第9話 バカのリリル
膝まで届く長い銀髪。暗い室内でも妖しくギラリと光る大きな瞳。しかしその体躯は小さく八歳程にしか見えない。頭にはヘッドドレスをつけ、全身をあちこちにフリルのついたドレスで覆い足はブーツで覆われていた。
典型的なゴスロリファッションである。
「トエルド・リリル」
というのが彼女の名前らしい。有する能力は透視、千里眼といったいわゆるクリアボヤンス。有効範囲に制限はなく本人が忘れている記憶でもサルベージしてくることができ、さらに未来に起こることもわかるらしかった。
「こういう風に説明しても誰も信じない。みんながみんなリリルはすごい占い師だ! とか魔術師の素質がある! とか。うんざりだよ。占いも魔術もしらねーよ」
容姿に似合わず悪態をつくリリル。そりゃ周りに信じてくれる人がいなかったらそうなるわな。彼女が一人でここに住んでいるのもできる限り人と接触しないためかもしれない。
「でもお前は信じてくれるだろう? お前の元いた世界は魔物も魔法もないんだから」
バンっとテーブルを叩きこちらへ身を乗り出してくるリリル。ちょっと泣きそうな顔をしていた。
「信じます、信じますよ! なんたって幼じ、リリルさんのお願いですからね!」
危うく本人の目の前で口が滑りかけたがなんとか誤魔化す。こういう人に限って面と向かって幼女だとか幼いとかいったら切れるんだよな。
「でもリリルさん。あなたは僕のことわかるんですか? 信じてくれるんですか?」
「信じるもなにも見えるからな。毎晩お前がおっぱいをおかずに自家発電していることも覗きの途中にこの世界へきたこともまるっとお見通しだ!」
なんだと、そんなことまで見えるのか!? おいおい、僕の脳内は八歳児には刺激が強すぎるぜ。
「ところで春、いやこの世界では変態よ。隣に座っている金髪の姉ちゃんたちは……、ふうん。なるほど棄民か」
瞬間隣から殺気が放たれるのがわかる。見てみればアルスがリリルを睨みつけてそれを止めようとエリスがアルスの袖を引っ張っていた。
「はっは、そう殺気立つな。もうお前たちは人間になったようだしな。しかし私には見えるぞ。お前たちは今後も苦労を強いられることになる。だがまあコイツがいれば大丈夫なようだがな」
言ってジト目を僕に向ける。僕がいれば大丈夫って、でも今はまだこの世界にいるつもりだけどいつかは僕も元の世界へ……。
「そうだ、元いた世界、僕の元いた世界に帰る方法を聞きたいんです」
そうだ。リリルに聞けばわかるかもしれない。のぶちゃんもそのためにここへ行くよう言ったのだから。
「お前もノエルから聞かされている通り世界と世界を行き来する方法は複数ある。いろいろ試せば帰ることも叶うだろう。もっとも確実な方法は他の超能力者に手助けをしてもらいつつ『三径の正静』の時、転移を行うこと」
ノエルとは誰だと思ったがそういえば確かのぶちゃんの名前がノエル・ブランエッド・シェロンリズナだった。そこから取ってノエルなんだろう。のぶちゃんがリリルを紹介したことから二人は知り合いでもあるようだし。しかしそれよりも三径の正静ってなんだ? 転移魔法的な?
「だからこの世界に魔法はないと。三径の正静とはいわば強力なエネルギーを発生させ空間に穴を開ける。そこに飛び込んで転移終了だ」
「ち、ちょっとはしょりすぎ! 詳しく」
「この世界、というかこの星には三つの衛星が回っている。そしてその衛生が一直線に並ぶとき一時的にこの星の周りを覆っている磁気圏が消失する。一方、太陽の太陽嵐は数年周期で活発になっていて近々最大の太陽嵐が発生する。三径の正静とはその二つが重なること。この星の磁気圏が消失した瞬間太陽嵐がこの星を襲うのだ。その際に得られるエネルギーを収束して一瞬だけ時空に作用し世界と世界をつなげることができる。とは言っても収束時に必要な処理演算は膨大なのでそこは他の超能力者に頼む。それでうまくいけば転移できる…………といいな」
「えっ」
僕の正面でリリルが申し訳なさそうに目をキョロキョロさせている。ちょっと、最後の、といいなってどう言う意味? 出来るの出来ないの?
「知らんわい! この世界に来た時と逆のことすれば帰れるんじゃないの!?」
「キレるなよ!!」
なんかそれっぽいこと言ってたから期待してたのに適当かよ。僕の期待返せよ……。
「お詫びに一つ見えたことを言うと、お前の未来を見ようとするとしばらくノイズが走って見ることができん。だがどれくらいあとかは分からんがお前が元の世界で暮らしているのが見えるぞ」
ん? ということはいつかは帰れるってことか?
「私も一時期見えんところがあるのは初めてだ。でもまあ来れたんだから帰ることもできるんじゃね?」
「適当だな、おい」
「なんだよ! そんなに信じられないなら魔術でもなんでも頼ればいい!」
「お前さっき魔術なんかねえって言ってたじゃねーか!!」
「私が持論でそう思っとるだけだ。世の中には魔術を使うやつもおるわ!」
なんだよそれ。あ、そういえばあれか? ここに来るとき乗った木舟。あれ勝手に動いてたけどあれが魔法か?
「ああ、あれは私のじいさんに作ってもらったんだ。じいさん魔法使いだから」
…………それ、孫のお前も魔法使いなんじゃないのか? 自分が超能力と思ってるだけで本当はお前も魔法使いなんじゃないのか?
「そうだよ! 小さい頃から糞じじいにお前は将来大魔法使いになるんだぞとか言われて毎日シゴかれてたから反抗しようと自分は魔法使いじゃないって突っぱねただけだ!」
なんだよこいつ、ただのわがままロリ魔法使いかよ。めちゃくちゃじゃねえか。
「しかし超能力でも魔術でもお前がいつか帰れるというのは事実見えたことだ。ゆっくりまてばいいさ」
「何ちょっとまとめようとしてるんだ。お詫びとして胸揉ませろ」
僕は立ち上がるとリリルへ迫り寄る。リリルは立ち上がり後ろへ後退するがしかし小声で「仕方ないな……」といい無い胸をグッと差し出してきた。
「冗談だよ!」
僕は思い切りリリルの頭を叩く。するとリリルは頭を抑えてうずくまってしまった。
「変態さんサイテー」
「サイテー」
後ろから声。振り向くとアルスとエリスが覚めた目でこちらを見ていた。
うずくまる幼女とジト目で見てくる女の子二人。
僕はもうどうしたらいいか分からず心の内で泣くしかなかった。
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