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変態冒険記  作者: ゆゆ
第2章 世界を憎む少女
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第40話 裏路地は『血の香り』


 リリル、クリシアと合流したのは午後五時。最初に集まった店である。僕とのぶちゃんはイスには座っているが特に注文はしない。先ほどのパンツ談義の際に紅茶を大量に摂取していたのでお腹はたぷたぷなのだ。


「マジで疲れたにゃー。一日中歩き回って収穫ゼロにゃ」


 テーブルにぐだーっと伸びて目を細める。相当疲れているようである。一方のリリルは無言で頬杖をついて空を見つめている。テーブルが揺れていることから下の方で貧乏ゆすりをしているようだった。


「僕たちの方はいろいろ大変だったけれど、有力な情報は掴めたぜ」


 ちょっぴり自慢げに胸を反らす僕。向かいのリリルがピクっとこめかみを動かした。


「ほおー? 情報を掴んだと?」


 表情こそ笑っているものの明らかにイラついている。前々から思っていたのだけど、このメイド幼女は少々短気だな。もっと懐を大きくしてもらいたいものである。まあ胸も小さい、身長も小さいこのクソ幼女に懐の深さを要求するのは酷というものか。


「ああん? なんか悪口考えとらんか? あ?」


「いいや、別に?」


 僕は悪口なんて考えない。僕が思考するのは常に事実である。


「よし。今日得た情報を話してやろう。情報の共有は大切だからな。まず僕とのぶちゃんは聞き込み調査として27地区のある飲食店へと入った。そこでなんとあの女そっくりのやつが店員として働いていたんだ」


「ほうほう」


「僕は思わず剣を抜きそうになったのだけどのぶちゃんに止められた。それでよくよく女を見てみるんだけどどう考えても違うんだよ。口調とか雰囲気とか。それで訊いてみたらそいつ妹がいるらしくて、その妹が例の女なんじゃないかってなったんだ」


「ほーん」


 バカみたいな顔して考え込むリリルにヨダレを垂らして爆睡するクリシア。なんだかこの二人はこの件について結構頑張っているようだな。僕とのぶちゃんなんかちょっと聞き込みして大食いしてゲロ吐いてカフェテラスでパンツで盛り上がっていただけだ。ちょっと申し訳ない気持ちになってきたぞ。


「なーるほどなるほど。それで? そいつの名前とかは?」


「妹の名前はわからない。でも店員はフラミーラ・スファレシルって名前だ」


 あの場であれ以上質問すると答えてくれなさそうな雰囲気だったからな。そもそも質問に答えてくれたのだって僕とのぶちゃんが城の人間だったからだろうし。


「ふん……。姉の名前が分かっているのなら城に戻って調べれば家族はわかる。そうか……じゃあ取り敢えず城へ戻るか……」


 そうしてリリルは隣で寝ているクリシアの頭を叩いた。スパン、と小気味いい音が鳴る。


「――っんだ!? なんだにゃ!?」


 半開きの瞳で辺りを見回す。前髪がぐちゃぐちゃになっていた。


「今日は帰るぞ。こいつらが情報を持ってきた」


 グイっと親指を立てて出口を示す。クリシアは眠気覚ましにとお冷をがぶ飲みするとうーん、と伸びをした。そうして僕たち四人は店を出る。


 城へ着いたのはそれから二十分後のことであった。






     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆






 城内へと入ると何やら騒がしい。のぶちゃんが適当にそこらへんの人を捕まえて事情を訊くとどうやらまた通り魔が出たらしい。それも第3地区というからすぐ近くだ。


「行こう。第3地区ならすぐだ。まだ犯人がいるかもしれない」


 こちらへ小走りでやってきたのぶちゃんが僕たちに話しかける。全員が頷くとリリルの転送魔法により僕たちは第3地区へと向かった。


 お馴染みの無重力感は一瞬で消え、すぐに足裏へと地面の感覚が戻る。見開いた視線の先に広がっていたのは凄惨な光景であった。


 場所は人の通らない裏路地。もう午後六時前ということで辺りは暗く、しかし周囲には鉄の香りが満ちている。足元の地面にはバケツをひっくり返したかのような量の血液が流れ出し、その先に肉塊が転がっていた。


 のぶちゃんがポケットからハンカチを取り出し渡してくる。僕はそれを口と鼻へ当てると数歩前進し、肉塊へと近づいた。


「……酷い」


 かろうじて人の形を保っているものの皮膚はめくり上がり肉は裂け体液が溢れ出している。特に顔の損傷は酷く既に顔面が消失し割れた頭蓋骨から脳が溢れ出していた。


「同じ手口……やはりあいつだな」


 少し後ろでしかめっ面をしたリリルが呟く。ガキなのによくこんなものを見る度胸があるもんだ。


「こりゃちょっとえげつないにゃ……。両腕の手首が折れてるからきっと必死に顔を守ったんにゃ。頭部以外の怪我が致命傷じゃないから多分、意識があるまま顔面を殴られ続けた。骨が割れて脳がとろけ出るまで執拗に」


「…………」


 何も言葉が思いつかない。ここまで酷い場面には遭遇したことがなかった。前に自転車とトラックの事故は見たことあるけど死体は見てないし。ちょっとこれは刺激が強すぎるな。


「……凶器はこれか」


 ここからちょうど壁で影になっているところにのぶちゃんがしゃがみこんでいた。近寄って覗き込んでみると手にはハンカチに包まれた工具のようなものを持っていた。金属製のそれは先端が微妙に変形し、全体が赤黒く濡れている。


「軍保によると通行人が偶然見つけたらしいにゃ。駆けつけた時には既に犯人は逃走、被害者も死亡。現場の状況から殺されたのはほんの二十分ほど前らしいにゃ。詳しいことは検死してみないとだけど」


 いつの間にか横に並んでいたクリシアが淡々とした口調でそう告げた。二十分前……。その頃ならまだ僕たちは町にいた時間である。店でくつろいでさあ帰ろうかと、そんな時ここでは悲惨な人殺しが行われていたなんて。


「……おい、変態」


 その時のぶちゃんが僕を呼んだ。こちらを向いて手招きしている。正直あまり近くで死体を見たくないのだけれど、まあこの際仕方がないか。


「なんですか?」


 眉をひそめつつ彼女の方へ行く。彼女は遺体の頭のあたりを指差している。よく見てみると何かが出ている。


「何ですかこれ、封筒?」


 示されたところをよく見てみると紙でできた封筒のようなものが突き刺さっている。血で濡れないようにか透明な袋に入れられていた。のぶちゃんは封筒の端を指でつまみあげるとずるずると引き上げた。脳漿がべっとりとへばりつきぬらぬらと光沢を放っている。


「普通の封筒だな」


 取り出された封筒はビニール袋のようなもので包まれている。全体的に薄みがかったピンク色の封筒で女の子が使いそうな色合いのものだった。表側にはなにか書かれているけれど被害者の体液で汚れすぎてなんと書かれているかは判別がつかない。


「この場の処理は軍保に任せて私たちは私たちで調べよう。この封筒もこれから調べる」


 のぶちゃんはポケットから取り出した袋に封筒を仕舞い込むとハンカチを上着へねじ込んだ。


「戻ろう。早く犯人を見つけなければ被害者は増える一方だ」


 僕たちは現場を離れるとそのまま城へと戻った。


 戻るとのぶちゃんは封筒を洗浄し、袋から取り出す。表側に書かれていた文字は『DDの証明』だった。意味がわからない。


 封を開けると中には一枚の便箋。数行にわたり文章が記されている。


『誕生は死に変わる。集まる豚は血の詰まった水風船。天上の豚舎は朱に染まるだろう。屠殺作業は今より二日後から始まる』


 わざとかというような汚い文字。僕には魔法のせいで日本語に見えるのだけどやはり意味がわからない。しかし雰囲気的には犯行予告といった感じだろうか。


「何なんでしょうね、こ、」


 周りで同時に見ていたのぶちゃんたちを見る。が、全員がみんな顔面蒼白で手紙の文字へ視線を注いでいた。


「? みんなどうしたんです? この内容の意味わかるんですか?」


 きょとんと呆ける僕にのぶちゃんはゆっくりと声を漏らした。心臓の鼓動のせいかその声は微かに震えていて。


「二日後――その日は建国二百周年の記念式典がここで行われるんだ」


 リリルもクリシアも同調するように深く頷く。言われた台詞に僕は視線を伏せて黙り込む。


 つまり。


 この手紙は、王城の襲撃予告――――。


体調が優れません…

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