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【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第二部

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50/50

勘違い

「ひ~ふ~みぃ~……」


家のリビングで今日の売り上げを数える。

隣にはクラモがいて、くちばしで銀貨をつついて遊んでいた。

すっかり家に居着いてしまっている……。


「面倒だからコインカウンターとか作ってみようかな?」


こっちの商人たちはどうやって勘定してるんだろう?

今度、アンリさんに聞いてみよっと……。


いやぁ、不安だった初日を乗り切り、なんとなんと、予想を上回る大盛況!

やっぱご近所挨拶の力は偉大だわ~。


営業時代でいやというほど思い知らされた口コミの力。

そして、商売は人と人、数字は後からついてくる。

先輩に散々叩き込まれたもんね……。


まあ、こっちの世界の人って、本当に気のいい人ばかりだから、営業時代みたいな苦労はないんだけどね。

ほんと、異世界さまさまだよ……。


私は集計した結果を紙にメモしていく。


・オレンジ × 31

・グレープ × 22

・メロン × 39


「おぉ……」

なんと、計92杯の回復ジュースが売れた!


締めて銀貨92枚!

もはや初日で家賃ノルマの大半を達成してしまった……!

商売があたるとはこういうことなのかっ……⁉


私はこみ上げる感動に打ち震えていた。


「さて、お茶でも淹れよっかな」


ふんふ~ん♪


この分だと、私、大金持ちになっちゃうんじゃない?


「くっくっく……」


あ、そうだ!

あたらしい洋服でも見に行こうかな~。

おっと、調子に乗っちゃだめだよね。

勝って兜の緒を締めよ、っていうもんね~。

えへへ……。


「クラモにも良いお肉買ってあげるね~」

『クァッ!』


    *  *  *


私は舐めていた……。

商売というものを舐めていたのだ。

勝って兜の緒を締めよ、とか浮かれてた自分を殴りたい!


「うぅ~……暇だ」


二日目の朝。

開店と同時にアンリさんと数人のお客さんが来て、今日もいい感じ!

って、思ったんだけどなぁ……。


人は普通に通ってるんだけど、なかなか足を止めてくれない。

初日は物珍しさもあったのかな……。


ぼーっと通りを眺めていて、私はあることに気づいた。

通っている人が、ほとんど同じということに。


「あれ?」


慌てて外に出る。

しばらく観察していると、段々とわかってきた……。


この通りは古くからの専門的な問屋さんが多い。

一見さんを相手にするようなお店が少ないのだ。


大通りから入ってくる人たちも、迷いなく目当ての店に向かっている。

そして、飲食店は大通りに集中していて、こっちまで入ってくる人はいないだろう。

いや、あると思っていないのだ……。


これは根本的な宣伝方法から考えなおさなきゃ……。


初日のお客さんはこのあたりのお店の関係者の方々。

お付き合いで顔を出してくれたにすぎない……いわばご祝儀のようなものだ。

それを私は勘違いして……。


とぼとぼとお店の中に戻る。

うわぁ~……自己嫌悪だわ。


「クラモ……私、勘違いしちゃってた」

『クァ~?』

クラモは何言ってんだお前? みたいな感じで小首を傾げた。


    *  *  *


――翌日。

まだ陽も登らぬうちに、私は作業場である物を作っていた。


「うーん、こんなもんかなぁ……」


昨日の反省をふまえ、仕事帰りにヴェルターさんとテレサさんを訪ね、お店のポスターを貼らせてもらえないかお願いをしてみたところ、ありがたいことに、二人とも快くOKしてくれたのだった。


――――――――――――

☆ポーションスタンド・ナギ☆

   O P E N


疲労回復・リフレッシュ!

特製回復ジュース販売中!


・オレンジ ・グレープ ・メロン


各種 銀貨1枚!

――――――――――――


うーん、デザインセンスゼロ……。

昔から、こういうのは苦手なんだよねぇ……。


ま、まあ、でも、伝わればいいんだし、うん。

と、自分に言い聞かせる。


ヴェルターさんの露店とテレサさんのリロンデルからの地図をそれぞれに添えてっと……完成!


外で朝鳥の鳴き声が聞こえてきた。

私は庭に出て、大きく伸びをした。


「んっ……ふぅ~!」


朝日が昇ってきた。

まだ少しひんやりした風が心地よい。


「よし! クラモ~、起きて! 行くよ~!」

『クァ……?』


まだ眠そうなクラモを揺する。

いつも起こされる側なので、ちょっと嬉しい。


「ほら、おいてくよ」

『クァァ……』


迷惑そうな顔をするクラモ。


「しらないよー」


私はバッグを背負い、クラモを置いて先に家を出る。

しばらくすると、ふらふらしながらクラモが飛んできて、バッグの上にとまった。


「お、おもいんだけど……」

『クア~……』


クラモはそのまま動こうとしない。

まあ、いつもより早いし、仕方ないか……。


バッグの肩紐をギュッと握り直し、よいしょっと気合を入れる。

背中に乗るずっしりとしたクラモの重みを感じながら、店に向かう。


「今日は特別だからね」

『クァ……』


気のない返事に苦笑しつつ、私は朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


二日目にして早くもぶつかった壁。

でも、不思議と落ち込んではいない。


だって私には、協力してくれる温かい人たちがいるんだから。

この手作りポスター作戦がどう転ぶかはわからないけれど、やれることは全部やる!


営業スマイルよし! 気合よし!

ポーションスタンド・ナギ、仕切り直しの三日目――いざ出陣!


私は、少しだけ重たい背中を揺らしながら、眩しい朝日が差し込む王都の街へと力強く歩き出した。

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