第32話 おふろで作戦会議だにょ!
クリシアとの特訓で満身創痍の僕。しかし身体のどこを見ても怪我はなくどちらかといえば精神的に疲れてしまっていた。まあ死んでも死にきれない戦いをずっとやってたのだから無理もない。今なら翌朝までぐっすり眠れそ、
「ちょっとツラ貸せ」
閉じた瞳を開くと鏡台の椅子にリリルが座っていた。まったく。また魔法で直接来たな。ドアから入れというのに。これでは僕のプライバシーはどうなるんだ。本格的にのぶちゃんに抗議してこの部屋に魔法を弾く措置を取ってもらわねば。
「おいクソ幼女。室内に直接現れるな。ちゃんと入口から入れよ」
「わーったわーった。わかったからちょっと来い」
横になっている僕の肩を揺さぶって立ち上がれと促してくる。なんだよ一体。今日はもうこのまま寝ようと思っていたのに。
「なーに言っとるんだ。汗かいただろう。風呂入ろう風呂。他のやつも呼んでるから」
「ん?」
風呂とな? それは僕の知っている風呂で合ってるんだよな? この世界特有の儀式の名称が「huro」とかそう言うオチじゃないよな?
「お湯張って入るやつだよ。混浴だぞ」
「よし行こう」
本望じゃないけど誘われたから行くしかないよねっ。僕はため息混じりにベッドに手をつくといかにも気怠いといった感じでのろのろと立ち上がった。まあリリルにもいろいろお世話になっているしな。ここでこいつのお願いを無下にすることもできない。風呂に行くくらいならいいだろう。本当は寝ていたいんだよ? ただこいつがどうしもというから仕方なくである。
僕は誰に言うでもなく自分自身にそう言い聞かせると床に立ちリリルを見た。
「行こうぜ! 風呂に!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「先人は風呂の中でも政務を行ったそうだ。ということで。はい、第一回緊急会議を始めます!」
広い浴室内、というか温泉的な大浴場に声が反響する。声高らかに宣言するのぶちゃんに反応するようにちらほらと拍手が湧いた。
「ねえ、リリル」
隣で頭にタオルを巻き湯に浸かっている幼女を見る。つやつやの肌しやがって。
「なんだ?」
「これなに、会議?」
「うん」
うんじゃねえよ。風呂入るんじゃなかったの? いや、確かに会議の会場は風呂だけども。のぶちゃんとかクリシアとかいるから確かに混浴だけども。てか浴室内にいるの僕、のぶちゃん、クリシア、リリルの四人だけじゃねーか。会議というには寂しすぎるだろう。
「これは僕の知っているお風呂じゃない……」
なんで湯船の中にホワイトボードみたいなのがあるんだよ。なんでのぶちゃんはメガネかけて指示棒持ってるんだよ……。曇って見えないだろ……。
「では皆さん。お手元の資料をご覧下さい」
そういえば一人ずつ目の前にお盆が浮かんでおりそこに数枚の紙が乗せられている。取り敢えず僕は一番上の紙を手に取る。そこには日本語が書かれていた(僕にはそう見えるだけで本当知らない文字が書いてある)。
「んん、なになに? 過去半年の殺人事件?」
なんでこんな資料が? というよりなんで僕が呼ばれたんだろう。こういうのは警、いやこの世界では軍保だったか? の仕事ではないのだろうか。
「ざっと目は通してもらったと思いますがここからはリリルさんにお話をお願いします」
なんか知らないけどリリルに話を受け継ぐのぶちゃん。名前を呼ばれたリリルはハイハイするようにボードの前まで行くと代わりにのぶちゃんが僕の隣に来た。
「のぶちゃん。それ見えてるんですか?」
耳打ちして聞いてみる。けれど彼女は首を横に振った。
「全然。曇って何にも見えない。まあ雰囲気作りだからな」
ふん。やっぱり見えていないようである。それでも資料に顔を近づけてみている。この場ではこのキャラで通すらしい。妙に律儀な人である。
「えー、手元の資料から見て分かる通り、過去半年での殺人事件の件数は把握されているだけでも276件。その大半が41地区以降で起こっとる。既にほとんどの事件の犯人は軍保に逮捕されているが、証拠・目撃者がおらず捜査の難航している事件が13件ある」
資料の二枚目を見てみると13人の顔写真が。その横に事件の発生日時・現場が書かれている。
「……? これって」
「そうだ!!」
ビシィっとリリルが指示棒で僕を指してくる。なんだ、やけにテンション高いなあ。ウザい。
「未だ未解決の事件の被害者は全員が政府関係者。殺害方法もほとんど顔がわからなくなるまで徹底的に破壊されとる。そしてすべての事件に目撃者がいない」
すべての事件が同じ共通点を持つ……。偶然じゃないよな。それに顔がわからなくなるまでって、まるで国に対して憎しみを抱いているような。
「事件の発生はすべて1~24地区で発生しており発生日はすべて雨の日。そして雨の日、という条件と政府関係者ということそして遺体の状態がこの一連の事件と酷似している事件はつい二日前にも起こっとる。第三地区で一昨日の夜八時。店の閉店準備をしていた男性が全身を鈍器のようなもので殴られた男性の遺体を発見。すぐに軍保へ通報したが遺体の状況は酷く四方に肉片が飛び散っていたということだ。犯人は未だ不明。証拠は近くに被害者の血液が付着した金属の棒が落ちていただけということだ」
「質問!」
快調に話すリリルを遮って挙手をする。若干睨まれながらも「どうぞ」と言われ発言が許された。
「もしかしてその事件って昨日僕とリリルが襲われたのと関係があるんですか?」
「そう。昨日私とそこの変態も女に襲われた。正確には変態が襲われていたところに私が助けに入ったんだが。その時は雨が降っていた。そして変態も私も今は城に住んでおり政府の人間と判断された可能性がある。女はナイフを所持しておりそれを武器に襲われたため私が魔法を使い応戦。したら女も、魔法で私を〝攻撃〟してきた」
浴室内にざわめきが起こる。みんな互いに隣の人間とひそひそと話していた。
「待ってにゃ。攻撃ってどういうことにゃ? 町の中では攻撃魔法は使えないはずにゃ」
もっともな意見である。リリルの話では洗脳により攻撃魔法を人間に対して使うことはできないはずだからな。
「それはわかっとる。が、相手は確実に魔法を使った。火炎系の攻撃である『インフェルボレット』を。相手は恐らく自身に施された洗脳を解除、もしくは無効化する策を有しとると思われる。なお、この事件の捜査はここにいるメンバーだけで行う。軍保も証拠がなくお手上げ状態らしいし、攻撃抑制の効かない人間がいることが公表されれば混乱を招く。攻撃魔法の使える人間がいるということは機密扱いにする」
「リリル、いいか?」
「はいシェロン」
「犯人に目星はついているのか? またその女は確実に一連の事件に関係しているのか?」
「女が一連の事件に関与しているというのはほぼ確実だ。変態が女の口から『今回は一撃で! 昨日見たいに潰さずに済んだ!』と聞いたという」
僕に一瞥をくれるリリル。うんうんと首肯してやった。
「昨日の時点で『昨日見たいに』と言っていることから女が二日前の事件に関わっていると考えられる。また犯人の目星だが、これはまだなんとも言えん。女の外見的特徴はまず腰のあたりまでの金髪。あと青い瞳。暗くてよくわからんかったが全体的に色白だったと思う。そして服装は赤いエプロンドレスに黒い靴。それと変態が言うには女は『いつもそうだ。誰もまともに話なんか聞いてくれない。無視して虐げて苦しめて……』と言っていたことから生活環境があまり良くなく差別も横行しているという25地区以降の住民の可能性が挙げられる」
以上だ、とリリルは指示棒をのぶちゃんに返してボードの前から退いた。しばらくみんな黙り込む。きっと考えているのだろう。僕も当然昨日のことを思い返していた。
女は確実に僕を殺す気だった。後から割り込んできたリリルに対しても同様である。でもなんでなんだ? 見ず知らずの人間に対してあそこまでの殺意を抱くなんて普通じゃない。人を襲っている時点で既に普通ではないのだが、あの女は特に異常に思えた。
一体、あの女の人生に何があったのだろう。
次から何話か使って過去篇になります。
誤字脱字の指摘・感想なんでも待ってます。




