第7話 夢の時間! ガンゴルのドミルソース!
「とりあえず到着だな」
トロッコ急行は既に停車し、僕たちは駅へと降りていた。様々な人と声でごった返す駅舎は数階分ほどの吹き抜けで天井は光を取り込むようにガラス張りになっていた。
「昼間はああして陽の光を取り入れているんだ。夜になると隠すがね」
トランクをゴロゴロ引きずっていたのぶちゃんが教えてくれた。なんだろう、空間全体が嗅いだことのない香りに包まれている。なんだかお腹が減ってきた。
「そうだな。お昼にしようか。私もちょうどお腹がすいていたんだ」
のぶちゃんはそう言うとすたすたと歩いて僕たちを先導する。後ろにはのぶちゃんの部下数名とアルス、エリス、そして僕がついて回った。
「なにかリクエストとかはあるかな? と言ってもここの駅舎に入っている食べ物屋はどれも庶民のレベルだ。そんなに豪勢なものはないけど」
「そうですね……。肉、ですかね」
ここは異世界。もしかしたら漫画によく出てくるあの肉があるかもしれない。せっかくだから食べてみたい。
「肉か。肉肉……。肉がうまい店は……」
ぶつぶつ独り言を言いながらのぶちゃんは歩き回る。たくさんの店の前を通り過ぎ中から漂ってくる料理の香りに僕の空腹中枢はえらく刺激されてしまう。
「……ここか、な? 肉といえば」
駅舎の吹き抜けのロビーを抜け、幅十メートルほどの通路。さらにその通路から幅五メートルほどの通路へ入り、そして遂にはほぼ三メートルほどの通路へ。
そしてのぶちゃんがここだと連れてきたのは小さなお店だった。外観は薄汚れていてなんだかちょっとマイナーな居酒屋みたいな雰囲気だ。
立て付けが悪いのかのぶちゃんはガラガラと大きな音を立てて扉を開け店内へ。僕たちもあとについて中に這入る。
「うおっ」
なんだろう、店内はタレの匂いというのか? いかにも白飯に合いそうな匂いに満ちていた。いかん腹減ってきた。となりでは涼しい顔してアルスがじゅるりと舌なめずり、エリスは生唾を飲み込んでいた。
「おう主人! 私だ。今日は少し大人数でな。裏のあれを頼む」
カウンターの向こうにいたのぶちゃんが主人と呼ぶ人物。白髪まじりの頭に顔は深いシワで覆われ若干眉をひそめている。六十歳くらいかな。
「三十七だ」
「老けすぎだろう!」
どういう過酷な労働を強いられればあんな姿になるのか。料理屋ってそんなにハードワークなのか? 日本のブラック企業じゃあるまいし……。
「はっはっは。気になるか? 主人があんなに疲れているわけを。それはまあこれからわかるわ!」
快活に笑いながら店内を進み奥の壁際へ設けられたお座敷へと座った。もっとも畳なんてものはあるはずもなく木の床に薄いクッションが敷かれているだけだったが。
「まあおしぼりで手でも拭いて水飲んで待っているといい。おっと、そういえばここらの水は硬度が高いからあんまり飲み過ぎるなよ」
下痢になるぜ、とのぶちゃんは悪い顔をして僕の脇腹を肘でつついてきた。硬水というやつか? 僕は飲んだことないのだけど。
「にしてもなんというか、はっきり言って汚い店だな」
「仕方ないさ。店員はあの主人しかいないし、主人自体たまに店にいないときがある。今日店が開いていたのはちょっとラッキーなんだよ」
あの主人何をしている人なのだ? たまに店にいないって。
「……お待たせぇ」
その時。主人が大きな盆を持ってやってきた。座っているので盆の中は見えないが、
「最初に彼に渡してやってくれ」
のぶちゃんはそうして僕の肩に手を置く。料理の一皿目は僕のもとへとやってきた。
「こ、これは……?」
「肉だ」
皿にはりんご一個分ほどの巨大な肉の塊が置かれ周りには表面に油の浮かんだ濃厚そうなソースが溜まっている。付け合せにと横には蒸したいものようなものが添えられ美味しそうな匂いと湯気を発していた。
僕はナイフとフォークを手に肉を切りにかかる。肉はフォークで抑えなくても難なく切れるほど柔らかく、またナイフの刃を少し添えただけで中から肉汁が溢れ出てきた。一口大に切り、ソースを付けて口へ運ぶ。
「…………!」
「どうだ? 美味しいだろう?」
僕は無言で頷き、さらにもうひと切れ。
先ほど切ったところから覗く肉の断面は細かな層が何層にも折り重なりその隙間から常に少しずつ汁が溢れている。肉は少しピンク色で生焼けかと思ったがなんだろう、ほのかに鼻に抜ける甘い香りがある。
「この肉はガンゴルという動物の肉でね。ガンゴルはベルサイトの実と葉しか食べない。だから肉に臭みはなく甘い香りさえするのさ。さらに周りのソースは貴重なクロク牛のミルクをベースに様々なスパイスを加えた特製でドミルソースと言う。そしてさっき君が不思議に思っていた主人のことだがこの肉、ガンゴルを捕まえるために主人はたびたび森に行っているんだ。ガンゴルは肉こそうまいが外見は醜く、さらに気性も荒いことから滅多に流通していない。ここは数少ないこの肉の料理が食べられる店なんだよ」
僕は横で話すのぶちゃんに耳を傾けつつも無言で肉を頬張り続ける。なるほど、どうりで主人がやけにくたびれた感じなわけだ。しかしこの辺は硬水といっていたがそれも関係しているのかもしれない。硬水は煮込みに使うと肉の臭みを消し柔らかくすると言うし。
僕はそうして食べ続け、しばらくすると続々と他の人たちの分も運ばれてきた。のぶちゃんと愉快な部下たちも美味しそうに食べ、アルスとエリスに至っては若干がっつきすぎではないかという勢いで口の周りを汚しつつ食べていた。
最後に残ったソースは後から運ばれてきたパンに絡めて食べ、そうして僕たちはみんな綺麗に完食した。残す人なんかいない。
この料理は今まで食べた肉料理の中で最高のものであった。
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