第25話 Inevitable encounter ‐邂逅‐
この都市は全部で84の地区に区分されているらしい。今僕たちがいるここは城から一番近い第一周に含まれる第2地区らしかった。
「ここは城に直接物品を納入する店が集まっとるからな。裕福な場所だ」
リリルは歩きながら左右に立つ店を指差して色々教えてくれる。町の雰囲気としてはあまり高い建物がなくあっても5階建てとかなのですっきりとした印象だ。あとは人が多い。みんな忙しそうにしていた。
「40地区までは治安はいい。というか13地区からはほとんど家ばっかりの居住区だがな。だから一人で出歩く場合はなるべく数字の小さい地区にしとけ」
「絶対に迷子になる自信があるからそうそう出歩かないよ」
「でもしっかり魔法が使えるようになれば適当にフラフラしても帰りたくなったら転送魔法ですぐ帰れるだろう」
うーん。それはそうだ。でもまだまだ魔法なんて使えないぞ。念じて念じてやっと一回転送できただけだ。しかもあれ夢らしいし。
「まあこれから鍛えればいい。それはそうとあとはどこ行きたいんだ? 買いたいもんあるならいいぞ。城からカードもらってるし」
「なにカードって」
クレジットカードみたいな?
「今朝シェロンから預かったんだ。お前に渡してくれって」
「えっ、なんでじゃあ渡してくれないの」
もう朝からずっとこいつといたのに一度もそんなこと言わなかったぞ。もしかしてそのまま自分のものにするつもりだったんじゃ。
「お前、なーんも知らんのにこんな上限無限のカード支給されたって扱いに困るだろう。私が管理してやるから買いたいものあるときは言うように」
なんで偉そうなんだこいつ。それ僕のだろう。返せよ。
「いいから寄越せ!」
「あっ」
自慢げにヒラヒラとカードをかざすリリルから奪い取る。
「ふん。まあせいぜいなくさんようにな」
負け惜しみみたいなことを言うリリルは無視して僕は手に持ったカードを見る。全体が白色というかプラチナみたいな色で上の方に左端から右端まで9が並んでいる。下の方にはなにやら黒い帯のようなものが印刷されていた。
「リリル。この黒いの何?」
「そこを指で撫でてみろ。右から」
? 指で撫でろって? 僕は言われた通り黒い部分を右からサッと撫でた。が、何も起こらない。
「まあ嘘だからな」
「…………」
こいつなんなの。僕に恨みでもあるのだろうか。マジで心が折れそうだ。
「おいおい、泣くなよ。右じゃなくて左」
またどうせ嘘なんだろう? そうやって僕が純粋無垢に言われたことをやるのを心の内でほくそ笑んでいるんだろう? 嘲笑っているんだろう?
「まあやってみるけど」
今度は左側から撫でる。すると手に持っていたカードが消えた。
消えた。
「上限無限のカードが消えたあああああ!!!」
なにこれ、消失したのか? 魔法的なあれで消えちゃたのか?
「騒ぐなよ。紛失防止の機能だ。お会計時とかに勝手に手元に出てくる」
「紛失防止?」
確かに上限無限のカードなんかがなくなったら大事件だ。だからこんな素敵機能がついているのか。
「で? なんか買いたいもんないのか? ちょっとトイレ行ってくるからその間に適当に考えとけ」
そう言うとリリルはどこかへ駆けて行ってしまう。トイレなら仕方ないか。ここで店でも見ながら時間を潰そう。
「そうだ……」
のぶちゃんにお詫びの品でも買うか。なんだかへんな誤解をさせたままだし手土産でも持って謝りにいったら許してくれるだろう。のぶちゃんからのカードで買うというのはあれな感じだけどしょうがない。だって僕カード以外に買う方法持ち合わせていないし。
そうと決まれば何がいいかな。お茶菓子とかがいいのだろうか。
僕は立ち並ぶ店を順々に見ていく。しかしどの店も高級そうだなあ。リリルにかけてもらった魔法のおかげで品物の値段もちゃんと分かる。今見ているロールケーキなんて一本3万だ。馬鹿なんじゃないか。
「何を買うか……」
ケーキとかは生ものだからやめておこう。クッキー的な保存の効くお菓子がいいだろう。
「クッキークッキー……。一缶2万9千だと!?」
僕のいた世界でなら500円くらいで売ってそうなやつなんだけど。原料とかが違うのだろうか。いや、確実に違うのだが。
「これください」
まあそうは言ってもお金には困らない。ここはパパッとこれにしておこう。
「ありがとうございます。お会計は」
「カードで」
そう言うと突如手元に先ほどのカードが。それを店員に渡し会計を済ませると袋を持って通りへと戻った。
しかし「カードで」って初めて言った。ちょっと興奮してしまった。
僕は同じようにカードをなぞり紛失防止の機能を起動させると少し歩いたところにある噴水の近くに立った。ここでリリルが戻ってくるのを待つとしよう。
「…………?」
右頬に何かが当たった。前方に目を凝らしてみると水滴が降ってくる。どうやら雨が降りだしたようだ。城を出る頃にはまだ晴れていたのに。
僕は雨宿りしようと噴水近くの店の影へと入った。と、その時。
「――――ん?」
まただ。また視線を感じた。僕は視線を感じた方を振り向く。けれどやはり人がたくさん行き交っており誰かなんてわからない。
「なんなんだよマジで。気のせいか?」
いつもはこんなことないのに。むしろ視線に鈍感なほうだと思っていたのだけど。
「!!」
今度は確実だ。誰かが見ていた。それも今僕が向いている方向。
濡れるのも気にとめずに駆け出す僕。人の波をかいて進む。と、その時視界の隅になびく赤い生地が。しかしすぐに建物の影に吸い込まれてしまう。
「あれか……?」
僕もその建物の脇の細い道へと入る。すると道の反対側でまたも赤い生地が見えた。位置的にスカートだろうか。ということは女性? なんにしても怪しい。僕から逃げているふうにも見えるが逆に誘っているようにも見える。ここで諦めるかこのまま追うか。僕は数瞬迷ったけれど後者を選んだ。もやもやしたままというのも嫌だ。正体がなんであれ自分の目で確認したほうがいいだろう。
僕はそう決めると赤い女の後を追うように道を走った。
「? ここは」
僕が出た場所。そこは人気のない路地だ。四方に建物が建っており陽の光が差し込まず薄暗い。しかし不思議なことに女の後を追っていたはずなのに女はいなかった。それに目の前は壁。
行き止まりである。
「……気のせいか?」
腑に落ちないけれど僕は引き返すべく行き止まりに背を向ける。
「人生における幸せの総量はみんな同じとか言うよね」
突如。
誰もいないはずの背後から声が聞こえる。女の声だ。若い、女の。
僕は振り向く。そこに立っていたのは金髪碧眼の女。僕と同い年くらいだろうか。赤いエプロンドレスのようなものを着ている。
「でもそれだったらどうしてわたしの人生には不幸しかないんだろう。今ここでわたしが死んだら今後有り得た幸せはどうなってしまうんだろう」
「な、きみ誰? ずっと見ていたのって、」
しかし女は僕の問には答えずただただ微笑を浮かべて僕の顔を一直線に凝視してくる。そして女は後ろ手に回していた腕を前へと移動させ、
その手に握られていたのは。
「――なっ」
僅かな陽の光を受け鈍く光を放つ、一本のナイフ。
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