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【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第二部

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47/50

ナギの告白

「乾杯ーーっ!!」


私の真新しいマイホームに、グラスのぶつかる澄んだ音と、明るい笑い声が響いた。


大きなテーブルの上には、マカロンさんが「ル・シエル・アジュール」の厨房から腕によりをかけて作ってきてくれた、目にも鮮やかな絶品料理の数々が並んでいる。


「うぉおお! なんだこの肉⁉ 口の中で溶けたぞ……⁉」

「こっちの魚もたまんねぇ……っ! 酒が進むなぁ、おい!」

「こら、あんたたち! ナギのお祝いなんだから、少しは落ち着いて食べな!」


料理にテンションをあげるヴェルターさんとブロンさんに、テレサさんが呆れたように笑いながらツッコミを入れている。


「今日のナギ、とっても素敵よ。そのワンピースで正解ね、ふふっ」

「リリーさん……えへへ、ありがとうございます」


見るとアンリさんは優雅にワインを傾けながら、マカロンさんたちと何やら商談じみた話で盛り上がっている。


『クァッ!』

クラモも特製の果物盛り合わせを前に、誇らしげに胸を張っていた。


大好きな人たちに囲まれて、私の新しい家が温かな熱気に包まれていく。

その光景を眺めているだけで、胸の奥がじわぁっと熱くなった。


宴もたけなわになった頃。

私は、少し離れた席でお酒を楽しんでいたカレンさんの隣に、そっと腰を下ろした。


「カレンさん……」

「あら、ナギ。どうしたの? 主役がそんな隅っこにいて」

カレンさんは少し赤い顔で、いつもの優しい笑みを向けてくれる。


私はグラスを握る手に少しだけ力を込めて、ずっと心に決めていたことを切り出した。


「……実は、カレンさんに相談したいことがあって。ずっと、お披露目の日に言おうって決めてたんです」

「改まって、どうしたのよ」


「……私、カレンさんのように、自分でお店をやってみたくて。……その、『ポーションスタンド』を開きたいんです」


カレンさんは、持っていたグラスをピタリと止めた。

少しだけ見開かれた瞳が私を射抜く。


「……ポーション、スタンド? 自分の、お店を?」

「はい。……もちろん、カレンさんの工房のお手伝いも続けたいです。でも、朝ここでポーションを作って、鞄に詰めて……自分の足でお店に通って……誰でも気軽にポーションを手に取れるような、そんな場所を作ってみたいんです!」


一瞬の沈黙。

カレンさんの反応が怖くて、私は思わず俯きそうになった。

けれど、次に聞こえてきたのは、ふわりとした衣擦れの音と、温かな手の感触だった。


「……ふふっ、そう。ついに言ったわね」


顔を上げると、カレンさんは困ったような、だけど最高に誇らしげな顔で笑っていた。


「驚いたけど……でも、ナギならいつかそう言うだろうなって、どこかで思ってたわ。私の大事な弟子の晴れ舞台だもの。不義理なんて思わないわよ。むしろ、私にも協力させてちょうだい」


「カ、カレンさん……っ!」


「いい? お店を出すなら、まずは店舗を探さないとね。立地も大事だし、治安も考えなきゃいけない。明日からアンリにも手伝わせて、一緒に不動産屋を……」


カレンさんが身を乗り出した、その時。

「――それなら、ちょうど良い物件に心当たりがあるのだが」


楽しげな喧騒を縫うように、凛とした声が割り込んできた。


振り向くと、そこにはいつの間にか背後に立っていた人物――目深に被ったフードから青みがかった黒髪を覗かせた、お忍び姿のシオンさんがいた。


「シ、シオンさん⁉ いつからそこに……」


「……ナギ、君が店を開きたいという話、興味深く聞かせてもらった。ちょうど王都の片隅に、少し狭いがとても条件の良い場所がある。君の夢を叶えるにも、うってつけだと思うのだが、どうだろうか?」


シオンさんのその言葉に、私とカレンさんは思わず顔を見合わせた。

私のポーションスタンド計画が、予想もしない方向から動き出そうとしていた――。


    *  *  *


翌日、私はカレンさんと一緒に、シオンさんに紹介された物件を見に来ていた。


「ここみたいね……」


地図を描いたメモを見ながら、カレンさんが見上げる。

場所は大通りから一本、中へ入ったところ。人通りも多いし、大通りほどではないが道も広くて歩きやすい。


「ずいぶん、細長い建物ね……だいじょうぶかしら?」

カレンさんが、外回りを念入りにチェックしている。


「立地はいうことないですね。カレンさんのお店からも、そんなに離れてないですし」

「そうね。あの家賃なら破格だわ」


シオンさんから提示されたのは、月に金貨1枚。

王都一の繁華街のすぐ横という立地を考えれば、信じられないほど安い。

ジュースを銀貨1枚で売ったとして……月に100本売れば家賃はペイできる計算だ。これなら失敗するリスクはかなり低い。


「あ、鍵、開けますね」


預かっていた鍵を差し込み、重い木の扉を押し開ける。

――ギィ、と音を立てて開いた室内からは、埃っぽい空気がふわりと舞った。


「こほっ、こほっ……」

「少し空気を入れ替えましょ」

「ですね」


私とカレンさんは窓と扉を開け放ち、少し外で待った。


もともとは串焼きの店が入っていたらしく、店の一階は通りに向かって大きく開口部が取られている。元の世界でいうところの「コーヒースタンド」のような造りで、私の想像していた形にかなり近かった。


薄暗い店内を眺めながら、カウンター越しに回復ジュースを渡す自分を想像してみる。

うーん、なかなかいいんじゃない?


「そろそろいいかな」

「二階もあるらしいです。入ってみましょう」


私たちは店内に入った。

什器の類は何もなく、ガランとしている。


「意外と奥行きがあるわね。これなら色々置けるんじゃない?」

「そうですね……壁際に棚を置いて、簡単な作業台も置けそうです」


「あ、ナギ、ここから上にいけるみたい」

カレンさんが手招きする。右手奥に、狭い木造の階段があった。


「結構角度があるから、足元に気を付けてね」

「はーい」


カレンさんの後に続いて、私も階段を上る。

二階は三角屋根の形がそのまま出ている、ほぼ天井裏といった感じの小部屋だった。

ストックのポーションを置く倉庫代わりにもなりそうだし、ラグを敷けばここで仮眠もできそうだ。


「ふぅん……文句のつけようがないわね……」

部屋を見回しながら、なぜかカレンさんが口を尖らせて悔しそうに呟いた。


「ど、どうかしたんですか?」


「あ、いや……なんか、あのシオンって人に負けたみたいでさ。私も師匠として、ナギにいいとこ見せたかったのになぁ……って」


ぐっ……はうぅっ!!?

む、胸が苦しい……! カレンさん可愛すぎないっ⁉


「だ、大丈夫ですっ! カレンさんは十分素敵ですし、私にとって最高の師匠ですからっ!」

「そ、そぉ? へへ、なんか催促したみたいで恥ずかしいわね」


てへっと笑うカレンさんを見て、私は我慢できずにぎゅっと抱き着いてしまった。


「ナ、ナギ?」

「カレンさん……! 本当に、いつもありがとうございます!」


カレンさんは一瞬驚いたようだったけれど、すぐに優しく私の背中をポンポンと叩いてくれた。


「お礼を言うのは私のほうよ。私ね、ナギと出会ってから、毎日が本当に楽しいの」

「わわ、わたしも楽しいですっ!」


「ふふっ、ありがと」

「えへへ……」


しばらくそうしてから体を離すと、カレンさんは改めて二階の小部屋を見回した。


「それで、どうする? 私としては、またとない優良物件だと思うけど……」


「ですよね。家賃も考えると、これ以上はなさそうですし」

「ええ、リスクは低いと思う。まあ、ナギの場合、マリーさんとの定期取引もあるから……最悪、ここが駄目でも生活に困ることはないと思うけどね」


たしかに、マリーさんからの定期的な依頼はかなり助かっている。

でも、その取引がいつなくなるかはわからないし、何が起きるかわからないのが異世界だ。だからこそ、定期収入があるうちに、新たな収入源と自分の居場所をしっかり作っていかなきゃいけない。


窓から差し込む陽の光が、何もない木の床を明るく照らしている。

胸の奥で、期待とやる気がふつふつと湧き上がってくるのを感じた。


「カレンさん――」


私の心は、完全に決まっていた。


「私、ここで……ポーションスタンドを始めます!」

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