02.逃げ出した先で
身一つで逃げ出したセイラは、行き先も分からない馬車に何とか潜り込み、見知らぬ土地にたどり着いた。そこは孤児院よりも田舎で、働く先があるかと不安に駆られたが、運良く貴族の屋敷の下働きで雇ってもらえた。
掃除に洗濯、調理の下処理など何でもやっているうちにその働きぶりが認められて、屋敷の主人の身の回りの世話を任せられることになった。屋敷には古くからの使用人が多かったが、年若いセイラは重宝され可愛がられた。
『マーガレット様に一生仕える気持ちに変わりはないけど、最近は細かい針仕事なんかがキツくなってきたのよ』
『これからも何でも言ってくださいね』
主人の側仕えとなったときもそんな会話をして、皆から応援された。
主人となったマーガレットは、しばらく前に夫を亡くして、最近は田舎のこの屋敷にいることが多いという貴族階級の女性だった。
マーガレットは空いた時間に色んなことを教えてくれた。セイラが文字を読めることを知ると、王都から一日遅れで届く新聞をマーガレットに読むように言い、それがセイラの毎朝の仕事となった。
「私には息子ばかりだったし孫も男の子だから孫娘が出来たようで嬉しいわ」
そう言って、マーガレットはセイラを本当に可愛がってくれる。それに昔の友人に似ているとも。
実はセイラは、早くに死んでしまったマーガレットの親友ヴィオレッタにそっくりだったのだった。
(同い年なのに美しくて聡明で、分け隔てなく誰にでも温かく接するヴィオレッタは憧れだった。彼女に娘がいたらこんな感じだったのかしら。)
マーガレットは遠い昔に思いを馳せた。
ただし、侯爵である夫と並び立ち、長く侯爵家を率いてきたマーガレットは、感傷的な理由だけでセイラを雇った訳では無い。セイラの能力を見て、また、これまで培ってきた直感に従って、彼女を側に置くことを決めたのであった。
「セイラには色んな経験をして、羽ばたいて欲しいわね」
*
セイラはやがて、マーガレットの付添人のような立場になっていった。マーガレットはセイラに貴族社会のことを含め様々なことを教え、セイラもそれによく応えた。付添人と言っても、誰かに頼まれれば針仕事もするし、逆に食事のマナーや貴族社会特有の言い回しまで教わったりして、屋敷全体が家族のようだった。
そんな忙しくも充実したセイラの日々に、突然変化が訪れた。マーガレットの孫が屋敷を訪れるというのだ。セイラは18歳になっていた。




