プロローグ 3 失踪する思春期のメタモーフォシス
いくら普段の僕が性欲にまみれた変態だとしても社会的な立場というのは守らなくてはいけない。学生ならそれはきちんと学校へ出席しいい成績をとるということである。
「眠そうだな坂口」
午前八時二十分。僕は自分の席に座りうとうとしていた。昨晩は午前三時前までネットをしていたのだ。
「あれか? サモン オブ レゾナンス?」
「ああそれ」
今プレイしているネトゲである。昨晩は同じギルド内のメンバーがPKされたので殺した犯人を特定して所属ギルドごと殲滅していたのだ。
「あんまやりすぎると運営に目つけられるぞ。一応PK禁止なんだから」
だったらシステム的にPKをできなくすればと思うのだけど、まあそこはユーザーの要望でそうなったのだろう。やられたらやり返すだけである。
「と言っても僕は参加しなかったよ。殲滅作戦のおかげで人が少なかったからその隙にきのこ採取してた」
いつもだと人がいて取り尽くされてるのだけど昨晩はまだまだたくさん残ってた。取り放題である。
「そういえば昨日女子寮に不審者が出たとか出なかったとか」
「ふーん」
こいつ、東条は僕がその犯人だと知らない。僕が少しだけ変態ということは知っているけれど作戦の性質上どこから情報が漏れるかわからない。昨日の作戦を知っているのはごく限られた人間だけなのだ。
「どうせお前だろ?」
「えっ」
何を言っているのか僕にはまったくわからないのだけど、え? どうしたの東条くん?
「いやだって昨日佐々木から聞いたんだもん。今晩女子寮に行くって」
どうやら佐々木隊員は危険意識が低いようである。厳重注意が必要だ。
「安心しろよ、女子にはバレてないみたいだから」
そりゃそうである。警備員だって僕たちの顔までは把握していないであろう。本当にあともう一歩だったのだ。
「おー、春太、佑介おはよう」
ちょうどいいところに戦犯がやってきたな。東条に情報をリークした佐々木氏である。呑気な声で挨拶しやがって、天パーのくせに。
「天パー関係ないでしょ。それに佑介も口は堅いし大丈夫だと思ったんだよ」
佐々木は悪びれる様子もなく飄々としている。まあいいさ、もう作戦は終了したのだ。それよりも昨晩は無事帰還できたのか?
「あー、職質されたけど適当に答えといた。迷彩服着てるだけで危険物とか持ってないし別になんにも言われなかったよ」
危険物はなくても不審物は持っていたけどな。というか昨晩は僕もお前も不審者だ。
「そうだ、佐々木。今日は昨日の教訓からもっと単純で確実な方法で行こうと思う。女子寮ではないけれどそれに準じるところだ」
僕は佐々木を引き寄せると耳打ちする。東条も聞いてたけどまあいいや。
「ほうほう。で、どこへ?」
「聞いて驚くな? 今回はド直球! 女子更衣室へ直接侵入する! まず今日の一限はうちと隣のクラスが体育だ。そこで僕たちは朝礼終了後速攻で女子更衣室へ行き中の掃除用具入れへ隠れる。そして隙間から直で生着替えを拝むのだ~」
「…………」
「…………」
「…………? 作戦に不備がある?」
なんだろう、聞いていた二人の顔から光が消えている。ただただ僕を見てくるだけである。
「それは、ちょっとリスク高すぎじゃね」
「高いな」
「いやいや!」
夜の女子寮に不法侵入するのはおkでこれはダメって、お前らの判断基準はどうなっているのだ。昨日の方がよっぽど悪いわ!
「悪い坂口、俺パス」
「頑張れよ」
心無い言葉を僕に浴びせてくる二人。全くこれだから最近の若者は意志薄弱だといわれるのである。ただ用具入れに入って見ているだけでいいお手軽ミッションなのに。
「もういい! 僕だけでやる。ということで体育遅れるから適当に誤魔化しといて」
でもそもそも考えれば掃除用具入れに二人はきついかもしれない。やはり僕だけでやるしかなさそうである。
「思ったより狭い!」
現在。朝礼を終え即効で階段を駆け下り体育館横の更衣室までやってきた僕。既に女子更衣室の鍵は開いており、隅にお目当ての掃除用具入れを見つけたのだがなんとまあ、開けてみれば中は箒やらバケツやらでおおかた空間は埋まってしまっていた。
「致し方ない……」
僕は腕を上げ片足を折り曲げ無理やり中へ這入る。片方の腕で扉を閉めなんとか収まることができた。
「これは……。想像以上に過酷な任務になりそうである……」
僕は一人呟く。しばらくすると熱気がこもって蒸し暑くなるわだんだん体がしびれてくるわでこりゃ大変だ。
と、その時!
「――――やく着替えて準備しちゃおー」
「だねー」
来たぞ……来たぞ! しかし入ってきた女子二人は何を思ったのかここから死角になる壁際で着替えを始める。まったく意味がわからない。
「まだだ……。まだ時間はある。女子は来る!」
額に汗を浮かべる。足はぷるぷると震えるがこれは武者震いだ! 決して片足で立っているからきつくなってきているわけではない!
「――ねえ、なんか声聞こえない?」
そんなとき死角で見えない場所から声が。いかん! もしかしてバレた!? 確かに息が苦しいせいではあはあ言ってるけど……。
「気のせいでしょ。誰もいないし」
「そうかあ。ならいいけど」
よかった。誰かはわからないけどナイスフォローである。
「ああー、遅くなった。購買でパン買ってたよー」
「並んでたねー」
お、また来たぞ。次こそはここから見える位置で着替えるのだ。するとそんな僕の純粋な願いを神様は叶えてくれたのか、彼女たちはちょうどここからバッチリ見える位置で着替えを始めた。
「――――! 来たか!」
目を見開き掃除用具入れの扉にへばりつく僕。女子はまずブレザーに手をかけ、脱ぐ。次にカッターシャツを、脱ぐ。そして下着が現れる。
「来た……。青です……、パターン青、ブラジャーです!」
青い水玉のブラジャー。彼女はその小さな胸を包む下着の後方へ手を伸ばし、ホックに手をかけた。
「…………」
そして下着を外し、そのお乳が僕の瞳に――――。
「んなっ!?」
急激な重力を感じる僕。意味がわからず狭い空間内で踏ん張ろうとするが平衡感覚は一瞬で消え去り、視界もさまざまな色に点滅して正常な視覚情報を認識できない。遂には意識までもが朦朧とし、消えかかる。
そして。
僕は意識を完全に失った。
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