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変態冒険記  作者: ゆゆ
第2章 世界を憎む少女
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第27話 Thinking about a girl

 リリルに話を訊いてみるとあの女が攻撃してきたときまったく動じなかったのは、「びっくりして動けんかった」ということらしい。本人曰く魔法が使えないとばかり思って油断していたところを突然魔法で攻撃されたので驚きのあまり身動きが取れなかったということだ。まったくこの幼女は。


「でもあれはなんだったんだろうな」


 爆発についてはリリルが適当に言って人を散らせ、今は少し離れたカフェでコーヒーを飲んでいる。向かいではリリルが巨大なパフェをつついていた。


「何って、人殺しだろう」


 まあそうなんだろうけどな。でもなんか違った気がした。


「あの女の話を聞くに殺すのは誰でもよかった、みたいな感じだったな。僕にも直接の恨みはないと言っていたし」


 しかしリリルはパフェスプーンで底の方をかき混ぜながらうーんと唸り声を上げる。解せないといったふうだ。


「あの女の顔見たろ。私が魔法使いだと分かった時物凄い顔しとった。親でも殺されたみたいな」


「殺したのか?」


「んなわけあるか!」


 クリームを飛ばしながら声を上げるリリル。まあ確かに言いすぎたかもしれない。


「それはそうとあの時ナイフから守ってくれたのってお前の魔法なのか?」


 衝撃こそあったもののあれは突進による衝撃であってナイフによる刺し傷は一切なかった。あんな重い一撃を防ぐなんて。


「ああ。城の食堂で言ったろう。『サービスでその他便利な魔法もかけておきました』と。城に出入りする分なにかと便利だからな」


 ふーん。便利というか、むしろあれがないと死んでたからな。こいつには感謝しておかないと。


「しかし私が解せんのは別にある。魔法が使える人間も確かにおるからな。偶然あの女が使えてもおかしくはない」


「別ってなんだよ」


「この町は原則〝攻撃魔法〟禁止なんだ。転送とか防護の魔法なら大丈夫だが」


 ん? 禁止って、法律で禁止されているとかだろう? そんなの犯罪者は軽く無視してしまうだろう。


「犯罪者には意味ないんだよ。法を破るから犯罪なわけだし」


「いやだから。この町じゃ攻撃魔法は使えんのだ。使う使わないじゃなく、絶対に使えない」


 ?? このメイド幼女さんはなにを言っているのか。僕のオツムでは理解できないんだが。


「はあー。ユルい脳を持つと苦労するな。ちょっと説明するから聞いとけ」






     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆






 この町は治安維持の関係から魔法が使える人間に対して幼い頃から一種の洗脳を施してある。人間に対して直接攻撃を加えるような魔法を使おうとすればそれはうまく発動しないらしいのだ。


「無意識の領域に攻撃抑制が組み込まれとる。本来なら呪文を唱えても不発に終わる。そして繰り返し攻撃を加えようとすれば精神に刷り込まれた抑制因子が崩壊し自己を壊滅させる」


「ということはこの町の中にいる限りは普通、攻撃魔法は使えないし使おうとするだけで精神にダメージがあるということか?」


「そうだ」


 洗脳とか怖いな。でもこの広い町の中で治安を維持するには必要なのかもしれない。それに魔法を使える人間はひと握りだ。それでも物理接触なしに人を攻撃できるような人間は制限されなければならないのかもしれない。


「まあ大多数の魔法使いにとって洗脳時の記憶は消されとるから精神の負担は少ないだろう。法を守って生活しとれば思い出すこともない」


 しかしそうなるとあの女はどうなるんだ? 普通にお前に攻撃魔法を使っていた。


「洗脳の抜け道とかあるんじゃないのか」


 そうでなければリリルの説明に合わない。理屈に合わない。


「もしかすると後天発現者ということも考えられる」


「?」


「生まれたときは魔力を持たない人間が後に後天的に魔力を得る場合がある。可能性は極めて小さいがな」


 なんだ、あるんじゃないか。きっとあの女はその極めて低い可能性の人間なんだろう。


「しかしその場合も通常ならすぐに政府に知られ洗脳が施される。周囲に魔力のことを隠して生活するなど……」


 空になった容器を僕の方へ押しやりリリルはもう一つパフェを注文した。どうやら考え事をする際には糖分が大量に必要になるらしい。


「それじゃあ後天発現者以外の可能性は?」


「ある。が、これもやはり普通はありえん」


 いやでも実際に遭遇したわけだし何かしらの可能性が当てはまるだろう。リリルも知らないようなことなら仕方ないが。


「仮定の話だが、自力で洗脳を解くことができれば攻撃魔法の行使も可能だ。だが普通無理だぞ。私ですら自分にかけられた洗脳は解けないからな」


 終始唸り声を上げ考え込むリリル。運ばれてきたパフェの頂上から赤い実をつまみあげると口へ放り込んだ。


「ダメだ、わからん!!」


 お手上げだー、とリリルはテーブルに突っ伏す。そのまま木の実の種を口の中でコロコロと転がしていた。こいつも見当がつかないとはあの女は一体何者なのだ? 見た目は普通の女の子だったのに殺意だけは恐ろしい程あった。


「そういや意味深なこと言ってたなあ……」


「意味深?」


 知らないうちに顔を上げていたリリルが食いついてきた。関係ないけどほっぺにクリームみたいなのが付いている。


「うん。お前が来る前言ってたんだ。『いつもそうだ。誰もまともに話なんか聞いてくれない。無視して虐げて苦しめて……』とか『今回は一撃で! 昨日見たいに潰さずに済んだ!』って。改めてあの女はおかしいよな」


「…………」


 無言でパフェを見つめるリリル。どうしたのだろう。味が気に入らなかったのだろうか。


「城へ戻るぞ。少し調べたいことがある」


 言ってパフェスプーンをテーブルに置くとイスから立ち上がりレジへと歩いていく。ほとんど残ったままのリリルのパフェを僕は急いで胃に詰め込む。いや、高いものだから勿体無いだけである。他意はない。


「何しとるんだ。早くしろ」


 店の出口で僕を待つリリル。ツンツンしつつもきちんと待ってくれているあたりこのメイド幼女さんは大変よろしい。というか可愛い。さすが幼女。


「あ、ちょっと帰る前に寄り道いい?」


 のぶちゃんに買っていたクッキーはイカれた女のせいで無残にも地面にばらまかれてしまった。ここは新しいものを買い直したい。


「別にいいぞ。早くしろよ」


 許可をもらい先ほどクッキーを買ったのと同じ店に行く。なんで今日は僕の言うことを聞くはずのリリルの許可を取らないといけないのだと内心思ったがまあ今日はこいつに助けられたからいいとしよう。


「さっきのと同じやつください」


 僕は店員の姉ちゃんに声をかける。


「ありがとうございます。お会計は」


 もちろん。


「カードで」


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