式の費用削減に利用してない?
そんなことを考えてしまった。
いや。
笑っている場合じゃない。
この世界では、こんな私を嫁に欲しがる貴族など、いない。
持参金もない。
魔力も低い。
学歴もない。
そして――
不妊の烙印まで押された。
貴族としては、ほぼ詰みである。
当然、家族にとっても私は頭の痛い存在だった。
特に義姉のアンネリータは、元々気が合わなかった。
婚約破棄になった後、大きなお腹をさすりながら、冷たい声で言った。
「子供が生まれたら、近寄らないでね」
そして、にっこり笑って、
「ねえ。迷惑だってわからない?いつまでこの家にいるつもり?」
…………。
うん。
分かった。
この世界でも。
私、居場所ないんだ。
前の世界でも居場所がなかった。
そして、転生したと思ったら、今度は貴族社会で居場所がない。
人生二周目。
開始早々、難易度が高すぎない?
私は天井を見上げた。
そして、心の中で盛大にため息をついた。
――さて。
どうしようか。
私、まだ15歳なんだけど。




