番外編 プレゼント Valentine's day
「バレンタイン?」
僕の言葉にのぶちゃんは不思議そうな顔をして復唱してきた。
「そうです。女の子が好きな男の子にチョコを渡すんです」
のぶちゃんはふーんといった顔でしばらく考え込むようにしたあとバッと立ち上がるとそのまま歩き出してしまう。
「ち、ちょっと? どうしたんですか?」
「用を思い出した。ちょっと町まで出てくるから適当に時間を潰しててくれ」
そうしてさっさと部屋から出ていってしまう。一体なんなのだ? ついさっきまで今日は暇なのだー、とか言っていたくせに。
部屋に一人取り残された僕は一人でいても仕方ないのでリリルのおっぱいでも揉みにいくかと城内へ繰り出していった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
バレンタインとは一体どうすればいいのか。私のこの世界にはない風習なようだし、しかし好きな相手にプレゼントを渡すいい機会ではないか。せっかくだから私特製のなにかを変態にプレゼントしよう。
しかしまず最初に困ったことだがチョコってなんだ?
恐らく形のあるものなのだろうとは思うが、そんな些細な情報で絞れる訳もなくただただ想像が膨らんでいくばかりである。
プレゼントというからには何か心のこもったものをあげたいが、ずっと形の残るもの、例えば指輪などあげたら引かれてしまうかもしれない。そうである。付き合ってもいないような相手にいきなりそんなもの渡したら相手は反応に困ってしまうだろう。
だったらここは手軽に食べ物、それもお菓子などでいいだろう。手作りにすれば愛情もこもるし、自分用に作って余ってしまったのだと誤魔化しもきく。
「となればまずは食材の買い出しか」
と。城を出て市場まで来たはいいのだがお菓子といっても何を作ればいいだろうか。チョコという名前から連想するに甘いイメージがある。まあお菓子はだいたい甘いのだが。
私は通りに並ぶ店を一つ一つ見ていく。取り敢えず使えそうなものを片っ端から買い込んでいこう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
棄民の頃の習慣が抜けないのか私もエリスも毎日城のお手伝いをしています。助けていただいた身としてせめてもの恩返しですね。
「お姉ちゃん、あれ」
食器を棚へ仕舞っているとよこからエリスが袖を引っ張ってきます。彼女の指差した法を見ると窓の外で巨大な紙袋を抱えた誰かが長い赤毛を揺らしながらこちらへ歩いてきます。
「ノエルさんじゃない?」
私は声をあげるとエリスの手を引いて彼女の元へ。そこにいたのはやはりノエルさんでした。そんな大きな荷物を抱えてどうしたのかと聞くと言いにくそうにもじもじしたあと、変態さんにお菓子を作ってやるのだといいました。
「でしたら私どもにお手伝いさせてください」
「しかしな……」
「させてよー。お菓子作る!」
「ははは……。そうだな。私はそもそも料理を得意としないし手伝ってもらおうか」
そうして私たち三人は食堂の厨房へと向かいました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あの湖上の小屋での一人暮しも気楽でいいものだったが、無理やり連れてこられたとは言えやはり王城での暮らしは楽だ。天蓋付きベッドは毎晩寝る前に寝具が交換されふかふかだし適当に食堂へ行けばいつでも食事が用意されている。
「環境が私をダメにするのだ」
私は一人鏡台の前に座り自身の銀色の髪を櫛でといていた。ほんとうならそこらへんの女官に頼めば髪ぐらいいくらでも梳いてくれるのだがこの髪は別だ。
「しかし暇だの」
この世界は娯楽が少なすぎる。町まで出ればあるにはあるが子供の私が行ける場所など限られているしそもそも外に出るのがめんどくさい。事前に頼めば食堂に行かなくても床を蹴るだけで食事が運ばれてきたりもするのだ。
コンコン、と。その時部屋のドアがノックされる。
「開いとるでー」
振り向きもせず鏡越しに返事をする。入ってきたのは春太であった。
「なんだ。なんか用か」
女子の部屋に来るとかこいつ結構度胸あるんだな。もっとチキンかとおもっとった。
「リリル」
「んん?」
「おっぱい揉ませろ!」
言ってこちらへダッシュしてくる。ドキッとしたが冷静に右腕を突き上げパチンと鳴らす。
「インセンタル」
瞬間、春太の体はどこからともなく現れた縄によってがんじがらめになった。
「しばらくそうしてじっとしておけ」
呆れつつも春太の顔面をまたいで部屋を出る。さて、どこへいくか。
と、どこからともなく甘い匂いがしてきた。
私は香りに釣られるようにフラフラと歩いて行ったのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
くそ幼女に拘束されて早三時間。やっとのことで魔法の効力が切れたのか、僕は自力で縄を解くとそのままリリルの部屋を出て自室へと向かった。
本当に今日はついてない。のぶちゃんもどっか行ってしまったしリリルも怒って出て行くし。まあ僕が悪いのはわかるのだけど一つ屋根の下に幼女の胸があるのだから揉まない方がどうかしている。
「昼寝しよ……」
と言っても窓の外をみる限りもう夕方だが。まあ夕食ができるまでゆっくりしていよう。
僕は低いテンションのまま扉を開けた。
『おかえり』
おお? なんだなんだ? なんで僕の部屋にみんないるんだ? というかお帰りって、僕を帰れなくしていたのはお前だろう。僕はベッドに腰掛けニヤニヤしているリリルを睨んだ。
「今日は私たちでお菓子を作ったのだ。女同士の親睦を深めるためにな。しかしだな、あー、作りすぎてしまってだな。だからほれ。これをお前にやろう」
長い前置きの末のぶちゃんは小さな細長い箱を差し出してきた。
次いでアルス・エリスも「お世話になってます」と正方形の箱を。
一人ふんぞり返っていたリリルも「ふん」と丸い箱を横してきた。
「お菓子ですか? こんな量を作りすぎたなんてまるで僕のために作ったみたいです、」
言い終える前に残像を描いたのぶちゃんのエルボーが僕のみぞおちにヒットした。
「細かいことはいいから」
床に埋まる僕にのぶちゃんの声が降ってくる。ほんと今日はなんだ? 厄日かなんかか?
僕はダメージが回復するのを待ち、まずのぶちゃんからもらった箱を開けてみた。
「……これは」
いびつな茶色い塊が4つ縦に並んでいる。懐かしい香りも漂ってきた。
「これチョコですか?」
「さあな。適当に材料を混ぜて溶かして固めただけだ。見た目に反してうまかったから作りすぎてしまったんだ」
腕組みして言うのぶちゃん。その隣でアルスとエリスがそわそわしていた。僕は次に正方形の箱を開ける。中には綺麗な形の塊が。二つはハート型で残り二つは星型だった。
「頑張って作りました」
「途中でつまみ食いしたけどねー」
うつむき加減のアルスとテンションの高いエリス。二人にお礼を言って最後、丸い箱を開けてみる。
「これは……!」
中には大きなドーム状の物体が二つ並び、それぞれにてっぺんにぽつんと出張っている部分がある。
「おっぱいだ」
なんでもないというふうにリリルがシレっと言った。まったくこの幼女は出来る幼女だ。
三つの、四人からの贈り物を机に並べ僕は彼女たちの方を振り返る。
「ありがとうございます。今日は最高のバレンタインデーです!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後僕は一つ一つ大切に食べたのだけど数時間後お腹を下しトイレに半日こもった。
いやあ味や見た目はまんまなのにやはり材料は違ったらしい。
一体彼女らがなにを使ってあれを作ったのかは今でも謎のままである。
間に合ってよかったです。




