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【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第二部

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49/50

開店の朝と一番乗り

執務室の大きな窓から、王都の朝の光が差し込んでいる。

ベクターがナギの店の状況報告を終えると、ジトッとした目でシオンを見た。


「これは友人として言うが……あんな一等地を金貨一枚で貸し出すなんて、いくらなんでも安すぎないか?」

「構わん。どうせ持て余していた物件だ」

シオンは羽ペンを走らせたまま、涼しい顔で答えた。


「……」

「なんだ?」

「いいや、別に?」


肩をすくめて誤魔化すベクターだったが、内心では少しばかりの懸念を抱いていた。

(……シオンが女に興味を持つなんて初めてじゃねぇか?)


* * *


「いよいよ今日からだ……!」


私は真新しい通勤バッグに完成した回復ジュースの瓶を詰め、祈るような気持ちで新居を出発した。


『クァッ!』

上空からクラモが飛んきて、私の頭の上にポンッと降り立つ。

兄弟子は、今日も一緒に店に来てくれるらしい。


店に到着し、いろいろと準備を済ませると、綺麗に拭き上げられた横長のカウンターの中に立った。

道路側に小さなテイクアウト用の窓口が、中のカウンターは座って飲めるようになっている。

ゆくゆくは種類を増やしていくつもり。


どきどきしながら、表の看板を『OPEN』に裏返す。

「おぉ~……!」

感動を噛みしめていた、その時――。


「おはようございます、ナギさん。記念すべき最初のお客様は、この私が――」

優雅な微笑みを浮かべ、スマートに入店して一番乗りを果たそうとしたアンリさん。

しかし、その横から猛烈な勢いで割り込んでくる人影があった。


「ちょっと待ったぁ! 一番のお客は、わ、た、し、なのっ!」

「なっ……カレン⁉」


ドンッ、とアンリさんを押しのけ、カレンさんがカウンターの前に陣取る。

師匠として当然よ、と髪をかき上げた。


「ふんっ! 絶対に譲らないわよ!」

「……い、いくらなんでも、レディらしからぬ行動では……?」

アンリさんが引きつった笑顔で抗議するが、カレンさんはどこ吹く風だ。


しかし。

「あの……お二人とも」

私がカウンターの上を指さすと、カレンさんとアンリさんの視線がそちらへ向く。


そこには、いつの間にかカウンターの特等席を陣取り、ふんぞり返るようにして『ドヤ顔』を決めている看板鳥の姿があった。


『クァックァックァッ!』

「「クラモ……っ! いつのまに……!」」


クラモにまんまと一番乗りの座を奪われ、ギリィッと悔しがる二人。

そのコミカルなやり取りに、私は緊張も忘れて思わず吹き出してしまった。


    *  *  *


カレンさんとアンリさん、そしてお祝いに駆けつけてくれたリリーさんたちで、オープン直後の店内は一気に賑やかになった。

その後も、近所のお店の人たちが顔を見せてくれた。


「ジュースだと思って飲んだら、なんだか急に肩が軽くなったぞ⁉」

「ホントね! フルーツ味で美味しいのに、疲れが取れるなんて魔法みたい!」

味の良さと確かな『疲労回復効果』に驚く声が次々と上がり、用意していた三種のジュースは順調に売れていった。


夕方になり、辺りが茜色に染まり始める頃。


「よぉ、ナギ! 開店おめでとう!」

「いやぁ、立派な店構えじゃねぇか!」


露店の片付けを終えたヴェルターさんと門番のブロンさんが来てくれた。

ヴェルターさんの手には、湯気を立てる小さなお鍋が握られている。


「はいよ、開店祝の特製チーズヌードンだ。一日立ちっぱなしで疲れたろ?」

「わぁ……! ありがとうございますっ、すっごくいい匂い……!」


「ほら、冷めちまうぞ」

「いただきます……! はふ、はふぅ……!」


とろけるチーズが乗った温かいヌードンを食べると、一日の疲れがじんわりと溶けていくようだった。

もはやポーションなんていらないのでは……?


ヴェルターさんとブロンさんも帰り、そろそろ片付けを始めようかという時。

カラン、とドアのベルが鳴った。


「いらっしゃいませ……あっ」

入ってきた長身の男性を見て、私は目を丸くした。


間違いない。食中毒事件の時、アンリさんと話していた『ベクター』という人だ。


「……もう終わりかい?」

「い、いえ! 大丈夫です! いらっしゃいませ!」


少し強面な雰囲気に緊張しつつも笑顔で対応すると、ベクターさんはカウンターのメニューに目を落とした。


「あれ? あいつ何が好きだっけな……」

ボソボソと小さな声でボヤいている。

誰かへのお土産を選ぶお父さんみたいで、少しだけ親近感が湧いた。


「えっと……じゃあ、オレンジとメロンを頼む」

「はいっ、ありがとうございます!」


ベクターさんはジュースを受け取ると、軽く片手を上げて夜の街へと帰っていった。


* * *


店を無事に閉めた帰り道。

私は少しだけ寄り道をして、リロンデルの扉を開けた。


「テレサさーん! 余ったジュース、おすそ分けにきました!」

「おや、ナギ。よく頑張ったねぇ」


カウンターの奥から出てきたテレサさんが、私の顔を見て優しく労ってくれた。

その声を聞いた瞬間、張り詰めていた糸がふっと緩んだ気がした。


「おかげさまで大盛況でした! へへへ……」

「そうかいそうかい。よかったねぇ。ほら、これ持って帰りな」


テレサさんは、夕食の温かいシチューを木製の器に入れて持たせてくれた。


「器は返しに来ておくれ。また顔がみたいからね」

「テレサさん……。ありがとうございます。また、明日来ますね!」


王都の夜道は暗いけれど、少しも怖くなかった。

私のすぐ前を飛ぶクラモの目が、懐中電灯のように明るく道を照らしてくれているからだ。


胸に抱えたシチューの器から、じんわりと温かさが伝わってくる。


「……明日も頑張るっ!」


カレンさん、アンリさん、リリーさん、市場のみんな、そしてテレサさん。

この異世界で出会ったたくさんの人たちの顔が浮かぶ。


今日一日をやり遂げた達成感を噛みしめながら、私は帰路についた。

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