第一章 プロローグ
「あ~、貧乏つらっ」
ぼそっと、口から独り言がこぼれた。
私は雨の中、自転車のペダルを漕いでいた。
私、木村知美。今日で35歳の誕生日を迎えた。
小学生の頃に描いた予定では、優しい旦那さんとかわいい娘に恵まれて、楽しく暮らしているはずだったのに。
「うーーん、なんかの間違いだよね……」
また、口から自然と言葉がこぼれる。
周りからは、
『ともちゃん、若いのに親の介護して、やさしい~』
なんて褒められていた私が、なんでこんなことになっているんだろう。
確かに、自分で決めた。
「兄さんのばかやろーーー。親が死んだら、急に態度変えて!!! 時間と金返せー」
悪態がこぼれる。
確かに、自分で決めて面倒を見たことに後悔はない。
でも――
「こんな現実、ないんじゃない? 親の介護がんばって偉いって言われたんだから、人生ボーナスとか欲しいよね」
普段は祈らない神様に、祈ってみる。
「お金と若さをください!!」
あと少しペダルを踏めば、神社が見える。
遅い時間だから、あまり車もいないし……。
神社の前には川が流れていて、道も狭く、危ない場所だ。
しかも、少し上り坂になっている。
疲れた体にムチを打って、自転車を加速させた。
一瞬の出来事だった。
急に目の前に、車のライトが見えた。
「えっ? やだ、来ないで!!!」
慌てて、川側に自転車のハンドルを切った。
ふわっと体が浮いた。
上も下も水。
冷たい。
息ができない。
なんだか目の前が赤い。
川に落ちた――。
そう思った時には、目の前は暗くなっていった。




