↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、諦めるのやめました ~崖っぷち下級貴族令嬢の生存戦略~  作者: 久保 まり子
第一部 婚約破棄された田舎下級貴族令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/23

第十四章 私の愛しのセバスチャン

ぼっちゃまが王都へ出発してから、かれこれ二か月が経とうとしていた。


私の祈りが神に通じたのか、なんと未だ戻ってきていないのだ。


何でも、ぼっちゃまの教育不足が当主様に露呈し、母親のヨナサーラ様やソルトロイドさんもろとも、厳しく指導を受けているという話だ。


……性格のほうも指導してもらえているのかしら。


でもついに来週、帰ってくることになったのだ。


ぼっちゃまが不在だった二か月間、私はそれはそれは頑張った。


何をって?


それはもちろん、畑仕事!!


生きていくうえで欠かせない食べ物。


それが、多少の手間をかけるだけでタダで手に入る可能性があるんだよ。


最初に畑の場所を見たときは夜で暗かったから、よくわからなかった。


明るくなって確認したら、なんと、平均的な日本の戸建て住宅が三軒くらい建つほどの広さがあった。


数年程度、放置されていたせいか、畑と森の境目すらわからなくなっていたけれど、フリッツとカール兄弟に手伝ってもらい、なんとか作物を植えられる状態にまで整えることができた。


「おい、セラフィーナ。ここは森に近くて暗く場所が悪い。せっかく作物を育てても、魔獣や魔虫に食われるのがおちだぞ。一応、苗なんかは今回タダでくれてやるけど、次からは金を取るからな」


妹のコリンナを助けたお礼にと、太っ腹にも苗やら何やらをタダで譲ってもらえたのだ。


「それにしても、あんた、本当に農作業なんてできるのか? これだけ広い畑を女一人で維持するのは、平民でも大変だぞ。たまには有料で手伝ってやってもいいがな」


有料で、とは言いつつも、どうやら心配してくれているらしい。


でも、私には頼もしい味方がいるのだ。


「ほほほ、大丈夫ですわ。なんてったって、私は貴族ですもの」


そうなのだ。


私には魔力と魔術具という武器がある!


心配する兄弟に向かって、私は高らかに叫んだ。


「いでよ、セバスチャン!」


我が愛しの箒と掃除棒の魔術具を召喚したのだ。


* * *


この偉大なる発明が爆誕したのは、病から回復した数日後のこと。


体調を崩して寝込んでいた私も、ようやく動けるようになった。そこで、コリンナさんには帰ってもらった。さすがに、いつまでもつきっきりで世話になるわけにはいかない。


というわけで、リハビリも兼ねて、自分の身の回りのことは自分ですることにした。


ところが、少し動いただけで、「ぜーはー」した。


体力がすっかり落ちてしまっていた。


ヘルゲさんからは、体内に残った「反発する魔力」を追い出すためにも、できるだけ魔力を使うようにと言われている。


そこで最初に試したのが、私が唯一使える、杖から火を出す魔法だった。


「ティンダ!」


バチバチッ。


火は多少出るものの、魔力を消費し続けようと頑張っても、炎を出し続けることができない。


……うん。これはダメだ。


ということで、今度は手持ちの箒の魔術具に、とにかく魔力を込めてみることにした。


でもさ、掃除といっても、このせまーい部屋なら秒で終わる。


これじゃあ、「反発する魔力」を出し切るには時間がかかりすぎる。


そこで、ふと思い出したのだ。


昔の名作アニメで、ネズミが箒に魔法をかけて、水を運ばせていたシーンを。


箒にだって、腕があれば水くらい運べるはず!


某アニメの光景を思い浮かべながら、えいやーっとばかりに箒の魔術具を握り魔力を思いっきり込めて、呪文を唱えた。


「スイーピア!」


すると、箒から枝がにょきにょきと生えてきた。


おおっ! 腕みたい!


さっそく、井戸から水をくんで運ぶよう命令した。


ひゃっほー! 魔法万歳!


……と、喜んでいたのも束の間。


なぜか箒は、くんできた水を私の頭からぶっかけた。


なんで!?


ふと自分の髪に触れてみる。


……そういえば、ここ数日、お風呂に入っていなかった。


髪はべたべたで、汚れもひどい。


なるほど。


さすが掃除道具。汚れは許さないってことなのね。


・・・それはともかく、ただ水を井戸から運ばせるだけじゃ、そこまで魔力って使えないじゃない?


そこで、掃除棒を先端が三つに分かれた鍬の形に変形させ、箒の背に括りつけた。


そして、鍬の先を地面に突き刺し、そのまま歩くように命令してみた。


すると……。


なんということでしょう!


箒が土に刺さった鍬を引っ張り、耕すことができたのだ。


さらに、箒の両腕には、ゴミ置き場から拾ってきた穴の開いた桶を持たせ、水を入れて運ばせる。


ジャジャーン!


全自動耕し・水まき機の爆誕だ!


私って天才?


ところで私が、掃除の魔術具をここまで自由自在に操れるのは、魔術具自体が私の命の石に完全に染まりきっているかららしい。


通常、命の石にが完全に染まるほど魔力が込められた魔術具といえば、騎士団長クラスが長年魔力を注ぎ続けた魔剣や、宮廷魔術師団長クラスが使う、身の丈ほどもある長杖などだそうだ。


それなのに、私の場合はなぜか掃除の魔術具がそうなった。


……なぜ?


そこで、ふと疑問が浮かんだ。


掃除の魔術具は私の命の石に染まったのに、結婚相手の命の石は染められないの?


そんなツッコミがどこかから飛んできそうな気もするけれど、そこは気にしないことにした。


でもさ、箒が畑を耕して水をまいているだけでは、某アニメの名シーンをイメージした身としては絵面が寂しい。


そこで、以前、憂さ晴らしに作ったものを引っ張り出してきた。


ぼっちゃまの顔を描き、藁を詰めた布だ。それを箒の先にくくりつけ、動かしてみた。


……うん。ぼっちゃまそのものじゃん。


こうして畑で働かせれば、これまでの悪行を少しは償ってもらえるってもんだ。


ふふふ。せいぜい、私のために汗水流して働くがいいわ!


黙々と黙って私の為に働く姿を見ると、なんだか愛着が湧いてきた。


そうして、私はこの愛しの魔術具に名前をつけた。


その名も――セバスチャン!


なぜ「セバスチャン」なのかって?


もちろん、ぼっちゃまの名前、セバスシェルドからもらったのだ。


* * *


セバスチャンを見た二人は、口をぽかんと開けたまま、しばらく動かなかった。


「……なぜ、かかしが動く?」


フリッツがぼそりとつぶやいた。


「夜見たら、俺、うなされそうだ……」


カールに至っては、すっかり化け物扱いである。


「名前はセバスチャンか……」


フリッツがそうつぶやいたあと、顔をひきつらせて言った。


「おまえ、本当に命知らずだな。一応、言っとくが、俺らは何の関係もないからな」


そう言い残すと、二人はそそくさと帰っていった。


* * *


畑に苗を植えてから数週間。


立派な野菜ができた。


大豊作だった。


その出来栄えには、フリッツ兄弟も驚きを隠せなかった。


「俺らの畑より育つのが早いし、みずみずしさも段違いだ。こんなに立派な野菜を見たのは、世界的な魔力不足問題が起きる前以来だな……」


なぜか二人は、悔しそうな顔をしていた。


「ほーほっほ! 私の実力を見ました? 貴族ですから、これぐらいできて当然ですわ!」


頭には日よけを兼ねたボロ布を頭に巻き、身にまとっているのはフリッツから格安で譲ってもらった、つぎはぎだらけの服。


そんな格好にもかかわらず、私は胸を張って二人に自慢した。


……見た目はどう考えても、貴族令嬢というより貧乏農民なんだけどね。


そんな私に、カールがおずおずと尋ねた。


「セラフィーナ、よければ野菜を少し分けてくれないか。もちろん、謝礼はする」


もちろん、一人ではこんなに食べきれない。大歓迎だ。


「それじゃあ……追加の野菜の苗と小麦粉、それに干し肉。あとは、オーブンを作るのを手伝ってほしいわ」


かなり欲張ったつもりの私の提案に、カールは目を丸くした。


「へっ、そんなんでいいのか?」


どうやら、思っていたより要求が少なかったらしい。


「ちっ」


フリッツが舌打ちする音がした。


どうやら、私の畑で採れた野菜は、かなり出来がいいらしい。


町に持っていけば、かなりの高値で売れるとのこと。


ほほーう。


もしかしてフリッツ、私から安く買い叩こうとしていた?


まあ、とにかく、今は自分が食べる分と、オーブンさえできれば満足だ。


販売については、今後の課題にするつもりである。


そんなことを考えていると、フリッツが畑の隅を見て、息をのんだ。


「おい、あの隅に生えてる草って、もしかしてクラウト草か?」


フリッツは畑の端を指さしたまま、固まっている。


そうなのだ。


畑の隅で枯れかけていた薬草が、なぜか復活して元気になったのだ。


「ふふーん。私の実力です」


本当は、水やり以外、特に何もしていない。


でも、とにかく威張っておいた。


「おい、今どき、あんなに状態のいいクラウト草なら、お貴族様に一束、小金貨一枚以上で売れるぞ」


フリッツの目の色が変わった。


「えっ、そんなにするの……?」


実はクラウト草は、先日、私の命を救ってくれたヘルゲじいさんに、全部あげると約束している。


ちょっと、大盤振る舞いしすぎた???


でも、今後、魔力による癒しが使えないと判明した私にとって、ヘルゲじいさんの薬草の知識は命綱だ。


今回はすべて譲るということで、フリッツには諦めてもらった。


それでも、目の前にある金のなる草から、フリッツの目は離れない。


そんなこんなで、カールはいくつかの作物を収穫し、大事そうに抱えて帰っていった。


なんでも、婚約者に食べさせるのだという。


フリッツが嘆いていたのだが、カールの婚約者は両親を亡くし、本人も病弱で寝込みがちなのだそうだ。


そのうえ、幼い弟妹の面倒まで見ているらしい。


そんな相手との交際に、フリッツを含め、両親も大反対したという。


それでもカールは、こう言って説得したそうだ。


「もし、コリンナや兄さんの妻が同じ状況になったら、見捨てて別の相手をさがすのか?」


その言葉が決め手となり、ようやく婚約を認めてもらえたのだとか。


「ううううう……」


思わず、鼻水までたらし、号泣してしまった。


「うひょー、気持ちわりい顔だな……」


フリッツの失礼なつぶやきが聞こえた気がする。


まあ、今さらだ。


私は、おいしそうな野菜を見繕い、森で採った新鮮な木の実も添えて、フリッツに渡した。


「これも、その婚約者に食べさせてあげてよ」


カールって、弱虫なだけじゃなかったんだね。


好きな女性には、とことん尽くすタイプなのか。


見直したよ!


「お、おう。ありがとうな。……って、あんた、本当にお貴族様らしくないな。俺ら平民のことまで気にかけてくれるなんて……」


まあね。


私が貴族令嬢だっていったって、下手すればスリッパより軽い命だったわけだからさ。


それに、転生前は母親の世話をしていたから、大切な人の面倒を見る気持ちはわかるのよ。


なんだか、心がほっこり温かくなった。


とにかく、来週帰ってくるぼっちゃまのことは、頭の片隅に追いやっておこう。


「じゃあ、またね」


フリッツと別れた私は、転生して以来、最高にいい気分で小屋へ戻っていった。


その日の夜は、新鮮な採れたて野菜と干し肉入りのスープをたらふく食べ、大満足で眠りについた。


そういえば、一度ノイズが入って以来、あの男女の夢をぱったり見なくなった。


あれは、私の魔力の状態と関係があるのだろうか……。


よくわからないけれど、いつかまた、あの男性が女性にやさしく語りかける話を聞いてみたい。


そんなことを考えながら、うとうとしていると――。


ミシッ……ミシミシミシッ!


畑のほうから、今にも壊れそうな机が悲鳴を上げるような音が聞こえてきた。


続けて、少年と少女のものらしい悲鳴が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。