第22話 いろんな意味でインテロバング
「取り敢えず例の約束なんですがね」
昼食の席。僕は向かいでサラダを頬張るリリルへ話を切り出した。
「? 約束? 一体何のことだ」
……とぼけるつもりか。魔法を使うことができたらなんでも言うこと一つ聞くと言ったのは自分なのに。
「お前自分で言ったろうが。何してもらうか考えるからちょっと待ってろ」
「ふん。まああんまり変なことはさせんで欲しいな」
本人の意思など知るか。さてどうしたものか。本当なら胸でも揉みしだいてやるのが妥当なんだろうけれど、あいにくリリルは幼女だ。ぺったんこな揉めもしない胸を揉むために言うこと聞かせるチャンス失うのは痛い。ここはもっといい妙案を考えるべきである。
「んん~」
リリルをじっと見る。相変わらず不機嫌そうにちょっと眉をひそめてむしゃむしゃと咀嚼を続ける。
そうだ。こいついつも変な喋り方だよな。古風と言うかババアみたいな。だったらもっと年相応の従順な感じの喋り方はどうだろう。服装もゴスロリではなく清楚な感じのヴィクトリアンメイドみたいなのにして。
「よし。今日一日お前は僕のメイドさんだ」
「うん。わかった」
あんまり興味ないというふうにフォークで皿を掻き回す。お前ベジタリアンなんだな。
「じゃあ今日はその変な話し方禁止ね。それから飯食い終わったら着替えてきて」
「了解了解」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ご飯を食べ終わったリリルはすぐにどこかへ行ってしまった。逃げたか? と思ったがあいつが嘘をつくとは思えないし僕は期待して待つだけである。
「ありぇ? 変態くんだにゃー。こんにちは」
その時。食堂の椅子に座り紅茶を飲んでいる僕に声をかける人が。振り向いてみるとクリシアがいた。が、髪はツインテールではなくサイドテール。服装も前回とは違っていた。
「髪型とか服装をコロコロ変えるとキャラが弱くなるとか言うけど私は気が変わりやすいのにゃー」
「誰に言ってるんですか」
「不特定多数の誰かに見られている気がしたにゃ」
「気のせいですよ。というか今日はなんか用なんですか?」
彼女が城内にいるなんて珍しい。軍に所属しているらしいし城へはなにかの任務できたのだろうか。
「リリルに呼ばれたんにゃ。言うなれば特令。こんな特令を引き受けるなんて特例なんだけど、変態くんに武器の扱いを教えてやってって」
……あー。そういえばそうだった。しかし今日はもうフリーのつもりだったんだけど、これから始めたりするのだろうか。
「特訓の開始は明日からにゃ。それまでに覚悟を決めとけにゃ」
と。最後に不穏な台詞を残して跳ねるように食堂から消えていった。でもまあよかった。今日は一日メイド幼女とお楽しみなのだ。
「お待たせしました」
「――――――」
背後から聞いたことのあるようなないような声が。振り向いてみるとそこにはメイドさんが立っていた。
黒のワンピースの上に白い純白のエプロン。足首まですっぽり隠れている。頭には二重フリルのカチューシャを付け髪はバレッタで留められていた。全体の雰囲気に細い銀色の髪が映えている。
「リリル……」
「ご要望通り着てきましたけれど、どうです?」
なんというか、あれだな。似合っているな。胸はないけれど。
「私は何をすればよいのでしょう?」
おお、というかその喋り方! 新鮮!
「そ、そうだなあ。正直なところやってほしいことはこれといってないのだけど、んんー。あえて上げるとすれば僕にこの世界の文字を教えて欲しいかな」
言葉に関しては問題ない(この世界に来た直後のぶちゃんにへんな魔法を叩き込まれたため)のだ。でも文字に関しては全くダメ。本なんか見てもさっぱりだしこの世界での生活がどれほど続くかも分からないから知っておいて損はないだろう。というか損ばかりする気がする。
「そうですね。では私が手取り足取り教えて差し上げましょう」
と言ってリリルはつかつかとこちらへ近づくと僕の手を取った。次いで足も取る。体勢的には椅子に座る僕の手足をリリルが床にしゃがみこんで掴んでいる状態だ。当然リリルの顔の正面には僕の息子が鎮座する。
「……文字通り手取り足取りなわけだけど、えっとリリル、いやメイドさん。これはどういう?」
遠目から見ればこのメイドさんが僕の下半身にわいせつなことをしているように見えるかもしれない。どうしよう、今ここでのぶちゃんとかが来たら変な誤解を与えてしまうかも。まあそんなベタなことにはならないのだけど。
と言うか当のメイドさんは僕の言葉なんか華麗にスルーし何やらぶつぶつ小言を言っている。なんだろう。
「あ」
「あ」
運命にはどうやらある程度テンプレートが存在しているらしく、ちょうどここから十メートルほど離れた食堂の入口。そこにのぶちゃんがひょっこり現れた。きっと遅めの昼食でも摂りにきたのであろう。しかし悲しいことにちょうど彼女の位置からはテーブルやら僕の座る椅子の背もたれやらが邪魔してメイドさんの顔を隠してしまっているかもしれない。僕の股間にメイドさんが顔を埋めている図だ。
「あー……。まあ変態の年齢を考えるとそういう欲望のはけ口は必要なのかもしれない。ここへ来たばかりで静かに自慰的行為に及ぶこともできなかっただろう。その点に関してこちら側の責任もある。今後はプライベートな時間と空間を確保することを約束しよう。しかしだな、今昼の一時だぞ。さすがにこの時間からプレイを開始するというのはいささか看過出来ないな……」
のぶちゃんはその場で腕を組みやれやれといったふうに困惑した表情でこちらを見てくる。いや、困惑しているのは僕のほうなのだけど。
「ち、違いますよ? よーく見てください。そんな行為には及んでません! ほら、ここへ来てよく見てください! ほら!」
焦った僕は空いている方の腕で手招きする。けれどのぶちゃんは一歩後退すると若干震える声を出した。
「あ、いやあの、すまないが他人の行為を見るようなことはできない。ちょっと、それは、ごめんなさい」
なぜか謝りそのままダッと駆け出してしまうのぶちゃん。椅子から立ち上がることもできず、反論することもできずただ呆然と時の流れに身を委ねる僕。
一体どれほどの時間が流れたのか。いや、本当は三十秒ちょいなのだけど、その時下の方から声がした。
「ご主人様。完了致しました。これでこの世界の文字もきちんと理解できるかと」
「うん。僕はお前の行動が理解できない」
「視覚から入る文字情報を脳内で既知言語へ変換する魔術です。あとサービスでその他便利な魔法もかけておきました」
「それにはこの体勢が必要だったの?」
もしそうなのだとしたらお願いしたのは僕なのだからこのメイドさんを責めるわけにはいかない。さらにサービスもしてくれたのであれば尚更だ。けれどメイドさんは、
「別に」
と言うと退屈そうに指をいじりだした。ささむけなんか引っ張っちゃったりしている。
「……はあ。メイドさん。もうかしこまった言葉遣いしなくていいよ。いつものでよろしく」
「わかった」
このメイドさん、ではなくリリルはただの子供だ。人をからかって馬鹿にして、でも自分も馬鹿。
僕はそんなことを忘れてしまっていたのだった。
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