↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、諦めるのやめました ~崖っぷち下級貴族令嬢の生存戦略~  作者: 久保 まり子
第一部 婚約破棄された田舎下級貴族令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/23

第十一章 下女の悲惨な一日


はぁ~、疲れた。


てか、もう立てない。


ぼすっ。


つぎはぎだらけの布は、さらにびりびりに破けている。もはやシーツとして機能しているとは言い難い。そんな布がのった藁のベッドに、私は倒れ込んだ。


あのガキめ!!


体は限界なのに、怒りで心は煮えたぎっている。


あのぼっちゃま、この前の仕返しとばかりに、くだらない嫌がらせを仕掛けてきた。


まずは、大事なペンがなくなったと言って、屋敷中を探させた。


絶対にあるわけがないだろうと思いながらも、暖炉の奥まで探す羽目になった。


そして、なぜか頭を暖炉に突っ込んで中を確認した瞬間、お尻を蹴られた。


結果、私はすすだらけ。


肝心のペンはというと……ぼっちゃまのポケットから出てきた。


最初に、ちゃんと確認したんだよ!


「ぼっちゃまのポケットにあるのではありませんか? もうお探しになりましたか?」


って。


そしたら、


「おい、下女。俺を疑うのか。恥を知れ!」


と怒鳴られ、後ろではソルトロイドさんに睨まれた。


……いや、これ、もう探すしかないじゃん。


で、ペンが見つかったら見つかったで、悪びれる様子もなく、


「おい、ポケットから見つかったから、もうよい。役立たずめ」


だってさ。


きいいいいいいいいーーーー!!


心の中で絶叫するだけにとどめた自分、偉い!


それでも、なんとか笑顔を貼り付けて、


「ぼっちゃま、見つかってよかったですね」


と言えた自分、偉い!


だって、ぼっちゃまの後ろでは、ソルトロイドさんが杖を握り、いつでも攻撃できるように構えていたんだよ……。


あの人、ただの側仕えじゃない。


あの身のこなし、相当な手練れじゃない?


逆らったら、何をされるかわかったもんじゃない。


……まあ、ペンの紛失なんて、まだかわいいものだった。


このあとも、嫌がらせは続くのだ。


なんとかペンが見つかった頃には、お昼ご飯の時間になっていた。


使用人は交代で食事をとるんだけど……なぜか、私はぼっちゃまの給仕をさせられていた。


ぼっちゃまは、それはおいしそうに肉やスープ、焼きたてのパンを食べていた。


この世界の料理は、煮込み料理が中心だ。肉でも野菜でも、沸騰したお湯に塩を入れて煮込む。調味料は高価だから、貴族といえども特別な時にしか使わない。


だからこそ、素材の味がものをいう。


台所に行ったときにちらりと食材を確認したら、新鮮で、見るからに高級そうな野菜や肉を使っていた。


この世界では、使用人は主人が食べ残した料理を食べられる。


大抵の家では使用人のために多めに料理を作るから、残り物は役職順に食べられる。最下位の使用人だって、少しくらいはおこぼれにあずかれるのだ。


だから、私も期待していた。


……なのに。


ぼっちゃまの食事が終わり、ようやく休憩に入ろうとしたところで、


「おい、下女。俺の服のボタンがない」


ときた。


今度はボタンかい!


お気に入りの服についていた、赤いボタンがなくなったらしい。


顔が引きつるのを必死にこらえ、なんとか笑顔で尋ねた。


「いつ、お気づきになられたのですか……?」


「一か月前だ。村の子供たちに剣の指導をしているときになくなっていた」


はい!?


一か月前!?


しかも、屋敷の敷地内のあちこちで、村の子供たち相手に剣の指導をしていたときですと?


……ちなみに、指導というのは、ぼっちゃまが剣を振り回し、村の子供たちを一方的に追いかけ回すことらしい。


……それって、弱い者いじめっていうんじゃないの?


「おい、とっとと探してこい。魔力を使用しないのだから、下級貴族のお前でもできるだろう」


ぼっちゃまは深紅の髪を無造作にかき上げ、自分の魔力の強さを誇示してきた。


…………。


それから夕方まで、私は広大な屋敷の敷地内を隅から隅まで探し回った。


見つかるわけないよね。


ボタンだよ?


しかも、一か月前の。


夕方、トボトボと戻っていたら、


「おい、下女。やっと戻ったか。ボタン一つ見つけられないとは、役立たずだな。もうよい。予備のボタンがあったからな」


……はい。


はじめから、そうなると思ってました。


でもさ、万が一ってこともあるから、一応探してたんだよ。


そんなこんなで、もう夕方。


お昼なんてとっくに過ぎている。お腹はペコペコだ。


……なのに、食事をとる暇もない。


ぼっちゃまの部屋の掃除が、まだ終わっていないからだ。


「せめて、俺様の夕食が終わるまでに部屋をきれいにしておけ。お前が汚したんだからな」


ぼっちゃまはそう言い残すと、夕食を食べるために食堂へ向かっていった。


誰が汚したって!?


……いや、もういい。


言い返す気力もない。


なんとかぼっちゃまの部屋を掃除し終えると、台所へ向かった。


ぼっちゃまの食べる姿を見ていたから、期待していたんだけど……。


出てきたのは、肉なんて一切入っていない、野菜の切れ端ばかりが浮かんだ緑がかったスープ。それに、カチカチに固いパン。


……ぼっちゃまが食べていたものとは、まるで別物だった。


いや、使用人用だとしても、これはないでしょ。


おまけに、食事用のテーブルに座ろうとしたら、料理人見習いのコリンナに、


「ごめんなさい。あなたの席はないの。外で食べてきて」


と、目をそらされながら言われた。


……いや、私以外、誰もテーブルについていなかったんだけど?


もう、お腹が空きすぎて、どうでもよくなった。


仕方なく外へ出て、地面に料理を置いて食べることにした。


ぬるいスープに固いパンを浸し、なんとか飲み込む。


……はぁ。


私、いったい何をしているんだろう。


ふと顔を上げると、廊下の窓の陰から、真っ赤な髪がちらりと見えた。


……ああ、もう。今日一日の事思い出して腹立たしいやら、何やらで疲れ果てていた。


このまま目をつぶって寝たい。


けど……お腹が空きすぎて寝られない。


とにかく飯だ。


明日もきっとまた、腹立たしい無理難題を言われるはず。


とにかく、腹が足っては戦はできぬってことで、


「えいやー!」


と立ち上がると、私は飛獣小屋へ向かった。


先日、ゴミ捨て場のそばで掘ったイモを鍋に入れ、干し肉とともに煮込む。


杖を手に、


「おいしくなーれ!」


と魔力を込めて作ったら、屋敷で食べたスープの百倍おいしかった。


ぺろりと平らげ、お腹も満足した。


もう寝たい。


けど、暖炉に頭から突っ込んだせいで、頭がかゆくて仕方ない。


飛獣を洗うためのホースがついた魔術具に、魔力を込めてみた。


「やった!」


思わず歓声が出た。


お湯が出る!


基本的に、魔術具は作成者の血縁者でないと使用できない。


一部、気の利く?主人が作った魔術具なら、使用人でも使えるのだ。誰でも使える魔術具を作るのは難しいから、そうそう作れる人はいないと聞いている。


さすが名家。


きっと、使用人思いの素晴らしい主人がいたんだろう。


あのぼっちゃまに、先祖の爪の垢でも煎じて飲ませたいよ。


そんなことを考えているうちに、お湯がたらいにたまった。


屋敷で支給された使用人服をぽぽーーんと脱ぎ去り、ざぶーーんとお湯に浸かる。


「ふんふんふーん」


思わず鼻歌が出る。


大きめのたらいといっても深さはない。縁ギリギリまでお湯を入れても、座ったら私の腰くらいまでしか水位がないのだ。


ホースから水を出し、頭からかぶる。


シャワーとまではいかないけど、かなりすっきりした。


お湯に浸かるのって、この前、川でおぼれたとき以来だな……。


次にお風呂に入るときは桶で、場所は飛獣小屋。


そう言われても、あのときの私は信じなかっただろう。


ホースの水を頭からかぶっているうちに、なぜか涙が出てきた。


今日のぼっちゃまの子供っぽいいじめは、腹立たしくはあったけど、泣くほどじゃない。


一番こたえたのは、誰一人、私と目線すら合わせず、話そうともしなかったことだ。


完全に避けられている。


ぼっちゃまの逆鱗に触れるのが怖いんだろう。


暴君そのものだから。


あんなわがまま放題の子供に権力を持たせるもんじゃないよ!


ソルトロイドさんも、母親も無責任。このままじゃ、ろくな大人にならないよ。


でも、悔しいかな。魔力だけはあるんだな、あのぼっちゃま。


魔力さえあれば、大抵のことは許される。


それが、この世界の常識だ。


ちぇ、理不尽な世界に転生しちゃった。


しかも、私は低魔力だなんて。


転生者ってさ、普通チート能力持ちじゃない?


もしくは王様に召喚されて、勇者として好待遇で迎え入れられるとか。


ん?、あれは、理想ってこと?


現実は、私みたいなのが普通なの?


リアル転生者から話を聞いたことがないから、わかんないけど。


「くしょん!」


やばい、湯冷めした。


どうにもならないことを考えているうちに、すっかりお湯が冷めてしまった。


私は急いでたらいから上がり、ちくちくする藁のベッドで泥のように眠った。


今夜もまた、夢を見た。


綺麗な花が咲く庭……。


どこかの邸宅の庭だろう。


ベンチには、男性と七歳くらいの少女が腰かけていた。二人とも顔がぼやけていて、誰だかわからない。


男性は本を片手に、少女に読み聞かせをしていた。その腕には、私が身につけているものと同じ布の腕輪があった。


少女が男性を見上げ、楽しそうに話す。


「ヘンネ鳥のメスって、そうやって捕まえるのね。覚えたの間違ってないか聞いてね。

 まず、キケルの実をつぶして乾燥させたものと、ミネンの葉を乾燥させたやつを混ぜて少量の水で練る。次に、地面を横長に掘って、さっき作った餌を置く。穴に匂いが広がっているうちは、ヘンネ鳥はそこで寝ちゃうってわけね」


少女は説明を終えると、合っているか確かめるように男性を見つめた。


「〇〇は優秀だね。さすが、私の将来の妻だ」


……え、やだ。この男、幼女趣味。


現代なら通報事案だよ。


「え、まだおじさんと結婚するとは決めてないよ。もっと面白いお話をしてくれたら考えるけど……」


少女は軽くかわしていた。


「お、望むところだ。おじさんはやめてくれ。レオって呼んでくれよ」


男性はそう言うと、少女に向かって再びページをめくり、本を読み始めた。


次の話は、好きな女性の命を救うため、崖に咲く花を取りに行く男の話だった。


月がオレンジ色になるファルベンの時期に、最も効力が強くなるアネルの花。


その花を採るのが困難なのは、崖に生えているからだけではない。


その花は、ゴッフルの縄張りの側にしか咲かないのだ。


花を取りに行き、ゴッフルの餌食になる話は後を絶たない。


「ゴッフルと戦うなんて。平民には無理だね」


少女ががっかりしたような口調で話す。


「いや、物語の男性は、愛しい女性のために無事花を持ち帰れたんだよ」


「え、どうやって!」


「それはね……」


声が遠くなっていく。


男性の声が、ぼんやりと遠くから聞こえた。


「ベルグの実の周りにあるトゲに、魔虫のゼクトの体液を染み込ませたものをまくんだ。そうすると、ゴッフルは近づけないんだ。だけど、それだけじゃ十分じゃない。それと……」


気がついたときには、朝になっていた。


話の続き、聞こえた気はするけど、よく思い出せない。


とにかく、今は急いで屋敷に向かわなきゃ!


私は着替えて、屋敷へ向かって走った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。