声のデカい男⑤
「カンパイ」という呪文が唱和され、みんなが一斉に動き出した。僕もグラスに意識を戻し、ビールに口をつけた。特に美味いとは思わないが、不味くて飲めないということもない。片岡は、ビールが半分ほど減ったグラスを持ちながら顔中に渋面を作っていた。
向かい側を見ると、酒を飲むことにした羊も酒を飲まないことにした羊も、一緒になって黙々とテーブルの上にある軟骨唐揚げを食べている。片岡は、酒を飲まないことにした羊を見て、顔色を窺っていた。僕は、片岡がまたさっきの話を続行しようとしているのではないかと察知し、阻止することにした。
「あそこにサワーぽいのもあるじゃん」
透明な大型容器を指し示すと、案の定片岡は、「ピッチャーごと持ってこよう」と言って桃色のそれを持ってきた。半分残ったビールを一気に飲み干し、再び渋面になると、片岡は空いたグラスにそれを注いだ。時間が経つにつれて、酒を飲まないことにした羊が僕らのテンションに取り残されるようになっていった。他の席を見渡すと、飲酒派の方がだいぶ少数派のようだった。タイミングを見計らい、丸顔の女の方を見た。その席ではビール瓶は脇に追いやられ、丸顔の女の向かい側に座る男ばかりがしきりに何かを喋っている。僕は丸顔の女と話してみたいと思った。しかし、その長テーブルはあまりに長く、端と端ではとても会話はできなかった。
気がつくと、片岡の顔は真っ赤になっていた。そして、ただでさえデカい声がますますデカくなっていた。
「女がいっぱいいるからに決まってるっしょ」
と、片岡はストレートに表現した。飲む羊のうちの誰かが、このサークルに入ろうとする動機について尋ね、片岡が放った答えだった。そもそもこいつはここに入会する気があるのだろうか。僕は訝しみ、その下品さにあきれつつも、なんだか妙な清々しさをも感じてしまった。片岡と目が合った。
「目黒は?」
「そうだな、いろんな活動をしてて勉強になりそうだし、就活にも役立つかなって」僕はそう述べると、自分でも思ってもみなかった一言をこっそり付け足した。「それにやっぱ女の人も多いから」
冗談のつもりで言ってみたものの、ビラをもらったときのことを思い出してみるとまんざら嘘でもないような気がしてきた。




