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変態冒険記  作者: ゆゆ
第1章 理想の末路
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第18話 血染めのチェスにチェックメイトを告げる



「――――うぐあああああああ!!!?」




 突然の悲鳴。数瞬間が空いて先程までのぶちゃんが持っていた剣が音を立てて地面へと転がった。視線を這わせ見てみればのぶちゃんは自身の左手をかばうように身をかがめている。さらに足元の地面には血液がバシャバシャと降り注ぎ大きな血だまりを作っていた。


 何が起こったのだ? 視線はずっとのぶちゃんの方へ向けられていたのに気がついたら血を出している。いったい何が。


 のぶちゃんの前には全く動かないミリルム・クリフ。呼吸をしているふうにも見えず、だが周囲の粒子はキラキラと天井から降り注ぐ光を拡散させている。


 僕は思わずのぶちゃんの元へ駆け寄ろうと一歩踏み出すが、


「来るな!」


 制止させられてしまう。


「大丈夫だ。ちょっと油断しただけだ」


 そうして脇に転がる剣を拾い上げると再度構える。よかった。怪我は大丈夫なようである。血が出ていたようだが回復魔法でも使ったのだろうか。


 のぶちゃんは腰だめに剣を構えると相手の足元へ飛び込み斬りかかる。瞬間、刀身から赤黒い閃光が迸りミリルム・クリフの表皮が裂け真っ赤な液体が吹き出した。






「「「「「オゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」」」






 鳴き叫ぶのも一切無視し、のぶちゃんは血塗れた剣を一度振り、刀身についた血を飛ばすとさらにもう一撃加える。今度は先ほどよりも暗い閃光が走りミリルム・クリフの前足が一本吹き飛ばされる。バランスを崩しその場に倒れるミリルム・クリフ。切断された足の先は脇の壁へぶつかり崩壊させながら爆発を巻き起こす。


 ひと振りで足を吹き飛ばしてしまった。これなら一人でこのまま勝てるかもしれない。


 しかし。


「なんだ、あれ」


 切断した足。その先から眩い光が漏れ、足の形を形成していく。しばらくしてそれまで倒れていたミリルム・クリフは再びその場に立ち上がった。


 次いで巨大な翼を羽ばたかせるとゆっくりと飛翔する。前足が地面から浮き上がった瞬間、頭部のあたりから何かが放たれる。


 白いレーザーのようなそれは一瞬にして地面を裂き、その途中にいたのぶちゃんは後方へ吹き飛ばされる。


「だ、大丈夫ですか!?」


 駆け寄る僕。地面に転がり意識を失っている彼女を抱き起こすと左腕の肘から下が消失していた。さらにその傷口の断面は焼け爛れ体液を垂れ流しながら煙を上げどんどん腐食している。


「ちょ、これ」


「――とせ。……切り落とせ」


 すぐに意識を取り戻していたらしいのぶちゃんはかすれる声で僕に告げる。そして虚ろな瞳で近くに転がるドルミルマリルを示した。


 あ、あれで腕を切り落としてくれということか? 出来るわけない、そんな、


「早くしろ! このままでは一気に腐食が進む。私を殺したいのか!?」


 物凄い剣幕で怒鳴る。僕は一度地面へ彼女を寝かせると落ちていた剣を拾い上げる。


「い、いいんですか?」


「ああ。早くしてくれ」


 この剣の切れ味があれば僕程度の力でも切り落とすのは容易だろう。しかし腕を切るなんて。


「ありがとう」


 いつのまにか膝立ちになっていた彼女は左腕を横に突き出し、きつく目を閉じている。


 いいのか、本当に。他に手はないのか。これ以上彼女の体を傷つかせないで済む方法は、ないのか。






『どうやらピンチのようだにゃー』


『危機的状況だねえ』






 その時。


 天井に空いた縦穴から声が。


 気がつくとのぶちゃんの肘の切断面はうっすらと光のもやがかかり腐食は止まっているように見える。


「どうなってるんだ、これ」


 直後激しい爆音が。しかし一切の爆風も熱線も感じない。僕ははっと顔を上げ見てみると丸焦げになり全身が赤褐色になったミリルム・クリフが煙を上げながらその場に崩れていた。


「こいつの表皮は白金だにゃー。熱した王水をぶっかけてやればこんな装甲簡単にくずせるにゃー」


「王水も便利なことにこの周囲の沼地に腐る程湧いてるからねえ。それよりもなによりも白金と王水の反応でできたこいつは高価で取引されるんだぜ。助けてやった駄賃がわりにこいつはもらっていくから」


 そこで初めてまじまじとそいつらを見る。


 語尾ににゃーにゃー言っているのは薄いピンク色の髪を後ろの方で二つに結わえた十五歳くらいに見える女の子。大きな赤い瞳で口はケツみたいな形になっている。


 そのとなりで地面に転がる丸焦げのミリルム・クリフをつま先で蹴っているのは銀色の髪を肩までのショートヘアにしたつり目の女の子(?) おっぱいがまったくないのでもしかしたら男かもしれない。


「男だよ!」


「すーちゃんは男の子だにゃー。ちゃんと付いてるにゃー」


「言うなよ!」


 やっぱり男だったか。でもそうだとしたら随分と女の子っぽい男の子である。男の娘というやつか。


「あのー、助けてくれたのはとても嬉しいんですが、お前たちは?」


 僕の問いかけに答えるように彼女と彼は目の前へと歩いてきた。


「私はクリシア・メンテルだにゃー。王城の第七魔法師団の指揮官やってるにゃー」


「俺はストレア・スカースリットルなんだぜ。法軍の参謀なんかやってる」


 そうして二人はお互い顔を見合わせると再度僕の方を向き、「よろしくな(にゃー)と声を揃え手を差し出した。


誤字脱字の指摘・感想なんでも待ってます。

不定期更新。

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