声のデカい男⑨
「君らはさあ、説明会来てくれた? うちの活動に興味持った?」
向かいにいる羊の、グラスを持つ手が止まった。僕も話題の転換についていけずに一瞬頭がフリーズし、大急ぎで大脳新皮質のスリープ状態を解除した。もらったビラにサークルの活動を紹介する説明会の日程も書いてあったことを思い出した。羊の一人がたどたどしく言った。
「はい、行きました! 面白そうだなと思いました」
「そう」しらふ顔の男は表情を変えない。「どんなところが?」
「あ。えー、あのー」
気まずい時間が流れる。僕はゆっくりと手を伸ばし、グラスに口をつけ、おそるおそるしらふ顔の男を見た。
しらふ顔の男は満面に笑みを浮かべていた。ゾッとするような笑顔だった。でもそういう風に感じたのは僕だけだったのかもしれない。彼は、満面の笑みにふさわしい、軽やかでやさし気なトーンで言った。
「ごめんごめん。問い詰めるつもりじゃなかったんだ。是非みんなに入会してほしいと思ってね。突っ込んで聞いてしまった」
「いや、すいません。そうですか、はは。すみません」
羊は、締まりのない返事で答えた。
「説明会に来てない人も全然ウェルカムだから、大丈夫だよ」
赤ら顔の男が会話に入ってきて、しらふ顔の男の方を指さした。「こいつ、気難しいところもあるけど真面目なだけだから。頭もいいし、話聞いてると勉強になると思うよ」
しらふ顔の男は無表情で焼酎をあおった。僕は、赤ら顔の男の言葉を聞いて安心しつつも、体の強張りが完全には解けないのを感じた。
「彼はさあ……」
と言って、しらふ顔の男は、僕の肩越しに向かい側のテーブルの方を見た。僕は、その目線を追って後ろを振り向いた。すると、片岡がテーブルを挟んだ反対側の席におり、こちら側を向いて座っていた。隣には、さっきからずっと所在を見失っていた丸顔の女がいた。僕は、振り向きざまに真正面から丸顔の女を見る格好となったが、即座に前に向き直った。自分の体温が二度くらい上昇するのを感じた。そして、心を落ち着かせて今目撃した光景を思い浮かべようとした。僕が脳内で再生する光景の中で、片岡と丸顔の女は二人だけで親しげに話をしていた。それに片岡の様子は、さっきまで大声ではしゃいでいたのと打って変わって、じっくりと、落ち着いていた。
「うちのサークルには合わないよね」
底冷えのする声が降ってきた。僕はハッとして、しらふ顔の男の顔を見た。
「君は是非入ってよ」
僕はどう答えてよいか分からず、あいまいに会釈をした。もはや場を支配しているのはしらふ顔の男だった。羊たちは沈黙していた。赤ら顔の男が右手を慌ただしく振りながら言う。
「おい、待てよ。 あいつ面白いし悪い奴じゃねえって」
しらふ顔の男はそれには答えず、「じゃあ、また」と言うなり、赤ら顔の男を連れて、別の席へと移っていった。




