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【連載版】思ったよりも異世界が楽しすぎたので、このまま王都の片隅でポーションスタンドでも始めてのんびり暮らします。  作者: 雉子鳥幸太郎
第二部

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46/50

新居お披露目 下

――カッ!

毛布の中、まさにそんな音がするくらいの勢いで目を開けた。


ガバッと毛布から出て、カーテンを開けて窓を開く。

小鳥の鳴き声を聞きながら、素早く毛布と枕の位置を直した。


ブラシで髪を整え、一番の勝負服を纏う。


これはリリーさんに教えてもらったお店で買ったもの……。

流行の小花柄のワンピース。


小花柄自体が可愛らしい雰囲気なので、ここで可愛い色を選んでしまうと、ただでさえ子供っぽいのに輪をかけて幼く見えてしまう。


そこで色は黒で大人っぽさをプラス。

これなら細身効果もありつつ子供っぽくもならない!


クックック……。

リリーさんにもお墨付きをいただいたし、今日の私に死角はない!


戦闘準備を終え、一階に降りるとちょうどテレサさんと顔を合わせた。


「おやまあ、可愛らしいじゃないか」

「……ありがとうございます」


むぅ、まだ大人っぽさが足りないのかな……。


「ナギ、今日だろ、お披露目」

「はい、テレサさんは来られそうですか?」


宿があるし、無理は言えないけど、テレサさんには来て欲しいなぁ。


「行くさ、アタシが行かなきゃ始まらないだろ?」 

「ふふっ、そうですね、始まらないです」


「でも……寂しくなるねぇ……」

「テレサさん……」


「毎朝、たたき起こすのが楽しかったんだけどねぇ」

「ま、毎朝じゃないです! たまに……ですよ」


「はっはっは! 朝寝坊が直るといいね、じゃあ、後でお邪魔するよ」

「はいっ、お待ちしてますね」


リロンデルを後にして、私は王都の門へ向かった。

ブロンさんにお披露目に来て欲しいと告げ、そのまま露店に寄り、ヴェルターさんにも来てもらえるようにお願いをした。


アンリさんにはカレンさんから言ってもらうとして……マカロンさんはレストランがあるもんね……。一応、リリーさんに言付けだけ頼んでおこう。


街を歩いていると、懐かしい匂いに足を止める。

露店でなんと焼き芋を売っていたのだ。


「や、焼き芋……⁉」

「いらっしゃい、一個銅貨2枚だよ」


「この大きいの一個ください」

「まいど、熱いよ」


「ありがとうございまーす」


うわぁ……懐かしい。

焼き芋は万国共通、いや世界共通? なんだな。


「あちちち……」


半分に折って、黄色い部分にかぶりつく。

ほふほふ……。


おいしぃ――いっ! ほっくほくだぁ!

口の中に広がる懐かしい甘みが幸せを呼ぶ……。


「むふふ、いい店見つけちゃったなぁ~、あ、塩欲しいかも……」


食べ歩きながら、王都の居住区にある新居へと向かう。


雰囲気の良い並木通り。これもポイント高いよねぇ……。

そんなことを思いながら、ゆっくりと景色を眺めながら歩く。

焼き芋を食べ終わるころに、愛しの新居が見えてきた。


「どうしよ……ちょっと泣きそうかも」


ぐっと胸に嬉しさがこみあげてくる。

ふるふるっと顔を振り、私は気を引き締めた。


これから頑張っていかなきゃいけないんだから……。

でも、今日くらいは浮かれてもいいよね?

なんたってお披露目だもん。


家に続く石畳を踏みしめ、ついに……と感動に打ち震えていると、玄関前で待っていた親方とヴェルンさんが声を上げた。


「あ、来た来た! ナギさーん!」

「こんにちわ! お待たせしました~」


手を振るヴェルンさんが小さく会釈をした。

親方は腕組みをしたまま、満足げに家を眺めている。


「いよいよですね」

「はい! もう、ずっと楽しみで楽しみで……!」


ヴェルンさんはくすっと笑みをこぼし、

「親方、早くナギさんに渡してあげたらどうですか?」と親方に声を掛けた。

「おぅ、そうだな。ナギ、このドノバンの仕事の中でもこいつは……上から数えた方が早いぜ?」


にんまりと笑って私の手を取り、家の鍵を握らせた。


「か、鍵……!」

「確かに渡したからな?」

「お、親方ぁ……! ありがとうございました!」


鍵を受け取ることで、この素敵な家が自分の家になったんだと実感する。

元の世界でもマイホームなんて夢のまた夢だった。

それがまさか異世界でマイホームを持てるなんて……!


「じゃあな、後から気になるところがあったらヴェルンに連絡してくれ」

「え……、親方たち、お披露目会に参加してくれないんですか⁉」


「あ~すまんな……参加したいのは山々なんだが、仕事が詰まってるんだ」

「すみません、この足でマティス領に向かうんですよ。戻りは一か月後ですかねぇ……」


ヴェルンさんが申し訳なさそうに眉を下げる。

そうか、仕事なら仕方がない。まあ、これが最後ってわけでもないし……。


「そうなんですね……ちなみに、マティス領ってどんなところなんですか?」

「そうだなあ……まあ、どんなっつっても、ほとんどが砂漠だからな」と、親方が顎を撫でる。

「砂漠⁉」


「近くにダンジョンがあるせいだと言われてますね」

「ダンジョン⁉」


すごい……やっぱり異世界なんだ。

ダンジョンって、やっぱりモンスターとか出るんだろうか……。


「た、大変そうですね……」

「なぁに、ちょっと砂が多いくらいってなもんだ」


「モンスターとか……出ないんですか?」と恐る恐る聞くと、親方はガハハと豪快に笑い飛ばした。


「ダンジョンの外には滅多に出ねぇよ。それに、今回は腕利きの護衛もついてるから安心しろ」

「そうです。ちょっと遠出になりますが、やりがいのある仕事ですから」


ヴェルンさんも柔らかく微笑んで、ポンと私の肩を叩いた。


「では、私たちはこれで。ナギさん、新居のお祝い、たっぷり楽しんでくださいね」

「はいっ! 親方、ヴェルンさん、本当にありがとうございました! 道中、お気をつけて!」


荷馬車に乗り込み、手を振って去っていく職人さんたちを見えなくなるまで見送った。

そして、私は改めて目の前の扉に向き直った。


真新しい木の匂いが、ふわりと鼻をくすぐる。

大きく深呼吸をして、少しだけ震える手で鍵穴に鍵を差し込んだ。


――カチャリ。


重みのある、だけど心地よい音が響く。

ドアノブを握り、ゆっくりと押し開けた。


「……わぁ……っ!」


差し込む陽の光が、ピカピカに磨かれた木の床を温かく照らしている。

奥には念願だった広くて立派な作業部屋が見える。


「私の……家……。私の、作業場……っ」


『クァッ!』


ふいに頭上から声がして、開け放たれた窓からクラモが舞い降りてきた。


「あ、クラモ! 見て見て、とうとう完成したよ!」


クラモは誇らしげにパタパタと羽を羽ばたかせると、真新しいカウンターの上にふわりと降り立った。その姿がまるでお店の立派な看板鳥みたいで、思わず頬が緩む。


胸の奥がじんわりと熱くなって、さっき我慢したはずの涙がやっぱりポロリとこぼれてしまった。


異世界に来てから今日までのドタバタな日々が、走馬灯のように駆け巡る――。


「……よしっ! 泣いてる場合じゃないよね。みんなが来る前に準備しなきゃ!」


私は袖でぐいっと涙を拭い、両頬をパンッと叩いて気合を入れた。

窓という窓を開け放って爽やかな風を通し、買ってきた飲み物やグラスをテーブルに並べていく。


そわそわと部屋の中を歩き回っていると、あっという間に約束の時間になった。


――ざわざわ、わいわい。


外の並木道の方から、何やら賑やかな足音と話し声が近づいてくる。


「おーい、ナギ! いるかー?」

「こらヴェルター、近所迷惑だろ。あんまり大声出すんじゃない」

「やだ、ちょっと! すっごく可愛いお家じゃない!」

「はっはっは、アタシが見込んだだけのことはあるねぇ!」


この声は……!

私は弾かれたように玄関へと駆け出し、勢いよく扉を開けた。


「みんな……!」


そこには、両手いっぱいにご馳走や花束を抱えたカレンさん、テレサさん、ブロンさんにヴェルターさん……王都で出会った、私の大好きな人たちが満面の笑みで立っていた。

少し後ろの方には、見慣れぬ私服姿で微笑むアンリさんや、大きな鍋を持ったマカロンさんの姿も見える。


「「「ナギ、新居完成おめでとうーっ!!」」」


青空の下、まるで春が弾けたような温かいお祝いの言葉が響き渡る。

王都の片隅、私の大切な人たちと……。


最高にハッピーで賑やかな新居お披露目パーティーが、今、幕を開けた――!

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