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変態冒険記  作者: ゆゆ
第2章 世界を憎む少女
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第39話 ぶらぱん(人間なんだから下着ぐらい興味あるよねっ)


「いや、さっきは散々だったな」


 とあるカフェテラス。そこで僕とのぶちゃんは優雅に午後のひとときを過ごしていた。テーブルには二つのカップ。


「まったくです。……んー、いい香り」


 カップを手に取り香りを楽しむ僕。透き通った琥珀色の紅茶に僕の顔が映った。吐きすぎでげっそりである。


「やっぱり大食いとかするもんじゃないですね。半額になっても全部吐いたら意味ないし」


「うん。まったくだ」


 先ほどの自分たちの行いを悔いるように瞳を閉じて深く頷く。もう絶対に大食いなんかしない。僕はそう心に決めた。しかしあの店に行ったのがすべて無駄というわけでもなかった。だって有力な情報が得られたのだから。あの店員、フラミーラ・スファレシルの妹が犯人の可能性が浮上したのだ。ここは早急にリリル、クリシアと合流して調査を行う必要がある。


「しかしそうは言ってもまだ時間はある。もう少し町の様子を見て回ろう」


 のぶちゃんはスティックシュガーのようなものを取ると封を切ってカップへ。ティースプーンを使って混ぜ始めた。なぜか小指だけが立っている。もうあのシュガーで五本目なのだけど甘党なのだろうか。甘党だからあんなにおっぱいがでかくなったのだろうか。


「それにまだ紅茶が少し残っている。ここはちょぴっとだけお話と洒落こもうじゃないか」


 ずずずと紅茶を啜る。うーん、別に話すこと自体はいいのだけど、きっと今頃リリルやクリシアは頑張って聞き込みとかしているかもしれない。それなにに僕たちはこんなとこで話し込んじゃっていいのだろうか。


「まあいいか」


 正直まだ胃が気持ち悪いしもう少し休んでいたい気もする。このまま町へ繰り出したらまたしても裏路地に駆け込む羽目になるかも。


「そうか。ならここは一つ下着の話をしよう」


「!?」


 んん? 下着って、肌着のことだよな? パンティーとかブラジャーのことだよな? なんで? なんでそんな話を?


「ちょっといいですか? なんで下着?」


 ちょっと申し訳ないのだけれど僕の脳では話の処理がしきれない。彼女は一体何を言っているのだろうか。


「? おかしなことを聞くな。言語によるコミュニケーションは人間の特権だぞ。その特権を使わずしてどうするんだ」


「いやね? 別に話をするのはいいんですよ。でもなんで数多に存在する話の種から下着がチョイスされたのかなと」


 不思議で仕方がない。一体彼女は小指を立てて紅茶を楽しんでいたとき何を考えていたのだろうか。優雅に紅茶を啜りながら脳内では「ぐへへ、あの子のパンツくんかくんかしたいでござる」とか考えていたのだろうか。


「はっは、下着と言ったら一種の崇拝の対象だろう。男とかみんな下着が好きなんだろう?」


「確かに好きですけど……」


 というか逆に嫌いな男性というのは存在するのだろうか。僕の知る限りそういった性的本能を逸脱した知り合いはいないのだけど。でも一括りに下着と言っても様々である。ここでは男性用下着を除く下着についての言及だがブラジャー一つをとってもフルカップブラ・オープンブラ・トップレスブラ・チューブブラ等簡単に分けても10種類以上ある。パンツも同じでフルバック・Tバック・Gストリングなどある。アニメやなんかでは縞パンだとか水玉といった模様による区別さえも行われている。その他ブラジャー・パンツ以外ではガードル・キャミソール・ビスチェ・ベビードールなど様々。ただ単に下着と言ってもこんなに広範囲なのである。


「じゃあ本日はパンツだ。パンツの話をしよう。いや、します。これからパンツに関する侃々諤々の議論を開始するぞ!」


 有無を言わさずそう迫ってくる。どうしてそんなにもパンツの話がしたいのだろう。パンツが好きなのだろうか。


「これはね、私の持論なんだがパンツにおける最上の色は無地の白なんだ」


 僕はイスから立ち上がった。向かいののぶちゃんも立ち上がる。そうして僕たちはテーブルを挟んでがっしりと右手を握り合う。わかる、わかります。黒の編み編みレースのどエロパンツなんて逆に萌えませんよ。下着は常に肌に身に付けるもの。いわば自身の身体を外界から守る最終防衛ライン。色は白以外考えられない。


「……ありがとう。ありがとう!」


 のぶちゃんが目尻に涙を浮かべて声を震わせた。やめてくれ、僕まで泣いてしまいそうだ。僕たちはお互いの想いを確かめ合うとゆっくりと座った。


「そして模様をつけるとすれば横縞、ボーダーですよね!」


「えっ」


「えっ」


 お互いが驚きの眼差しで口をあんぐりと開けている。どうして話の流れが止まってしまったのかお互いに理由がわからないのだ。


「色は白ですよね?」


「そうだ。白こそ至高」


「で、柄を与えるとすれば横縞」


「違う」


 おやおや。どうやらここに来て意見の食い違いが発生したようである。これは困ったことになったぞ。世界のバランスを崩しかねない非常事態である。こちらとしても一家言あるのでそう簡単に引き下がるわけにはいかない。


「じゃあ逆にのぶちゃんは何柄がいいんですか?」


 僕は横縞以外考えられないのだが。その他の柄の可能性を考えるということを僕の脳は放棄していた。しかしのぶちゃんは質問に答えず。


「お前が横縞好きなのは心がよこしまだからだろう」


「うるさいな!」


 なんだよ、心がよこしまって。なんで邪なんだよ。僕の心は純粋そのものである。一切の混じりっけのない純真無垢な心。それが僕。


「まあよこしま云々は冗談として、横縞という意見に対して私は首を縦に振ることはしかし出来ない。なぜなら私の中では至高の柄が既に決定されているからでこれは変更のしようがないからだ」


 なんと。自ら議論を放棄したというのか。先ほど侃々諤々どうこうと言っていたくせに。


「……もう一度訊きますけど、のぶちゃんは何柄がいいんですか?」


「水玉、かな。今日も私のパンツは水玉だ」


「…………」


 別に知りたくはなかった。のぶちゃんの今日のパンツの柄なんて。しかし水玉か。僕の統計上縞パンユーザーの方が圧倒的に多いと思うのだけれど、そうか。水玉か。確かにそれもありかもしれないな。どうやらここにきて僕は自身の下着に対する意見を再度見直す必要があるようだった。


「柄というのとは少し違うが無地の白パンツにワンポイント、小さなリボンなんかがついているのもいいな。全体的に引き締まって見える。パンツというのはこう、肉にぴっちりと密着しているものなんだよ」


「それに関しては概ね同意見ですね。現実の幼女なんかがパンツを履くとよく隙間が出来たりしてぶかぶかですよね。僕としてはああいう隙間の生じたパンツのことを《Unfortunate shorts》と呼んで忌み嫌っているんですよ」


 ああいうぶかぶかのパンツは履いているとは言えない。かぶせる、と言うか。そう幼女の場合は布を尻にのせているのである。


「なんで変態は幼女のパンツ事情に詳しいんだ」


 引かれていた。頬をヒクつかせてぎこちない笑顔を向けてくる。なんなのだ、今の今までパンツ談義をしていた相手とは到底思えない反応である。


「僕には妹がいるんですよ。幼女時代の彼女のパンツは嫌というほど見てきましたから」


 いわばプロ。僕は幼女のパンツに関して他人に追随を許さない確固たる知識と想いがあるのだ。


「ああ、妹さん……。そりゃ妹がいればパンツも見放題か」


「ええ、まあ」


 しかし現実に妹のいる身として正直妹のパンツでは興奮しない。洗濯物に放り込まれていてもさして興味を示すことはないのだ。むしろ腰周りのゴム伸びてんなー、とかそろそろ新しいの買えばいいのに、とかそうしたごくごく普通の感情しかないのである。


「妹に欲情というのは確かにわからないな。長年同じ場所で暮らしているだけであって妹は兄妹であって家族だ。それ以下でもそれ以上でもない。好きかと言われれば当然好きだけどそれは家族としての、兄妹としての好きであって他意はない」


「ですね」


 まさかこんなカフェテラスでこんなにも深い話題を話し合うとは思いもしなかった。


 そうして時間は過ぎていく。


 僕たちがこの地区をあとにしたのはそれから二時間後のことであった。


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