声のデカい男⑧
時間がたち、話題が低俗になっていき、そうなると片岡はいよいよ勢いづいた。座席も流動的になり、グループ間をあちこち移動する人たちも現れた。僕はテーブルの反対側の方を見た。しかし、さっきまで丸顔の女が座っていた席には、丸顔でない女が座っていた。ぐるっと見渡してみたが、丸顔の女を見つけることはできなかった。
上級生があちこちに散らばり、会話をリードしたり、サークルへの勧誘に励んだりしているなか、僕らの席はしばらく新入生しかいなかった。そこへ、上級生の男が二人、混じってきた。一人は一見しらふのいかにも真面目そうな男、一人は赤ら顔のなんとも軽薄そうな男。赤ら顔の男がビール瓶を片手にうれしそうに言った。
「お、ここ飲んでる組? いいね、盛り上がってんじゃん」
羊たちの顔が引き締まった。
片岡の顔は緩み切っていた。「最高だよ、一緒に飲もうよ」とタメ口を発した。
「本当はダメなんだけどね」と口では言いながら、赤ら顔の男は片岡になみなみと酒を注ぎだした。隣のしらふ顔の男は、切れ長の目をますます切れ長にして、何も言葉を発しなかった。内容のない会話が片岡と赤ら顔の男を中心に繰り広げられた。アルコールが回ってきて、いつもフル稼働している僕の大脳新皮質もさすがに麻痺しつつあった。祭りのような空気感が僕にとっては新鮮で、心地よく感じられた。しかし、それでもしぶとく生き残っていた自制心は、隅で黙々と酒をあおり続けるしらふ顔の男を観察していた。しらふ顔の男は、ビールが入ったグラスを何度空けてもずっとしらふ顔のままだった。そして、空になったビール瓶と自分のグラスをじっと数秒くらい見つめ、不意に立ち上がって席を離れて行き、遠くのテーブルから透明の大きい瓶を持ち帰ってきた。それから、一層早いペースでその新種の飲み物を飲み始めた。「それ何ですか? 酒ですか?」と、ある羊が聞くと、
「ああ、焼酎だ」と、しらふ顔の男は短く答えた。それきり、しらふ顔の男はまた黙々と酒を飲み続け、僕たちは無意味な言葉のキャッチボールに興じた。このまま果てしなくキャッチボールが続いていきそうに思えたところで、片岡が「ションベンしてくる」と言って出て行った。しばしの沈黙の後、赤ら顔の男が場をつなぐように喋り始めた。僕も、ある種の責任感から、これに答えて喋り出した。片岡はなかなか帰ってこなかった。会話は徐々に内容を取り戻していった。祭りは終わった。すると、それまで無口だったしらふ顔の男が発言を始めた。




