第16話 潜入:secret trysts
のぶちゃんから聞いた事前情報によるとその魔物は「ミリルム・クリフ」と呼ばれているらしい。エルロットの森の奥深く。危険な毒の沼地が点在する森を抜けると開けた場所に出る。そこで何度か目撃されているのだという。
その姿は白銀に光り輝き、いかなる攻撃も通さない。半端な武器や魔法では一切のダメージは負わせられないということだった。
「そんな相手どうやって倒すつもりなんですか?」
ドラちゃんに乗る僕。前で指示を出しているのぶちゃんに聞いてみた。彼女は振り向かず前だけ向いて答える。
「中途半端がダメなら最強の武器で挑めばいいだけ。今お前に持ってもらっているのは城の地下宝物庫にあった魔剣・ドルミルマリルだ」
僕は言われて抱え持っている剣を見る。全長100センチほどの細身な剣である。全体は真っ黒で刀身に四本の溝が刻まれており、そこに真っ赤な液体が流れていた。
「こ、これなんかものすごく危ない感じのする武器なんですけど、使って大丈夫なんですか?」
「さあ。でも封印とかなにもされてなかったし大丈夫じゃないかな?」
パッと見、呪いの武器なんだけど、まあ大丈夫か。本当に危ないものだったら封印なりされているだろうしリリルが何か言ってきそうなものだ。
「と言うか今日はあくまで下見だ。その剣を使うようなことにはならないと思うよ」
「だといいですね……」
その後僕たちは乗り心地最悪のドラちゃんに二時間ほど乗りようやくエルロット地方へと入った。
「ふん。取り敢えずここで降りよう。沼地の毒は空気より軽いから上へ流れてくる」
そう言うとのぶちゃんはドラちゃんの頭をぶん殴る。相変わらずの手荒い指示だがのぶちゃんは何ら気にする素振りも見せずドラちゃんも殴られるがままに地面へと降下を開始した。
「絶向の指輪はちゃんとはめてるな?」
地面へと着陸しドラちゃんから降りた僕にのぶちゃんが確認するように言ってきた。
「ええ。ちゃんと。ほら」
言って右手を上げてひらひらと振ってみせる。
「いいだろう。大丈夫だとは思うが何が起こるかわからない。きみに怪我をさせることはないとは思うが万が一の場合は私はいいから自分の安全を最優先にするんだぞ」
ドルミルマリルを僕から受け取りつつ念を押すようにのぶちゃんは語気を強めた。普段とは違うのぶちゃんの雰囲気に若干気圧されながらもなんとか頷く。
しかし実際のところどうなのだ? 前回は念じて念じて、やっとのことでようやく本の浮遊に成功したのだ。もしも危険が迫っても対処のしようがないんじゃ。
「まああれだ。危機の場合は覚醒するのが普通だからな。なんやかんやで大丈夫だろう」
「ですかね……」
ものすごく不安になってきた。下手に念動力なんか使おうとせず全力で走って逃げたほうが得策かもしれない。
「逃げきれるといいがな」
「怖いです」
なんでこの人は不安を煽るようなことをいうのだろう。もしかして馬鹿なのだろうか。
「国王の娘を馬鹿呼ばわるするとかお前あれだな、怖いもの知らずだな」
「のぶちゃんが怖いというのは知ってますけど」
「しっ! あれだ!」
急にのぶちゃんが僕の口に自身の右手を当ててきた。思わず飛び上がってのぶちゃんの顔を見るがよく見るとどうやら視線で何かを示している。
その視線を辿って前方を見てみる。木々が生い茂る先。ちょうど開けた場所に岩が剥き出しになった箇所がありそこに高さ三メートル・幅五メートルほどの巨大な穴があいていた。
「あれは?」
「わからん。穴の手前の開けたところで目撃されているようだがもしかするとあの穴の中かもしれない。一応入ってみよう」
…………半端なく死亡フラグの香りがするが今日は下見だと言っていたしミリルム・クリフとかいうのがいるのを確認し次第引き返すのだろう。僕は小さく頷くとゆっくりとのぶちゃんのあとについて穴の中へと入った。
「暗いですね」
入口から五メートルほど進んだところで外からの明かりはほとんど届かなくなり一気に暗くなる。足元も岩がゴロゴロ転がっているせいで不安定だ。
「明かりをつけよう」
「? でも松明やランプとかない、」
「ルーチル・エスプリオシオーネ」
途端のぶちゃんの前方に直径十センチほどの光の玉が現れた。おかげで周囲がずいぶんと明るくなる。
「魔法ですか」
「ああ。うんこブースト。お前風にいうならシークイスト・フィン(笑)」
そう言ってポケットから茶色い玉を取り出してどや顔してくる。いちいちうんこの塊を見せなくていいし語尾に(笑)つけるのもやめてくれ。自分なりに一生懸命考えたのに。
「はっはっは。まあ怒るなよ」
快活に笑い僕の背中をバシバシ叩いてくる。振動でのぶちゃんのおっぱいも揺れていた。さすがFカップ。
「おや? あんなところに魔物が。金貨落とすかもしれないから狩っとこう」
のぶちゃんは腰に下げた鞘から剣を抜き取ると両手で構える。そのまま地面を蹴り魔物へと迫った。
剣が一閃、魔物の頭部を分断する。おぞましい悲鳴と液体が地面にばら撒かれる音。見てみれば壁や地面は赤というより紫色の液体が飛び散っておりところどころ肉片や白いぶつぶつとしたゼリー状の物体が飛散している。
そして魔物の身体と頭部の間に血塗れた金色の物体が落ちていた。
「ふん。たったの10000ユニカか。シケてるな」
「なんで魔物がお金落とすんですか」
雇用制度でもあるのだろうか。
「こいつら丸くて綺麗なものに目がないからな。人間を襲っては体のどこかに金貨を溜め込んでるんだ」
なるほど。カラスみたいなもんか。
その時。
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」」」」
突如前方の暗闇の奥から聞いたことのない声が聞こえる。人間のものではない、
「……ミリルム・クリフだな。どうやらここにいるのは間違いない。急ごう」
僕とのぶちゃんは闇へと消えていった。
誤字脱字の指摘・感想なんでも待ってます。
相変わらず別作品執筆のため不定期更新です。




