声のデカい男⑥
片岡は、まさに「膝を打って」喜んだ。僕としては曖昧に笑っているほかなかった。羊たちは、「おもしろそう」とか「誘われたから」とか漠然としたことを言っていた。片岡は調子に乗り始めた。
「いやいやいや、ぜってー女目当てだろ。お前とか女好きだろ」
「自分はそんなんじゃないって~」
片岡に絡まれた本人は、ヘラヘラしながら否定した。その隣に座っていた酒を飲まない羊は、苦々しい顔をしながらスッと立ち上がると、そのまま無言で離れていった。片岡は、その様子を見て表情を硬くした。
「あいつ、俺のせいで機嫌悪いのかな?」
片岡は心配そうに言った。どうやら自分が何かしたということは分かるらしかった。僕は、去って行った彼の気持ちを代弁して言った。
「そりゃあ、あれだけ問い詰められたらね。酒を強要されたと思ったんじゃない?」
「え! 飲めとか一言も言ってないじゃん。ただ気になるから聞いただけだし」
これを聞いて羊たちは、一斉に「冗談だろ」と言いたげに眉をひそめた。僕の眉もおそらく同じ形になっていた。
「だって、バレたら何かヤバいことあんのか、結局よく分かんないから」
片岡は、そう言うと、まるで人類史のミステリーだとでもいうように眉間にしわを寄せ、口をすぼめた。
「目黒は、なんであいつが飲まないのかって分かった?」
「いやまあ、何となくは」
「マジで? どういうこと? 教えてくれえ」
片岡の口調が哀願調になった。どうでもいいことをそれほど気にする片岡の様子が可笑しかった。
「違法だからやめとこうってことでしょ」
とりあえず常識的な回答をしてみた。片岡は、待ってましたとばかりにさっきと同じ質問をぶつけてくる。
「違法でも別に困ることないんでしょ? 捕まらないよね?」
「捕まらないよ。罰則もないし」
「退学にもならない?」
なるほど、バレたら困ることになるのではないかと心配しているのだな、と僕は思った。
「退学もないでしょ。そんな奴大量にいるんだから、全員退学にしてたら大変なことになるはずだよ」
しかし、問答は意外な方向に進んだ。
「じゃあやっぱり不利益ないし、おかしいじゃん」
「不利益がなくても、法律に違反するのが怖いみたいなことだよ」
「いや、だから不利益ないなら怖がる必要ないじゃん」
バレても大したことはないと教えてやったはずなのに、片岡の真剣さが増している。さて、人はなぜルールに従おうとするのか。僕は一つの仮説を立て、それを披露した。
「要は、ルールに従わない人間だと思われたくないってことなんじゃないかな。他人に」




