第24話 休日の町角
そうは言ってもリリルはちゃんと魔法を使ってくれたようで、その後僕はこの世界の文字が読めるようになった。本当は文字を一つ一つ教えてもらうつもりだったのだけど魔法という不思議パワーで簡単に読めるようになってしまった。
と言うか文字を見ると日本語に見えるのだがまあこれがリリルの言っていた「脳内で変換」なのだろう。まったく便利なものである。
「どうするー? まだ今日は終わっとらんからこのままメイドさんを続けてやってもいいが」
向かいの席でカップを傾けるリリル。自分で淹れたらしい紅茶だ。僕の分も用意してくれたのだけどなんだか変な香りがしたので丁重にお断りしておいた。
「そうだなあ。うーん……」
「ないならないでいいが」
ちょっと待ってくれ。今の僕には考える時間が必要なのだ。僕はふと時計を見る。まだ午後2時前だ。今日は外もカラっと晴れているようだし……。
「そうだ。町を案内してくれよ。僕まだあまり見たことないんだ」
駅舎内を歩いてクルマの窓から眺めた程度だ。自分の足で町へ繰り出したことなどない。城内でならたくさん歩いたが(迷子で)。
「ふん。そうだな。まだこの世界に来て間もないし案内でもしてやるか。と言っても私と一緒で入れるとこは限られるぞ? 風俗的な店には多分はいれん」
「いや入らなくていいよ」
なんでそんな店に行くこと前提なんだ。行かないよ。
「しかし町の案内なら私よりシェロンの方が喜んで引き受けそうなんだがな」
「そりゃ確かに」
しかしのぶちゃんはどこかへ逃げ出してしまった。と言うかお前のせいだ。追いかけようにもお前がいて立ち上がれなかったしこんな広い城内探そうにも範囲が広すぎる。今度ばったり会ったときにでも謝ろう。
「じゃあ行くかー」
「おう!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
で。現在僕とリリルは城から出て町へと来ていた。ほんの10分ほど歩いてついてしまったので随分近いようである。
「城を中心にして町が広がっとるからな」
隣で後頭部へ両手を回しのんびりと歩いているリリル。格好はメイドさんである。
「しかし案内と言ってもこれといって特筆することはないぞ。この地区は城から近いこともあって高級な店ばっかりだ。外側の地区に行くとだんだん庶民的な店が多くなってそれを過ぎると居住区だ。さらに外側は貧困層の住民が住んどって治安が悪い」
人殺しも多々ある、とリリルは遠い目をして呟いた。やっぱりどこの世界でも犯罪はなくならないらしい。まあどんな世界でもまったく犯罪がないとなるとそれはある意味狂っているのかもしれない。
人が皆ニコニコと法に従い淡々と面白味のない生活をするなど気持ち悪いとさえ言える。
「でもあれだ。ここらへんの治安はいいから安心しろ、…………!」
リリルは付け加えるようにそう言うと突如駆け出した。
「あ、おい! どこ行くんだ!」
こんな見知らぬ場所で一人にしないでくれ。
僕は必死にリリルを追いかけた。が、相手は身体の小さい子供。人の間を縫うようにどんどん進んでいってしまう。
「く、くそっ。なんなんだ」
道行く人にぶつかるたびに謝る僕。若い金髪の姉ちゃんとか強面のじじいとかにたくさんぶつかってしまった。けれどここの治安がいいというのは本当のようで誰もあまり怒らなかった。
「うほー!」
リリルの進んだと思われる通りをしばらく進むと一つの店の前にリリルがいた。手には串を握っており食べ物らしきものが刺さっていた。
「いただきまー、」
「おい」
リリルの手から食べ物をひったくる僕。きちんと説明してもらわないと納得いかないぞ。
「なんだよこれ。なんで僕を置いていったんだ」
「あ、あー。懐かしい匂いがしてつい。でも見つかったんだしいいじゃん!」
悪びれる様子もなくジャンプして食べ物を取り返そうとするリリル。
僕も対抗して取れないよう腕を高く上げた。
「こ、この~。それ私が買ったやつなのに! 返せ!」
「僕はな。こんな場所来るの初めてなんだよ。迷子になったらどうすんだ!」
「悪かった悪かった。今度からはちゃんとするから」
上目遣いに見てくるリリル。周りから見れば幼女から食べ物を取り上げている極悪非道に映っているかもしれない。ここは世間体ということもあるので素直に返してやるか。
「分かった。返してやるよ。その代わりもう走って遠くへ行くなよ? 僕との約束だぞ」
「分かった! 約束する!」
まあしょうがない。僕ははい、と返す。リリルは僕の手からぶん取るとかぶりついて食べ始めた。
「ねえ。それなに」
隣で美味しそうに食べるリリルを見て僕は問いかける。揚げ物っぽい見た目でいい匂いがする。さっきお昼食べたばかりなのにお腹減ってきてしまった。
「これか? これは腸の中に肉を詰めて茹でたもんを油で揚たやつだ」
ソーセージ的な感じかな? にしては細長くはなく、真ん丸な外見だが。でも色合いとか匂いは近いかもしれない。
「お前も食うか?」
!? ということはお前のそれを、食いかけをくれるということだろうか。それはもう間接キスだよな。いやいや、相手は幼女だからね。僕もそんなことでは動揺したりしない。……でも待てよ? リリルも今でこそ幼女だが数年もすればいい感じの女になるんじゃないか? 今のうちに経験できることはしておくべきじゃないのか?
「お、おう。じゃあ一口もらおうかな」
「おい。これもう一つくれ」
僕を尻目に店員に注文を出すリリル。すぐに同じソーセージ的なのが出された。
「ほれ。私のおごりだ」
「…………」
悲しいとかじゃない。この涙は決して悲しいから流しているのではない。
僕は袖口で涙を拭うとリリルから受け取り一口かじった。パリっとした外側とは一変。内部は熱々で柔らかい肉が詰まっていた。噛むたびに肉汁が溢れてくる。
「泣くほどうまいのか」
「うう、美味しいです……」
リリルが不思議そうな視線を向けてくる中僕は涙を流しながら頬張り続けた。しかしあまりに美味しいのですぐに食べ終えてしまう。
「それはそうとお前お金持ってたんだな」
幼女のくせに人に奢るなんて随分リッチじゃないか。幼女のくせに。
「これでも占い師しとるからな。ぼったくりの価格設定だから金には困らんわ」
ぼったくりって……。自覚あるのかよ。
「でも僕の時はお金取らなかったよな」
「シェロンが関わっとったからな。金は取らん」
ふーん。なんだかリリルとのぶちゃんは僕が知らない頃からの特殊な仲らしいな。詮索はしないけど。
「…………?」
その時。
僕は視線を感じた。これほど人のいる通りならそりゃ誰かに見られることはあるだろうけど、なんだろう。そういう視線とは違った……。
「どした?」
「いや。なんでも」
多分気のせいだろう。
僕に向けられるわけない。
殺気なんて。
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