第17話 下見と言う名の"決戦"、変態とのぶちゃんのそれから…
この穴は岩山の向こうへ繋がっていたようで、その後一時間ほど歩いたところで僕たちは巨大な空間に出た。僕の知っているもので例えるなら学校の体育館ほどの大きさである。しかし体育館と大きく違うのはそれが岩をくり抜いて作られたようだということと空間全体がドーム状になっており天井の中央には巨大な縦穴があいているということだった。真下に立つとかろうじて点のような陽の光が見えることから縦穴がかなり長いと分かる。
「なんなんですかね、ここ」
上を仰ぎながら横にいるであろうのぶちゃんへとつぶやく。自然に出来たと考えるには空間の壁面などがやけになめらかな気がする。今まで通ってきた通路はゴツゴツとした岩が突き出ていたりしていたのに。それになんだろう、あちこちに骨が散乱しているしなにやら地面がうっすらと光っている。
「恐らくここは奴の巣だ。自然に出来ていた穴を自分で住みやすいように削っていったんだろう。地面にある骨はきっと奴が捕まえた餌の残骸。光っているのは身体を覆っている表皮の欠片だろう」
この空間が巣だなんて、その魔物は一体どれほど巨大なのか。
「というかさっきは鳴き声みたいなの聞こえたのに今は何もいませんね」
「ちょうどお昼時だからな。ご飯でも獲りにいってるんだろう」
そうして二人して天井を見上げる。きっとあの縦穴から帰ってくるのだろうが今は僕とのぶちゃんしかいない。僕は戦力にならないし実質の戦力はのぶちゃんだけだ。戦いになったら厳しいだろう。
「そうだな。取り敢えず正体が確認できるまで待っていよう。ここの入口で待ってればすぐに逃げられる」
言って僕たちはこの空間へ入口へと戻り、そこでミリルム・クリフの帰ってくるのを待った。
が、いつまでたっても帰ってこない。ただただ虚しく時間が過ぎていくだけである。最初のほうこそお互い自分の世界のことを話して時間を潰していたが一時間たったころから次第に無口になり遂にはほとんど口を開かなくなった。
「来ませんね」
「だな」
「お腹すきましたね」
「ああ」
「今何時ですか?」
「二時」
「もう二時間もこうしてるんですね」
「……」
一体いつまでこうしているんだろう。しゃがんだり中腰になったりアキレス腱伸ばしたりしたりしてどうにかしようとしたが足が痛い。筋肉痛である。のぶちゃんは普段からなれていそうだけど僕は生粋の現代っ子なのである。こんなダンジョンみたいな場所でなんの食物もなしに野営はるのは少々キツすぎた。
「……そうだな。今日は巣と思しき場所を確認できただけでも十分かな。今日は帰るか」
「ですね」
まあこんな薄暗い場所で二時間も頑張ったのだ。もう帰ってもいいだろう。
「じゃあさっさとかえりましょ、あれ?」
意気揚々とその場でターンをし通路を進もうとした矢先、僕の視界に地面が割れているのが映る。そしてその割れ目から橙赤色の液体が溢れ出してきた。
「ん? なんだ、おしっこ?」
近寄ってみようと一歩踏み出した途端後ろから肩を掴まれ後方へ倒される。
「!? 何するんですか!」
と、のぶちゃんに凄んだ瞬間その湧き出した液体の中に岩が転がり落ちる。途端、岩は煙を上げて消えてしまった。
「な、なんですかこれ」
「毒の沼地(割れ目バージョン)だな。たまに湧水のごとく吹き出してくる」
「なんてトラップだ!」
危なすぎるだろう。あんなものに足を突っ込んでいたら今頃のたうちまわっていたところだ。
「ありがとうございます」
「なに、気にするな」
笑顔を僕に向け手を差し伸べてくるのぶちゃん。その手に掴まり立ち上がろうとしたその時、足元の地面が、左右の壁が、頭上の天井が、すべてが激しく揺れ始める。至るところに亀裂が走り、欠けた岩石が縦横無尽に飛び交う。先ほど湧き出た液体もそこらじゅうに飛び散り始め、ああ僕はもうダメだなと勝手に終わってしまうと思った。
「こっちへこい!」
僕の手を取り。
のぶちゃんはミリルム・クリフの巣と思われる場所へと転がり込んだ。なるほど、この広い空間ならあの通路よりは安全だろう。
「しかしなかなか上手く事は進んでくれないようだ」
僕の右手を握ったままのぶちゃんは剣を抜き取る。そのまま片手で前方へと鋒を向けた。
太い骨格の間に薄い飛膜が張った巨大な二対の翼。丸太のように筋骨隆々の四本の足。目があっただけで身がすくんでしまうような巨大な赤い眼。身体全体は分厚い表皮に覆われしかし白銀に光り輝いている。
周囲の空間にはばら撒いたように銀色の粒子が舞い、神聖とも思える雰囲気を醸し出していた。
「あれが……」
「ああ。あれが、ミリルム・クリフ〈絶壁の瘴気〉……。お前は後方に退避していろ。こいつの相手は私がする」
「で、でも……」
「私はこれでも剣の腕には自信がある。それにこの魔剣を使えばきっと大丈夫さ」
そう言ってのぶちゃんは僕の手をそっと離すと胸を軽く押して退避を促した。言われるがままに後方の壁際へと向かう僕。そうである。ちょっと念動力や魔力の素質があるといわれたってそんなもの何の役にも立たない。こんな魔物相手にどうこうできないのだ。他人が戦うのを尻目にただ突っ立っているしかできないのだ。
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