第13話 デシジョン・エンカウンター
のぶちゃんが静かに話がしたいというので僕たちはエレベーターを再度動かし、今度は屋上へと向かった。やはり一瞬の無重力のうちすぐに到着してしまう。
「こっちだ。あちらにベンチがあるからそこで話そう」
僕の腕を掴んでエレベーターから連れ出すのぶちゃん。驚いたことに屋上は広い公園のようになっており様々な植物が。少し歩くと屋根が設けられそこにテーブルとベンチが設置されていた。簡易の休憩所みたいなところである。
「いい景色だろう? ここはこの国にある人工物で一番高い場所なんだ。早朝なんかに来ると運がよければ雲の上から朝日が昇るのを見ることができる。寒いのが難点だがな」
「それで? 話というのは?」
二人でベンチへ腰掛け僕は彼女に話を振った。
「…………」
しかし彼女は言いづらそうにしてなかなか話そうとしない。これではいつもの彼女らしくない。いつもなら言いたいことをズバズバ言ってくるのに。
「言ってくださいよ。僕、何言われても気にしませんから」
ここまで良くしてもらっているのだ。話を聞かない方がおかしいだろう。
「…………そうだな。少し長い話になる。最近エルロットの外れにある森でへんなことが起きているんだ。そのために私は調査に行き君に出会った」
そういえば出会って話をしたときのぶちゃんはここに自然調査で来ていたと言っていた。しかしへんなこととはどういうことだ?
「あの辺りには固有の動物が住んでいるんだが最近凶暴化して人間を襲うケースが増えているんだ。その原因を探っているんだが、どうやらボス的存在の魔物がいて、そいつが原因らしい。それで……」
「……それで?」
「私と一緒にその魔物を倒して欲しいんだ。無茶なことを言ってると思うが頼む」
と言われても。僕、剣とか竹刀しか持ったことないし体術も柔道をちょっとかじった程度。魔法なんか使えるはずもないからまるで戦力にならないと思うんだけど。
「そうだな……。でもそうじゃない、お前は世界を超えてここに来た。できるはずなんだ、きっと。リリルの予見が正しければ……」
リリル? またあのクソ幼女がへんなこと言ったのか。どんだけ適当なこと言えば気が済むんだよ。今度あったら次こそ胸揉んでやる。
「誤解しないで欲しい。リリルは適当言うやつだが見ることに関しては一流だ。私自身何度も彼女には世話になっている」
……ではリリルのした予見とはなんなのだ? それと僕がどう関係しているのか。
「数ヶ月前、私は森の異常についてリリルに聞いたんだ。何か知ってるかと思ってね。その時彼女は言ったんだよ。『異常の原因はすぐに分かる。そして解決のためには他人の助力が必要だ』って。私はさらに聞いた。助力とは誰の力を借りればいいんだと」
「…………それで?」
「『近いうちにお前のピンチを救う者が現れる。そいつの力を借りればいい』って。だから実際に君が空から降って来て助けてくれたときは驚いた。と同時に君がリリルの言っていた人物だろうと思った」
そういえば。僕が初めてリリルの住む家へ行ったとき彼女は一番に「おう、お兄ちゃんいらっしゃい!」と言っていた。まるで最初から僕が来ることを知っていたように。つまりリリルは僕が異世界に飛ばされてくることを数ヶ月前から知っていたということか。
「それはどうだろうな。リリルはただ誰かが私を助ける未来を見ただけで、君個人がということは見えなかっただろ」
ふうん。じゃああれはただ事前に誰かが来ることを知っていたからああいう対応をしたのか? なんだかややこしいな。
「でも、それでも僕には特別な力なんてありませんよ。握力も三十二しかありませんし」
「うん……。でもあれじゃないか? 異世界にきたから本人もまだ自覚していない特殊能力が芽生えたとかじゃないのか? なにか強く念じてみたらどうだろう」
んなこと言ったってそんなことあるわけない。念じてみろって言われたって……。
僕は視線の先に置かれている鉢植えに意識を集中させる。強く、浮かべるイメージを……。
が、当然のように動くはずもなく鉢植えはそこに置かれているだけ。ほら、やっぱり能力なんて、
「うわわっ!」
隣から声。見てみるとのぶちゃんが服の胸元を抑えていた。
「? 何してるんです?」
「い、いや、なんか急に服がはだけて……」
よく見れば手の間から服が見える。ボタンが吹き飛んでいるように見えた。さすがFカップ。ボタンが吹き飛ぶなんて初めて見た。
「そんなはずはないんだが……。余裕のある服を着ているし今までこんなことはなかった。…………もしかして、これが?」
これがってなにが? まさかボタンを弾き飛ばすのが僕の能力だとか言うのか? まさかそんなわけあるまい。
「そ、そうだな。そんなわけないよな。すまん、ちょっと服を変えたいので今日はここまでにしよう。部屋まで送る。エレベータへ行こう」
「ええ……」
僕たちはベンチから立ち上がるとエレベーターへ。そして屋上から四十五階へ降りるとエレベーターを降り僕の部屋まで案内してもらった。
「じゃあ今日はこれで。ゆっくり休むといい。朝は適当な時間に起こしに来る」
そうしてのぶちゃんは廊下へと消えた。
僕はポケットへ手を突っ込むとあるものを取り出す。
それは先ほどのぶちゃんの服から弾け飛んだ銀色のボタン。
僕はこっそりと拾っていたのだった。
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